まぼろしの彼女

🌳三杉令

第1話

 ―― 2025年7月、とある新聞社で


「……と言う訳でさ、ひのえうまの報道はすべきじゃないってことになった」

 編集の担当者が言った。


「そうだな。あまりにも可哀そうだよな…… しかし、あの投書って中学生だろ」

 同僚が答えた。


 世の中には知らない方がいいことがある……



 ◇ ◇ ◇



【 まぼろしの彼女 】



 いよいよ中学生最後の大事な大会が始まる……


 暑い7月、僕、坂本 しょうは早朝のランニングをしていた。部活には入っているが、正直それ以外は学校は嫌いで、生活も何もかもが嫌だった。毎日むしゃくしゃしてるので走ってさ晴らしをいるというところもあった。


 朝はまだかろうじて涼しい。今日はがんばって、少し離れた丘の公園の方まで走って行った。


 その人気ひとけのないさびれた公園に珍しく朝から人がいるのが見えた。息を切らしながら公園に着くと、それが同年代の女の子だとわかりドキッとした。


 (こんな朝から、一人で何してんだろう)


 黒いストレートの髪に、白いワンピース。言っては悪いが少し昔の子って感じ。


「あの、おはようございます」

 その女の子が言った。


「あ、お、おはようございます」

 まさか声を掛けて来るとは思わなかったので僕は慌てた。


「少しお話してもいいですか?」

「え、ええ」


 学校でも女子とはあまり話さないので、面食らった。


「中学生ですよね? 学校って楽しい所ですか?」


 何を言っているんだろう。あなたも中学生だろうとは思ったが無難に答えた。

「いや、そうでもないですよ」


「学校以外での生活はどうですか? 家族とか友達とか……」

「いやあ、部活とゲームばっかりで…… アニメも見るかな」

「アニメって何ですか?」

「へ? 知らないの?」


 彼女はアニメを知らないらしい。一応説明してあげたが、この人なんかおかしいとそのとき感じ始めた。五分くらい話をして、僕は帰ることにした。


「さようなら、明日も会えますか?」

 別れ際に彼女は言った。とても変な気分だった。



 ―― 次の日 ――


 今朝も快晴、息を切らして昨日の公園に走る。

 彼女は今日も同じ服装で街を見降ろしていた。


「おはようございます。ハア、ハア」僕が言う。


「おはようございます。あの、あなたの名前を聞いてもいいですか?」

 彼女が聞いてきた。


「僕? えっと坂本です。坂本翔って言います」

しょうくん。ふーん」


「えっと、あなたは?」今度は翔が聞いた。

「私は名前は無いの」


「え……? どういう事ですか?」

「……」


 彼女は何も答えない。名前が無いなんて……

 翔はなおも聞いた。

「この辺に住んでるんですか?」

 って、近くに民家は無いけど……


「いえ」彼女が答える。


「中学生ですよね?」

「いいえ、学校には行っていません」


 この子、いったい何者なんだろう……

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