閉じ込められたVRMMO世界の中で、 狙われているリーダーを全力で守り抜き……全ての事は、副リーダーの俺がやる。
udonlevel2
私の身に起きた事、そして私は狙われる……
第1話 閉じ込められたこの世界で――
『ファンタジープラネットオンライン』通称『FPO』
数年前に発売されたこのゲームは、仮想空間で何でも自由に、自分のやりたいように生活できるという謳い文句で大人気のフルダイブ型VRMMOだ。
VRならではのリアルな戦闘はもちろん、生産・農業・採掘に釣りなどのコンテンツも充実し、様々なプレーヤーが各々の楽しみを見出している。
普通は地道に生産系を上げて、競売で生産品を売り買いしながらお金を貯めて行ったり、仲間と冒険してアイテムを手に入れたりといったことが主流だろう。けど、私はそんなツマラナイ事したくなかった。
この世界で私は恋人を作ったり別れたり、より強い男性プレイヤーと一緒になるべく男を落として楽しんだり……うふふ、重い出したらよだれがでちゃうわ!
自分を危険に晒したくない戦闘では、姫プレイを出来るようにと回復職をメインにした。か弱いお姫様を演じていれば、勘違いした従者はついてくるし、勝手に色々と贈り物を持って来たり、それはもう快感以外の何者でもない!
金銭面はどうするかって? そんな事は心配しなくても大丈夫。だって、リアルマネートレードが出来たものね!!
勿論規約で禁止されている行為だけど、スリルを味わいたくて私はしょっちゅうやっていたし、それでも足りなくなったら、真面目にコツコツ金策している『妹』のファリスに金を貰いに行っていた。
あの子ってば私専用のATMよね。脅せば直ぐお金渡してくれるもの。
この世界に閉じ込められたと気づいた時、今まで以上に刺激的な生活がスタートすると、(今の)ネット彼氏のカジ君と手を繋いで飛び跳ねたものだ。
――でも、現実はそんなに甘くなかった。
私たちは装備を新しくしたばかりで、お金が全くなかった。
ゲームでは禁止されている行為までして沢山お金があったのに、今ではそれも出来ない事に気づき、これからどう金策していくのかも話し合わないといけない。
お金稼ぎの方法は色々あるけど、実際自分たちが何処迄できるのかは不透明でもあった。何より住む家と、食事と、どうすればいいのか最初は解らなかった。
情報の聞き込みで、バザーで売っている料理が根こそぎ消えていくのを聞いて、急いでバザーに駆け込んで食事を買ったけれど、素朴なクッキーくらいしか残っていなかった……。
そして家は今までなら運営が貸していた『モグリッコハウス』が無料で使えたのに。
それも消えて使えなくなっていて、チームハウスを持っていなければ、新しく出来たエリアである自分の庭、もしくは島と呼ばれる家で生活するしかない事も知った。幸いモグリッコハウスで使っていた家具はアイテムボックスに収納されていた。
急ぎ確認にいったけれど、ベッドも1つもない部屋で……ただの掘っ立て小屋のような家に私は耐え切れず叫んだ!
「ベッドが無くて床で寝るなんて絶対嫌だわ!」
急ぎベッドを買う為バザーに走ったけれど、売っていたのは素朴な鉄パイプのベッドのみ……。ベッドにはそこで寝ると『幸福度』が上がるものがあるけれど、鉄パイプのベッドでは、幸福度は1しか上がらない。無いよりはマシだと思い購入し、ぼろっちい南国風味の家に置いた。
「これからはこの島が拠点で生活しないと行けないの……? こんな掘っ立て小屋みたいな家と、田舎臭い庭しかない場所で?」
料理を作れるだけのスキルもない。
家具を作れるだけのスキルもない。
装備を作れるだけのスキルもない。
武器を作れるだけのスキルもない。
弓や弾丸を作れるだけのスキルもない。
自分が如何に生産系を上げていなかったのか理解し、これは不味いと思ったけれど、生産系なら言葉巧みに連れてきて必要無くなれば捨てる『妹』を頼ればいいじゃないと開き直り、暫く私の島に来ていたカジ君とイチャイチャしていた。
お金だって妹から搾り取って行けばなんとかなるし、本当に搾取する相手がいるって楽だわ。
外は荒れていたらしいけれど、閉じ込められて慌てるなんて不思議。
これから楽しい事しかないと思えばヌルゲーに近いっていうのにね?
これから先の未来なんて語り合ったりして、でもそろそろお腹も空いてきた事だし、生産くらいでしか役に立たない妹でも呼びだそうかとフレンドリストを開いた。
すると――。
「おい! お前の妹ログインしてねぇぞ!」
「は?」
「もしくは、ブロックリストに入れられてるんじゃねーのか!?」
「嘘でしょ!?」
その言葉にフレンドリストを開いて必死に妹を探していくと――ログインしていないフレと同じ灰色になっていた。
何度も通話できないか試したけれど、全く反応は無かった。
メンテが始まる前まで、バルムーク王国にいた筈だわ。
それは確認している。
絶対ログインしていた筈なのにログイン表示が消えてるなんて、考えられるのはただ一つ、ブロックリストにぶち込まれたんだ!!
