2話 道で叫ぶ男
玄関を出ると一緒に出た柚希の荷物と自分の荷物を持ち、自転車を取りに我が家の駐車場に向かった。
「さすがお兄ちゃんなにも言わず私の荷物を持ってくれる!」
家の鍵を閉めながら柚希が俺の行動を褒めてきた。
「お前が持っててって朝言ってただろ。それを言ってなければもってないよ。」
「そんな些細な会話を覚えるお兄ちゃんさっすがー!」
「そんな朝すぐの会話を忘れるわけないだろ」
2人分の荷物を自転車の籠に入れ、自転車を玄関の前に持ってきた。
「戸締りも終わったし学校行くぞ。そろそろ出ないと本当に遅刻になるからな。」
「はーい。久しぶりにお兄ちゃんと一緒に通学だ荷物持たなくていいの楽だー!」
柚希は両手をあげて楽さを表現していた。
「お前鞄の中何入ってるんだよ。さっき持ったとき結構重かったぞ。」
「うわーお兄ちゃん、女子の荷物持って重いとか言っちゃうのモテない男子だわー。」
モテないことを言われてしまった。事実だから何も言い返せないのが悔しい...
「女子はいろんな荷物を持たないといけないの。モテたいならそういうことは覚えておいた方がいいよ。今後のために役立つからね。」
「勉強になります。柚希大先生」
「お兄ちゃんいつも恋愛ものたくさん見てるのに乙女心わからないのはちょっとねー」
「俺が恋愛ものをたくさんみてるのは主人公とヒロインがイチャイチャしてるのを見るのが好きだからなんだ。自分が主人公の立場になるのは解釈違いなんだ。」
俺は自分の恋愛にはあまり興味がない。あくまでも他人の恋愛を見ているのが好きなだけなのである。
「俺はなれるのなら空気になりたい。そして自分の好きなカップルがいちゃついてるのを眺めていたんだ!」
道の真ん中で自分の理想を叫んでしまった。
しかししょうがない。これは俺のカプ厨としての性であり一生の願いなのだから。
幸い俺と柚希以外の人はいなかった。
柚希は呆れた顔で俺に文句を言ってきた。
「お兄ちゃんさ...流石にそれは私でも引くわ...
道の真ん中でそんな変なこと叫ばないでよ...
もし周りに人がいたらもう兄妹としての縁を切ってたよ?」
柚希はとんでもなくドン引きをしていた。
それはもう兄を見る目ではなかった。全く興味のない動物を見るかのような目だった。
「待ってくれ。こんなことでたった2人しかいない兄妹の縁を切ろうとしないでくれ。お兄ちゃん傷ついちゃうぞ。泣くぞ。」
俺は妹に縁を切られたら大泣きする自信がある。それはもうさっきよりも大きい声で泣き叫ぶ自信がある。
「だったら道の真ん中で叫ぶとかはやめてよ。まだ家ならいいけど、流石に周りの目があると私も恥ずかしいよ。妹として。」
「わかった。これからは気をつけるよ。」
家なら叫んでも許してくれるとても優しい妹だ。兄妹の縁を切られないようにもう柚希と出かけてる時などは叫ぶのはやめようと心に誓った瞬間だった。
「まぁ私としてもお兄ちゃんとの縁は切りたくないからね。だから今後は気をつけてよね。」
優しい妹大好きだ。
「そういえばお兄ちゃん今日部活あるでしょ?何時くらいに帰って来る予定?」
「今日はそんな遅くならないと思うぞ大体19時前には帰ってこれるかな。もし遅れることがあっても連絡はするよ。」
大会は近くないので今日は普通の練習はずだ。だから遅く帰ることはないと思うし。
そうでありたい。
「柚希は部活で遅くなったりするのか?」
柚希は吹奏楽部に入っていてたまに練習が長引き、遅く帰って来ることがある。
「今日は私も遅くならないはずだよ。なんなら私の方が早く帰れそうだから私がご飯作っておくよ。」
我が家は両親が共働きで忙しいため昔から自分たちで夕飯を作る機会がおおい。
「ありがとな。次は俺がご飯作るからな。もし何かあって遅くなることがあれば連絡しろよ?迎え行くから。」
夜遅くに柚希1人で帰らせる訳にはいかない。
「さっすがーーお兄ちゃん!!そういうところはすごいできる男!!大丈夫何かあったらちゃんと連絡するから!」
柚希は笑顔になりそう答えてきた。
普段から2人とも何かあったらすぐ連絡するよう約束をしているので、それは柚希もしっかり覚えているようだった。
そうこうしているうちに中学と高校へ向かうための別れ道に到着した。
「おーい柚希ちゃん!おはようーー!」
柚希を見つけた友達が大きい声で挨拶をしてきた。
「あっおはよう!!!」
柚希は友達に挨拶を元気よく返していた。
「じゃあお兄ちゃん。ここでバイバイだね。」
「はいよ。これ荷物。」
自転車の籠に入れていた荷物を柚希に手渡す。
柚希は荷物を受け取ると友達が待っている道の方へ向かっていった。
「お兄ちゃん荷物ありがとね!気をつけて学校行くんだよ!」
「わかってるよ。柚希も家帰ってくるまで気をつけてな。」
「はーい。じゃあ行ってきます!」
そう言葉をかわすと柚希は声をかけてきた友達の方へ走り出していた。
柚希と柚希の友達が話しながら学校へ向かっている姿を見届けたあと、俺も先ほどまで押して歩いていた自転車を走らせて高校への道のりを進んでいった。
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