第1話

「あ、柊君!おはよう!」


「彩音さん。おはよう」


柊先輩は人気者で、困ったことに…凄くモテる。


「これ、この前貸してもらったノート!すごく分かりやすかった!」


貴方も…すごく分かりやすいですね。柊先輩の事が好きで、私のことをライバル視してるってすぐに分かっちゃいましたよ。


私のいる前でわざわざ返さなくたって、教室同じなんだから、別に入ってからでも良くない?


ただ見せ付けたいだけとしか思えない。


私が気にしすぎなだけなのかな。


「それなら良かったよ」


「あのさ、勉強教えてくれない?」


うわ、出た。


勉強を口実に先輩に近づこうとするのやめてもらってもいいですか。


「もちろん。俺でよければ」


先輩は鈍感だからこの人の策略に気づいていない。


「放課後、二人きりで教えてくれる?」


二人きりは普通に考えてダメでしょ。


「んー、それは…二人きりじゃなければ」


「えー、どうして?もしかして…」


すんごい睨むじゃん?

え、怖。


「流石に二人きりは…ごめんね。俺には彼女がいるし、」


というか、彼女の前でそんな発言できるなんて、この人なかなかやばい。


「えー。二人きりの方が勉強も捗っていいのにー」


いいのはあんただけだろ。


「ごめんね、休み時間に教えてあげるよ」


「何もないのに?駄目なの?何、浮気するかって?柊君の事信じてないの?」


そう言う問題じゃない。先輩の事は信じてるけど、あんたの事は信じてないからダメに決まってる。


「こら、そんな言い方しないの。心桜が怖がってるでしょ」


「柊先輩の事、信じてますけど…それでも…いや、です」


嫌なもんは嫌だ。


「うん。心桜が嫌がることは俺もしたくない」


「じゃあ今教えてよ。みんないるからいいでしょ」


確かに周りに人はいるけどね、うん。そういう事じゃないんだよなー。


下心丸出しの人と一緒にいて欲しくない。


「それならいいよ」


いや良くないよ…


「じゃ、行こ!」

ちゃっかり腕まで組んじゃってるし、


「その前に、心桜を教室まで送ってくるよ」


「え、そんな事までしてもらってるの?」


この人、わざと私にだけ聞こえる声で、完全に子供扱いじゃん。カップルじゃなくて兄弟にしか見えない〜って言いました。


私にはハッキリ聞こえました。けど、先輩には聞いてなかったみたい。


事実だから、否定できないし、悔しい。


「私…大丈夫!一人で行けるから」


「え、ちょっ、心桜?」


あの人の視線?眼力?に耐えられなかったし、なんか泣きそうになったから。


あそこで泣いたらどうせまた馬鹿にされる。


先輩の引き止める声も聞かずに自分の教室に向かって走り出した。

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