「あの糞野郎! 見つけたら殺してやる!」
「奴隷みたいに働かせてやらねぇと気が済まねぇ!」
そう叫んだ時だった……。
モグリッコの一匹が飛んできて「ブブー」とバツを手にして「注意だモグ」と語り始めた。
「この世界では、街の中で攻撃したり命に係わる事をすれば、警備の魔法が発動してゲームキーパーが召喚されるモグ。そうなったらまずは普通の監獄に入るモグね? ペナルティモグ。もしゲームキーパーの手に負えなくなったら、ゲームマスターが召喚されて……後はお察しモグ」
「ペ、ペナルティですって……? 私たちは当たり前のしつけを」
「攻撃と思われた時点で発動するモグ。監獄行きは地獄行きと同じ辛さがあるモグよ? それでいいなら街中で攻撃すればいいモグ」
「「…………」」
「一番は自分で生産スキルを上げる事モグね? 何事も地道が一番の近道モグねー」
そう言ってパタパタと外へと飛んでいったモグリッコに、私とカジ君は絶望した。
この世界の生産スキルは上がりにくい……。
上がったとしても、何をメインに上げればいいのか……。
「ま、まずは調理スキルを上げないとね!」
「だが金がないぞ」
「う~! 炎の魔石はあるから、お金は掛かるけど羊を倒して肉をゲットして、ステーキで上げるしかないわ。私効率いい生産のあげ方しらないもの! カジ君は知ってるの?」
「は? 俺が知る筈ねぇだろ。てか倒したらアイテム地面に落ちなきゃいいが……」
「物は試しよ、この国は羊が多いし行ってみましょう!」
こうして私はカジ君と一緒に少し残ってる炎の魔石を手にして外に出ようとしたけれど――。
「畑はしないモグ?」
「……するわよ」
「手っ取り早く食事の材料が取れるモグ。頑張るモグね~」
「ああ、モグリッコを雇えるらしいから、そいつらに畑を任せるってのも手だぜ」
「そうなのね、じゃあモグリッコを雇って何とか稼いで生活しなきゃ……」
「ったく、お前の妹が馬鹿じゃなけりゃ贅沢出来たのによ……。今までの恩を仇で返しやがって!」
「全くだわ! 時間が出来たら後でバルムーク王国にいってみましょう!」
こうして畑に種を購入して種をまき、水のクリスタルを置いてカジ君と町の外に出る。
むわっとくる外の空気はやはり異世界なんだと理解出来て……羊やウサギが肉を落とす事は知っている。
後は飛び跳ねてる玉ねぎが、稀にレアな玉ねぎを落とす事は。
確か食べられたはず……よね?
各自狩っていく事になったのだけれど、他の冒険者も沢山いて羊は狩りつくされていた。何とか数匹倒せたけれど、肉は落とさなかった。
手に入れられたのは、玉ねぎが2つだけ……。
それでも必死に羊を探して追いかけて、違うエリアにいる羊も倒してやっと肉をゲットする頃にはお腹ペコペコで……。
炎の魔石で肉を焼けば羊のステーキが出来るのよね!
スキル1から作れる筈だわ!
そう思ったけれど、何とか二人分は出来たが、スキルは一切上がらなかった……。
食べてみたけれど塩も振ってないステーキであまり美味しくもない。
「美味しくないけど……食べないと体は持たないし……ね」
「そう……だな」
「貴重な炎の魔石を使って此れなんて……」
「調理ギルドで買った方がマシだなこりゃ」
「仕方ないわね……」
そう言って渋々手に入れたアイテムをバザーで売る為に向かい、出品すると直ぐに売れた。
金は入る。何とかなりそう。
ホッと安堵しつつ調理ギルドに行くと人だかりができていて、閉店時間までに間に合うだろうかと不安になったが、自分たちの順番が来た途端、閉店時間となって店は閉まった……。
「もうやだぁ……」
「食事処は!? 酒場があるだろ!」
「そ、そうね!」
最後の望みの綱である酒場に向かうと人がごった返していて、空いていた席になんとか滑り込めたけれど料理のメニューを見て目を見開いた。
どれもこれも高かった……え、メニュー何てゲームでは潰れた文字でしか見えなかったけど、こんなに高いの!?
何とか一番安い串焼きを頼んで、酒も頼む。
調理スキルが高ければお酒だって造れるけれど……妹がいれば食べ放題なのに!!
そんな事を思いつつ、運ばれてきた一番安い串焼きは、素朴な塩で味付けされただけの串焼きで、ビールは温かった……。
「これで2000G? 高すぎない?」
「2000稼ぐのにどれくらい掛かるか分かんねぇな。『リアルマネートレード』しまくってたし」
「暫くは不味い羊肉で我慢して、調理ギルドで料理を買ったらアイテムボックスに入れてから金策しに行きましょう?」
「素材集めなら俺達でも出来るからな」
そのやり方が間違っているとは露知らず――私たちは地獄を歩むことになる。
この『ファンタジープラネットオンライン』の世界で生き残る為には、生産スキルこそがカギであることを、この時の私たちはまだ何も知らない……。
そして何故、都合のいい奴隷のような『妹』がいなくなってしまったのか。
それは自分たちの行いが故の問題なのに、それを棚に上げて私達は地獄を歩き出す。
地獄は――始まったばかりだと知るのは、此れからだった。
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