第9話

今日の朝から…いや、昨日からずっと先輩を避けていた。


いつもなら一緒に登校するし、休み時間の度に先輩の教室まで会いに行っていた。だけど、何かと理由をつけて会いに行かなかった。


いや、行けなかった。


とりあえず、今日は先輩と会わずに済むかと思っていたのに


「心桜、」


どうして、昨日の今日で教室に来るとは思わなかった。


一応喧嘩したし、柊先輩だって昨日怒ってたのに。

…沙紀先輩のために。


とにかく、いま会っても気まずいだけ。


「先輩、なんで…」


「昨日のことちゃんと話したい」


ですよね、、会ったら絶対その話しになると思った。昨日ずっとメールも電話も無視したから、気まずい。


もちろん話し合うべきなんだろうけど、私だって頭を冷やす時間が欲しい。


"距離を置きたい"

なんて言っても今の柊先輩が許してくれるかどうか…


でも、他になんて言えば…


「えっと、」


「あれ、心桜ちゃん宿題しなくていいの?」

遥希くんが話しかけてきた。


「宿題…?」


何のだ?宿題なんてあったか?


「次の授業の宿題してないから、休み時間にするって言ってたじゃん。忘れたの?」


そんな話してな…


「あ、あぁ、そうだった。てことで、忙しいのでまた今度。あと、今日ちょっと用事あるから一緒にお昼食べられない」


私の心情を察してくれて咄嗟に嘘をついてくれたんだ。


昨日は話し合った方がいいよって言ってたのに、私の気持ちを尊重してくれる。


分かってる。私もずっとはこうしてられない。


「用事って?」


私に疑いの目を向ける。

そりゃそうか、ずっと避けてたから。


それに用事なんてものは無い。


「それは…」


今はただ、柊先輩と沙紀先輩が一緒にいる空間にいたくない。だから嘘をついた。


また一人の世界にいる気持ちになる。虚しくなる。


そして、きっと沙紀先輩にも酷いことを言ってしまうから。


「俺の相談に乗ってくれるんだよね」


遥希くん…

ほんとに、嘘ばかりつかして申し訳ない。

後でジュースでも奢るか


「そ、そうそう」


「放課後は?」


ほんと、毎日柊先輩といたんだな。

…沙紀先輩もいるから二人きりではないけど


「えっと、お母さんに早く帰るように言われてて、だから、ごめん」


「分かった。…電話には出なくていいから、メッセージに返信だけはして。心配だから」


わざと出なかったことバレてる…


そりゃそうか。普段の私は面倒臭いくらい電話したり、メッセージ送ったりしてたんだから。


「…分かった」

「じゃあ、また明日」


明日…

明日はちゃんと言おう。


しばらく距離置きたいって。





柊先輩の背中はどこか悲しそうに見えた。

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