第18話 救世主部隊の隊長はママンさん

「てめえら! 最近タルんでるんじゃないか? やる気はあるのか!」


「サー、イェッサー!」


 整列した40魂コンが、直立不動の縦長の姿勢で漂う前を、アジア・ヨーロッパ方面軍隊長である〈ゼゼ〉が激念を飛ばしながらニラミを利かす。


(あぁ!たまらないわ!こっち(魂の世界)で思いっきり上下関係を満喫出来るなんて、なんて素敵なのかしら❤️)


 〈ゼゼ〉は夕方からの趣味時間にゲイバーをやっていて〈ママン〉と呼ばれている事を、隊員達には隠していた。


 〈救世主部隊〉の目的は、〈アース〉内の人々の覚醒を促す事。

 主な仕事内容は、〈アース〉内でトラブルメーカーになって、周囲を引っ掻き回して、トラウマを植え付ける事がメインだ。そのトラウマ体験を〈エンジン〉にして、人々は覚醒に至る事が多いからだ。

 

 隊員たちはアース内で様々な〈イヤなヤツ〉になりきり演じる。

 

 ある隊員は、オレオレ臭満載で部下を罵倒する社長になりきり、それでも社員として置いてやる寛大さに酔いしれる事で、周囲の人間にトラウマになりやすい〈逃げたくても逃げられない場〉を提供したりしている。


 またある隊員は、自分より下の劣っている他人の噂が大好きな(公園のボス的主婦)になりきり、〈ご近所のウツになった息子を持つ悲惨な家族〉の話しを1時間、5人の主婦に話して洗脳し、〈他人の評価が全て〉だと勘違いさせ、〈自分はどうしたいか〉を、忘れさせたりしている。


 つまりそこにいる隊員たちは皆、人のネガティブな信念のスペシャリスト。どっちかというと〈ネガティブが大好き〉なアースジャンキーだった。


 つまり、その隊長を務めるのは、超〈アースジャンキー〉であり、〈なりきり〉の天才であるママンさんをおいて他にいないのだ。


 そんなゼゼ(ママンさん)に反抗的な目を向ける隊員が、挙手して発念を求めた。


「ゼゼ隊長に申し上げます! 私は今〈アース〉で、他人の大事なモノを(被害者的立場から)奪い、〈絶望〉を植え付けているのですが、コレのどこに間違いがあるというんですか!」


「具体的にはどういう事だ?念じてみなさい。」


「はっ!イヤミを言ってあおるだけ煽った末、暴力を引き出し〈殴られた被害者〉に成り切りました。その結果、相手は長年勤めた会社をクビになり、私は完璧にトラウマを植え付けました!」


 何が問題なのかと、上司であるゼゼにくってかかる隊員に、ゼゼ隊長のビンタが飛ぶ。


「ばっきゃろー!〈イヤミ〉なんて言った時点で被害者じゃねーだろ!もっとこう〈粘着質〉に行かないと! 例えば、別の上司に〈パワハラ受けてるんです〉って相談に行くとか、〈イジメにあっている〉とか、徹底的に〈被害者〉を貫くんだよ!バカめ!ヒロシ!腕立て100回な。今、ここでだ。」


 ヒロシ隊員はすぐにその場で横に漂い、上下に揺れた。


 ヒロシと呼ばれる隊員と、ゼゼ隊長が、いきつけの店で顔を合わせる事は、コレまで奇跡的に起こっていなかったが、そういう不思議な運命なんて、こっち(魂の世界)じゃ常識なのだ。

 

(それにしても、この前天使さまが念じていた〈ダダくんの入隊の件〉はどうなるのかしらね。何だか楽しみが増えたわ❤️)


…と、ひとりほくそ笑むママンさんであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る