「怪盗ウーメレの旅路」
カンガエル(?)
第一話「マナと六人の兵士達」
『怪盗ウーメレの旅路』 第一話「マナと六人の兵士達」
マナは王室内では第七王女の位であるため、周辺国からは華やかな場には呼ばれることは無かった。
それ位にマナは他のヴィセ国の王族から軽視されていた。
もとよりマナ自身王室の戯れ事に興味がないので、まるで城の書物庫で暮らすかのような”少女”だった。
そんなマナが書物庫で、一番好んで読みふけっていたのが、「戦術」「攻防戦」「奇襲」の類だった。
以前は「神話」や「英雄の伝説」、「吟遊詩人の詩」等の本を好んでいた。
でもマナは膨大な書物庫のそれらの書物は全て読み終わり、今度は「実現可能な手段」をただ読んでいるだけだ。
そして攻防戦に使われる色々な武器や防具の構造、材質、力学、攻防の歴史、気候学、薬学、地質学、また各国の全ての経緯の史学まで、とにかく一日中調べて読む毎日だ。
当然、本に夢中のマナの傍には何かの事態に備えて、常に三人の近衛兵と三人の下級兵士が就いた。
三人の近衛兵は剣士はローク、弓士はシェラ、槍士はバク、三人共仲が良くて、幼いマナにとっては王室の誰よりもこの三人は賢く、にこやかで優しく親しみがある。
但し一度、何かマナに危険が近づいていると判断すると、マナはこの三人程、敵を前にした時に恐ろしい人達はいないと思っている。一体何処で『あの』ような、精度と速さ、圧倒的な気迫と力を持ち、少人数でも圧倒的な戦力の兵士達として、類を成しえない戦い方が出来るようになるのかわからない。
まるで勝手に相手の人数だけが減っていくようにしか見えない戦況だった。
特に近衛兵は最後の砦として力を発揮する兵士だ。城塞都市ヴィセのあらゆる空間で、どんな戦闘にも未知数の強さを誇る。
その戦い方は近衛兵達とマナしか知らない。逆にマナと近衛兵四人以外は知っていてはいけない、ヴィセ国国家最高機密の戦い方と他の兵士達の戦い方。そして地図の位置関係上は、ヴィセ国からどこの国も地平線を超える距離があるが、周辺国の戦い方の対抗する事もにも詳しい。このヴィセ国の城壁の外側は大草原のみである故、遥か彼方からの国家の非常事態は高い塔から全て一望出来る。自然もを取り巻く環境すら対抗手段として抗戦出来ると言われるのが「近衛兵の戦い方」だ。
だから勿論、この近衛兵三人から学ぶことは多い。
三人の近衛兵は人数として安定感があり、普通は一人か全員で任務を遂行する。
一人なら小回りが利くし、全員なら攻防をそれぞれ担当する戦闘もできる。
しかし、その間は常に安全なルートでなければならない。
「脅威となる何か」に隙を見せる、すなわち『死角』があるルートは全て自滅行為でしかないからだ。また逆に、四人以上の複数人での任務なら、行動しにくい場面も出てくる。どんな圧倒的な近衛兵達でも少人数精鋭。巨大な一国を守り切るにはやはり不利な戦況にもなりかねない。そこで、三人の下級兵士、剣兵キュード、弓兵ケル、槍兵バルク、この三人にも大きな役割を発揮してくる。
下級兵士は傭兵出身の兵士でもある。その傭兵時代の「野戦」経験者からの意見も訊けることは王室では滅多にない。野戦は、規律が多い環境下で訓練された正規軍と違い、一切の規則性を持たないと言っていい程の戦い方でもある。つまり、この三人の一人しか知らない戦い方もある為、周辺国の正規軍は数や力でヴィセ国の正規軍に侵略しようとしても「野戦の切り札」が残っている。当然、その周辺国から攻め入ろうとする兵士達はこの「野戦の切り札」には一切対抗出来ずに撤退を余儀なくされるが、体制を立て直して再度攻め入ろうとするなら、正規軍同様に、同じ野戦の戦い方は二度としない。その論外の切り札に為す術がなく周辺国の兵士達の恐怖の対象となる。それが、この書物庫は王室関係者以外の人は知ることが許されなくとも、マナと近衛兵達は同じ戦力として招き入れ、ヴィセ国を守る兵士達として、全く別の視点から相手の隙やヴィセ国の隙を見出して、意見ではなく助言をする役目として、戦場で動く。その下級兵士達も最初は恐れ多く、三人共辞退を考えていた位だ。それ程、ここまで王室内深部に呼ばれる事は無い。
けれど、一つだけ六人共通に誇りに思えることがあった。
それは第七王女のマナから全員直接選ばれ、『特任任命兵士』の位を受け取ったマナの「直属の兵士」として常にマナからも信頼を受け続けていた事だった。
だから近衛兵も下級兵士もお互いの「戦術」「攻防戦」「奇襲」「武器」「防具」等の話になると立場上での戦い方の根底が違う事だけで、尽きる事は無く、同じ特任任命兵士という視点で、このマナの居場所の書物庫から『新しい戦術』が生まれる事が多かった。それを始めからマナは期待していて、幼いマナからも率直な疑問を訊くことで、その『ヴィセ国唯一の新しい戦術』に、また違う新しい視点として足されていく。それから次第に六人の兵士達にマナから、それぞれに質問などをすることが増えてきた。そして、六人の兵士とマナの知識の積み重ねが「表舞台」に出たのが、マナが11歳の時の、敵国カーシャからの奇襲作戦による城塞都市ヴィセへの攻防戦だった。
**************************************************************************
その時の戦況は最悪だった。
何しろいくら城塞都市ヴィセでもあまりにも短時間で囲まれ過ぎた。
この時、城塞都市ヴィセの四十八か所の塔から監視していた兵士も、カーシャ国の全方位での同時刻進軍は、ヴィセ国の作戦指揮系統に冷静で有効な案がなかった。
なにしろ多勢に無勢な上、全方位からの進軍という事態は前例がなく、それに対する兵士達の迎撃陣形の態勢もままならない内に敵国の包囲網が完了していた。
ヴィセ国の何千年と続いた平和の意識を「当然」と思っていた事の甘さが出てしまった。
周辺国ではその何千年の間に戦いが続いていた国もあるというのに・・・。
気がつけば完全に防戦一方のみになってしまった。それにまともな防戦ではなく、混乱状態での一時しのぎの防戦だ。
--------------もはや長くは持たない。
どんなに遠距離攻撃を得意とする弓兵達を投入しても、その背後の広大な城壁の更に内側で散開して矢を放つので手一杯な状態だった。
マナは戦況を見た時、その状況を打開する答えとなる作戦を、マナとその直属の六人の兵士達による“自分達の作戦”を決行していた・・・。
第一話 「マナと六人の兵士」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます