3-8 ホムンクルス、ついに買われる!!(2/2)

「ホム、大丈夫?」


決闘終了後、傷は治ったものの精神的に満身創痍で倒れたままになっているホムホムの元へと3号は駆けつけた。


「ああ、お姉様。お見苦しいところを見せてしまってすみません」


 3号に謝りながら、ホムホムはゆっくりと起き上がった。


「……謝るのは私の方よ。どっちにも負けて欲しくなかったけど、最後にクロースルさんの方を応援しちゃったの」


「ああ、それでしたら知っていますよ。その声は私たちにも聞こえていましたから」


「え!? そうなの。それじゃあホムが倒れたのは……」


「……まあ、あれが決め手といえばそうですけど、実際に私の体は限界でした。だからわざと負けたわけではありません」


「……そう」


 ホムホムは詳細を語ったが、それでも3号にはまだ後ろめたい気持ちがあった。


「それより私に構う時間があるならあちらにも声を掛けに行ってくださいな。せっかく現れたご主人でしょう?」


「……ホム。ありがとう」


 ホムホムの言葉に3号は頭を下げると、人だかりに囲まれたクロースルの元へと向かった。


「……やれやれですわ」


「なあ、ホムほんまにこれでよかったんか? まだやろうと思えば色々とやれるで」


 3号が離れたのを見計らって、ミナミがホムホムに声を掛けた。


「いいですわよ。お姉様が私を選んで下さらなかったことについては残念ですけど、お姉様が長年待ち望んだご主人様ですのよ。邪魔をしてはいけませんわ」


「……そうか」


 ホムホムの寂しさと嬉しさが同居した表情を見たミナミは一つの考えを決意した。


「よし、そうと決まればサブ……いや、ゴーツはんに……」


「儂に何か用かの?」


 ミナミがゴーツを探しに行こうとした途端、ミナミ達の隣にゴーツがするりと現れた。


「うわ、でた」


「人のことを化け物のような扱いは感心せぬぞ」


「いや、ゴーツはん。その言動で嫌われへん方が無理あるで」


「まあのう。それより話があるならこんなところでなく屋内でせぬか?」


 ゴーツは役場の方を指さした。


「……本当にいけ好かんなあ。まあ、ええわ。ホムも疲れてるところ悪いけど一緒に来てや」


「付いていくのはいいですけど、どういうことですの?」


「何、行けば分かる」 


そういってゴーツが指を弾くと転移の魔法陣が現れ、3人はその場から姿を消した。


____________________



「やったな。クロースル」


「よくやったぞ。クロースル。信じてたぜ」


「ホムホムちゃんが勝つと思ったんだけどなあ。くそ~……」


「……お前ら、賭けの話はよそでやれよ」


「やったじゃねえか!」


「クロちゃん、おめでとう~。これからはクロちゃんと3号ちゃんと三人でしましょう~♡」


「おい待て」


 少し時間が戻り、決闘直後。決闘に勝利したクロースルの周囲には人だかりが出来ていた。


「ところで3号さんは?」


「クロースルさん!」


 クロースルが3号を探しているとちょうど、ホムホムのところから3号がクロースルのところまで駆けつけた。


「……3号さん」


「クロースルさん、ホムから聞いたんですけど最後に私の声が聞こえたというのは本当ですか?」


「聞こえたよ。やっぱり幻聴じゃなかったんだね」


 3号の質問にクロースルはゆっくりと頷いた。


「……ふむ、3号の声が届いたとは仕様上それはないはずなのじゃがこれも二人の気持ちのなせる技じゃな」


「いや、絶対そこだけ通るように細工したでしょ」


「そこは分かっていても黙っておくところじゃろう」


 話を聞いたゴーツが一人呟いたが、がそこへエローナが茶々を入れた。実際、3号の声が届いたのはゴーツの仕込みだった。


「……まあ、そんな気はしていました。あれ、自分だから素通ししたんですか?」


「いや、3号がお主かホムホムどちらかを選んだ場合に通るようにしておった。流石にそこまで不正を働く気はない」


「そうですか」


 ゴーツにとって今回は3号が自分の意志を出せるようになって欲しかったのが本題で、選ぶ相手自体はどちらでも構わなかった。


「それよりこれで晴れて3号はお主のものじゃ。好きにするがよい」


「「……はい!」」


 ゴーツの言葉にクロースルと3号は笑顔で応えた。こうして3号はゴーツの手からクロースルの手へと移ることとなった。それからメモリアではクロースルの勝利を祝う……というよりそれに便乗する形で大々的な宴が行われた。


____________________



「……ふう、ようやく片付いた」


「大分スッキリしましたね」


 決闘の次の日、クロースルと3号はクロースルの倉庫の片づけを行い、クロースルの道具作成に使う材料と器具と作られた道具で溢れていた空間は大分すっきりした。


「ごめんね、3号さん。片づけを手伝ってもらって」


「いえ、今日から私も住むので当然のことです」


3号に感謝を述べるクロースルに3号は笑顔で返した。昨日から主従関係であり恋人関係になった二人は、今日から早速同棲を始めることになった。


「「……」」


 しかし、片づけを終え、そのことを改めて意識した二人はこれからのことを想像し、お互いに顔を赤くし無言になった。


「……あ、あの!」


「な、なに? 3号さん」


 先に沈黙を破ったのは3号の方だった。その3号らしくない口ぶりにクロースルは焦りながら聞き返した。


「名前。番号の3号でなく名前で呼んでくださいませんか?」


「どうしてそのことを……いや、絶対にゴーツさんだな」


 3号の望みは改めて新しい名前をつけて欲しいということだった。そして長年、3号に付ける名前を考えていたクロースルは焦りながらゴーツの顔を思い浮かべた。実際、その予想は当たっており、3号に名前のことを漏らしたのはゴーツの仕業だった。


「……まだまとまっていなかったでしょうか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 3号の言葉にクロースルは言葉を濁した。クロースルは3号に名付けたい名前を何年も前から決めていた。


「……嫌だったら正直に嫌と言ってほしいんだ」


「了解しました」


 かしこまるクロースルに3号は小さく頷いた。


「……ロウリィ、小さな女の子って意味なんだけどやっぱり嫌だよね?」


 クロースルは何年も温めていた3号への名前を伝えた。その由来からクロースルは、他の名前に変えた方がいいか迷ったものの結局他の名前が思いつかなかった。


「ああ、そういうことだったんですね」


 名前を聞いてクロースルの内心を理解した3号はほっと一息ついた。


「大丈夫ですよ、クロースルさん。クロースルさんに悪気がないことは分かっていますし、ここで暮らしていてこの体も悪くないと思えてきたので」


 ここ数日で自身への自虐心の消えた3号は、自身の小さな体のことも受け入れられるようになっていた。


「3号さ……」


「ロウリィ、ですよね?」


3号は喋るクロースルの口を人差し指を当てて黙らせると、名前の呼び直しを要求した。


「……うん、改めてよろしく。ロウリィ」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。クロースルさん」


 クロースルの言葉に3号、改めロウリィは満面の笑みで返した。そしてその直後、倉庫の扉が思い切り開かれた。


「「……⁉」」


「お姉様、お義兄様、おめでとうございますわ~!」


 ロウリィとクロースルが驚く間もなく、突撃してきたホムホムによって二人はまとめて抱き着かれた。


「へ、ホム? あなた、ミナミ様と帰ったんじゃ?」


「お義兄様⁉」


 ロウリィはミナミと一緒に実家に帰ったと思っていたホムホムがいたことに驚き、クロースルはそれに加えてお義兄様と呼ばれたことに驚いた。


「色々と交渉してこの町との交易ルートを確保しましたの♪  それでその調整を兼ねてミナミは一旦実家に戻りましたが、その間私はここで休暇をいただくことになりました~♪」


 抱き着いたままホムホムは二人に事情を説明した。ホムホムが二人に伝えた通り、決闘後に行われたゴーツを交えた交渉によってミナミがこの町での交易をすることとなり、その調整が終わるまでの間ホムホムはメモリアで過ごすことになった。


「なるほど」


「はい! これでロウリィお姉様としばらく一緒にいられますし、それが終わった後でも月に数回はこちらに顔を出せますわ」


「……あれ、ホム。その名前どこで」


 喜ぶホムホムに対し、ロウリィはいつの間にか自分の新しい名前が知られていることに気がついた。


「……あっ、そこ! そんなところで何をしてるんですか?」


 そして次の瞬間、クロースルが倉庫の外で中の様子を見ている者の存在に気がついた。


「いや~、見つかってしまったか」


「みんなで一緒にここから中の様子を見てたの。クロちゃん、ニーナちゃん。おめでとう!」


「本人がいいならこれ以上は言わないけど私としてはその名前どうかと思うぞ、クロースル」


 存在が露見したゴーツはいつもの魔法の玉を掲げ、エローナは二人を祝福し、デレーヌはクロースルへの本音をぶつけた。


「……そういうことでしたか」


「エローナさん達は分かりますけどデレーヌさんまでですか?」


 クロースルとロウリィは覗きに対して呆れたため息をついた。


「お前達だって私とケフェッチとのを見たからお相子だ」


「……ゴーツさんに聞いたんですね。まあ、そう言われると何も言えませんね」


 デレーヌの反論に返せなくなったクロースルは素直に降参した。


「お姉様~、大好きです~♪」


「ちょっ、ホム。圧し掛かるのはやめてってば⁉」


 そして一方では、ホムホムがニーナにじゃれついていた。


「これにて一件落着ね」


「ああ、丸く収まって何よりじゃ」


 少し離れた場所で、エローナとゴーツがその光景をほほえましく見守っていた。


 こうして売れ残りのホムンクルスだった3号、改めロウリィは長年のコンプレックスを乗り越え、クロースルや周囲と共に暮らしていくことになった。


この後、ハーゲンがファンの実家に挨拶に行ったり、デレーヌとケフェッチの間に双子が生まれたり、クロースルがチモックに弟子入りして次世代型ホムンクルスの発展に貢献したりするのだがそれはまた別の話。

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