転生モブキャライフ~勇者の回想シーンで死亡する悪役貴族に転生したのでゲーム知識で最強冒険者になって生き延びます~

忍成剣士

第1話 どうも勇者の回想シーンで死ぬ悪役貴族です

 鋭い木剣ぼっけんの一撃がが脳天をかち割る。

 瞬間、オレの額からぴゅーと噴き出した鮮血が青空を背景に美しい弧を描く。

 オレはそれを『笑える』とまるで他人事のように眺めていた。


「アラン様! 大丈夫ですか!」

「アラン様! お気を確かに!」


 背中からバタンと地面に倒れ込み動かなくなったオレに取り巻き連中が血相を変えて駆け寄って来る。


「シエロ! 使用人の分際で! アラン様になんてことをッ!」

「アラン様に怪我を負わせてただで済むと思うなッ!」


 木剣を手にした小柄な金髪少年が取り巻きたちに寄ってたかって責め立てられる。


「だ、だって! アラン様が手加減なしで来いっておっしゃったから……」


 シエロと呼ばれた見目麗しい少年が涙目で弁解する。


「口答えるするなシエロ! 年下のくせに生意気だぞ!」

「このような失態をアラン様がお許しになるとでも?」

「罰として気を失うまでムチで撃たれる覚悟をするんだな!」

「さっさと荷物をまとめろ! お前たち親子はクビだろうよ!」


「アラン様! どのような罰もお受けいたします! 母だけはお許しください! どうかご慈悲を!」


 美少年が震える声で懇願する。

 朦朧としながら『彼らはなにを言ってるんだ』とオレは不思議で仕方がなかった。まるでオレがろくでもない人間であるかのような物言いではないか。


 ――――というかアランって誰だ?


 脳に強い衝撃を受けた影響だろう。記憶が混濁している。自分が何者なのかはっきりと分からない。オレはズキズキと痛むおつむをどうにか回転させ自分のことを思い出そうと努める。


(……あ、そうだそうだ。思い出した。オレの名前は花内透はなないとおるだ。都内の高校に通う18歳だ。そして、ここは通い慣れた学校の教室……じゃない……あれ?) 


 教室ではない。野外だ。異国情緒漂う木偶でく人形や木製の武器が並ぶ訓練場のような場所だ。

 オレは愕然とする。自ら記憶が錯綜していることに気づいたからだ。


(違う。違う。そうじゃない。思い出した……今のオレは辺境貴族のアラン・リヴァプールだ!!)


 オレは二年前に天涯孤独となり、親の残した潤沢な財産と伯爵の地位を利用して田舎町でまるで王様のように好き放題やってる放蕩貴族だ。

 一言で言って『ろくでなしの悪役貴族』である。


 オレは気づく。自分の中に『二つの人物の記憶』が混在していることに。

 さらに衝撃的な事実に気づく。『アラン・リヴァプール』が、花内透である自分が寝る間も惜しんで遊び倒した世界的大人気VRMMO『ダンジョンライフⅢ』の登場人物だということに——、


(これはいわゆるってやつなんじゃ……?)


 オレにはそれ以外の結論が思い浮かばない。



(え? え? え? 待ってよ……だとしたらオレ、すぐに死ぬんですけど?)



 瞬間、オレの脳裏に凄惨な映像がフラッシュバックする————、

 折れた剣を手にした悪役フェイスの青年貴族がなすすべもなく、魔物の大群に襲われ、肉を切り裂かれ、腹から臓物を引きずり出される未成年お断りの残酷映像だ。


 恐怖にオレの全身が小刻みに震えている。


 オレはダンジョンライフⅢのメインストーリーはもちろん1000を越えるサブクエもコンプリート。エンドコンテンツならびにダウンロードコンテンツさえも網羅しているオレは知っている。


 アラン・リヴァプールという悪役貴族がゲームのストーリー本編が始まる少し前、勇者の回想シーンで死亡するだということを――――、


 あまりのショックにオレは白目を剥いてそのまま意識を失った。

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