第21話 デート前日、魅了の力。

アースランドとの訓練の後。デートの約束をしていた。内心思っていたことが現実になってしまい、内心ドキドキしていたがついに明日がその日となる。


天狐は人生初のデートであり、死ぬほど緊張していた。


「あばばばばば、」

手が震えながら食事をする。スープを掬おうとするがこぼれてしまい、机に落ちてしまう。ご飯やおかずも箸で掴めないほどで周りが心配していた。


「え、天狐どうした?」「ご飯、全く進んでない。」「さぁ?」「明日、アースランド様とデートらしいよ?」「ああ~、それで。」「いや、大丈夫?」「いや、どう見ても駄目だろ。」「慌ててる天狐も可愛いな。」「オレロ黙ってな。」「いいなぁ…」

皆が何か集まって話しているが、何も聞こえてない天狐。

仕方がないのでメイドのエリザとカテリーナが天狐のもとに行く。


「天狐。大丈夫?わたくしの声聞こえてる?」


「…」


「駄目ですね。聞こえてないですよ、エリザさん。」


エリザが天狐に近づき、耳を引っ張り、正気に戻す。


「こら天狐、私たちの話聞いてる?」


「…ぁ、エリザさん。」


「全く、明日デートだからって緊張しすぎよ。一緒にお出かけするだけじゃない。」


「え、いやだって、エスコートしてねって言われましたし、どうすればいいか考えてたら急に震えが…」


「そんなの簡単じゃないのよ。お店を事前に下見してそこに案内するだけじゃない?」


「いや、そうなんですけど。なんか下手に緊張して。」


「デートって言ってもあなたたち付き合ってないからねぇ。」


「まぁ。」


「なら、さっさとご飯食べなさい!マヤがあそこで食器来るの待ってるのよ?レディーを待たせるのは駄目よ。」


「わ、わかりました。」

少し落ち着いたのかご飯を食べ始める。あっという間に食べ終え、マヤさんに食器を私に行く。


「マヤさん、ごちそうさまでした。」


「はーい!明日デート頑張ってね!天狐!」


「が、頑張ります。」

こうして食事も終わり、お風呂も済ませ、ベッドに入る天狐だったが全く眠れないのである。


「ね、寝れない。明日がデートだというのに情けない。このままじゃ朝になる。」

独り言を話しながら時間だけが過ぎていく。


「え、もう1時じゃん。どうしよう。」


そんなことを考えているとドアがノックされる。

「天狐ちゃん起きてる?グラツィアだけど。」


なんでこんな時間に?何かあったのかな?

「え、今開けます。どうかしましたか?こんな夜遅く。」


「ちょっと気になってね。ちゃんと寝れたのかなって?」


「あ、ご存じの通りこの通りです。全く、眠れていません。」


「そっかぁ、ちょっとお話しようよ。私も新人だからさ。ほ、ほら、何か力になれるかなって!」


「あ、ありがとうございます。じゃあ、どうぞ。」


「失礼するね。」


そういうと二人は部屋の中に入り、ベッドに腰かけた。

しばらく沈黙が流れ、グラツィアさんに声をかける。何か様子が変だ。


「もしかして、グラツィアさんも眠れないんですか?」


「あ、うん。それとちょっとお願いがあってね?」

顔を赤らめながらこちらに向く。


「えっと、聞ける範囲なら…」

え、もしかして熱がある?


「もし、アースランド様と駄目だったらさ、私とデートしない?」


急な言葉に思考が止まる。だって僕たちはそこまで話したことはない。食堂で話すくらいの関係だ。


「えっと、どうして急に?」

尚更疑問だ、そもそも僕の何に惹かれたのだろう。


「この前の、アースランド様との訓練を見てさ、私、天狐ちゃんのことかっこいいと思ってね?だから、その、アースランド様とデートに行くって聞いてずるいって。」

僕が言えたことじゃないがグラツィアさんも結構子供っぽいところがあるんだ。それに僕に好意があるのは嬉しい。でもそれだけで僕に好意を持つのか?もしかして魅了が掛かってる?少し調べる必要がある。


「ちょっと、いいですか?あと、目を合わせてもらっても。」

グラツィアさんの頭を触りこちらに目線を合わせてもらう。


「え?どどどどうしたの天狐ちゃん?」


「天星眼。」

照れているのを無視して、グラツィアさんの魔力を見る。少しだけ魅了に掛かってそうなので魔力を流し、強制的に魅力の魔力を押し出す。そうすると少しだけ落ち着きを取り戻す。


「お、落ち着きましたか?」


「あ、なんか変な気分じゃなくなった。ありがとう天狐ちゃん。」


「それならよかったです。もう遅いので寝ましょう。」

気分を落ち着けることができた。


「そうだね。ありがとう、天狐ちゃん」


「いえ、おやすみなさい。」


「おやすみ!」

そういうと部屋を出ていき、また布団に戻る。


皆とは出会ってまだ二週間。特にアースランドさんは僕のどこに惹かれたのはわからない。逆もしかりでさ。でも、もしかしたらだけどアースランドさんも魅了に掛かってる?オレロも?屋敷のみんなも?もしかして魅了を僕は完璧に制御できていない?向こうの世界にいるときは誰もかからなかったのに。あ、魅了より恐怖が勝っていたのかな。それが一番しっくりくる。この世界では恐れられていないからかな?この前全力は出したのに。あれ、どうしよう、なんか自分が怖くなってきた。このまま接してもいいのかな、どうしたらいいのかな。まだ出会って二週間。姿を消しても心配されないよね?たぶん…



「天狐ちゃん、私に魅了かけてたんだね。失望したよ。」

もしかしたらと脳裏によぎり、結局眠れず、朝を迎えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る