第15話 ママンさんの〈深度99%〉体験

 夜更けのエモエモパラダイスは、真っ暗なエリアの中でオレンジ色に明るく輝いている。開店中という事だ。


「ママンさん、オレやっぱり〈アースジャンキー〉じゃないと思います。興奮も度がすぎると〈タダの苦痛〉でしたよ。期待したオレがバカでした。」


〈アースでの最大深度98%〉を期待さえしていた自分が情けない。大学ではゲーゲー吐いていたのだが、まだ気持ち悪い。


(アレはシャレにならないな。)


 今日はママンさんに気持ちを聞いてもらおう…と、相談してみる事にした。いつも聞き役なので、たまには交代するのもいいだろう。


「私も2〜3回くらい経験あるわよ。そのうちの1回は〈深度99%〉だったわよー。」


「えーっ、マジスカ!」


「おおマジよ〜!その時は睡眠薬大量に飲み切ったんだから、すごいでしょ!」


 今日のママンさんは、カッコいいイタリア男子の姿で〈センチメンタルティアズ〉を飲んでいる。


 〈美しい別れ〉や〈ロマンス〉や〈激情〉などが入っている、アラサー女子に人気のカクテルだ。


「そう言えば、あの時も〈痴情のもつれ〉が原因だったわね。私ってホラすぐに〈痴情〉がもつれちゃう人なのよ。あっちだとね。〈もつれ〉させたら私すごい人になっちゃうのよ。〈アース〉でだけの話よ、もちろんね。」


(ゲイだという事と関係があるのかも知れないな…)


「実は私、夫婦を丸ごと愛してしまう事がね、たまにあるっていうかね…。」


 ママンさんはポロリと涙をひとすじ流すと、涙は蒸発しハート形の煙になって霧散した。


「最初はカルロと付き合ってて、そのうちカルロの奥さんのアイーダとも付き合い初めて、どちらにもバレずに…こういうの〈ダブル不倫〉?って言えるのかしら?どっちも愛しちゃう!…ってヤツよ。いや、コレってあたし達の間では普通なのよ。コレでも…。結構あるのよ。 ホラ、あたし達って〈愛〉多めだからねー。んで、毎回こじれるわけよ。」


(ママン師匠って〈スゴい経験〉してるんだなぁ。マジで尊敬する。)


「浮気がバレてこじれるんですか?」


「まぁ、それもあるけどその後ね。

 カルロがあたしの浮気に気がついて、問い詰められて、相手が女だったとこぼしたら大激怒よ。

 〈今すぐ別れろ〉とか言われて、私は今の関係がいいから、アイーダには〈君の旦那さん浮気してるみたいだよ〉って、証拠になりそうなモノ見せたの。

 …で、カルロには、〈もう女と別れた〉って嘘ついて、

 …である日、私の家でカルロと愛し合いながら、妻と離婚しそうで悩む彼を慰めていたら、アイーダが突然来ちゃったのよ。

 旦那のカルロとさっきバトってたのは聞いていたから、彼女も私に慰めて欲しかったんだと思うのよ。

 そんな3人のうち2人はまっ裸なんだから、コレで〈もつれ〉ない訳はないわよ。当然よ!私はそういう未来を望んでしまっていたの!」


 一気にまくし立てたママンさんが、カウンターに突っ伏して号泣し始めた。

 

(私が悪いの、わたくしのせいですのよ〜〜!)…と嗚咽が続く。


 その後どう〈もつれた〉のかを、10分の1で説明すると、アイーダはダンナの浮気にショックを受け、彼氏の家に行ったら彼氏の浮気にもショックを受け、ダンナと彼氏が同時にゲイだった事にWショックを受け、ダンナと彼氏が裸なのにショックを受け、2人が付き合っていた事にショックを受け、もうどうしようもないくらいショックを受けて、真っ白になっていたら、目の前の男2人の声が偶然重なって「2人とも愛しているんだ」と、ハモった時に、「自分は全ての感情を失ったのだ」と後に語ったらしい。


 まぁ、アイーダは2人と別れたいけど、生活の事もあるし、カルロは2人に別れろとせまり、ママンさんはどっちも愛してるから、当然モメる。


 スゴい混沌だ…とオレはその当時をイメージして興奮する。ママンさんは〈アース〉でも、〈混沌〉を引き起こすスゴい方なのだ。


 ちなみこの時、〈アイーダ〉の魂も〈深度95%〉でダイブしていたそうだ。


 オレは自分の感じた〈深度98%〉とずいぶん温度感が違う別次元のような、ママンさんの〈深度99%〉の体験を聞き、つくづく魂の〈とらえ方〉の多彩さに、改めて驚かされた。


 やっぱりママンさんは見ていて面白い。とても興味をそそられる。〈アースジャンキー〉のオレの師匠だ。ママン流魂人生道の全ての奥義を極めてみたいと思う。


 

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