1-5 大浴場(3/3)

「あっ、デレーヌ。……それにみんなもいるからこれで全員だね」


「変わった取り合わせだな」


「ですね」


 3号たちが脱衣所から出るとそこにはケフェッチ、クロースルに加えてもう一人茶髪の男性の姿があった。茶髪の男はケフェッチに近い年齢層なものの、細身なケフェッチと違ってガッチリとした体格をしていた。そして3号もこの男には見覚えがあり、酒場での紹介の時にユウリと一緒にいたということを覚えていた。


「お前たちのせい……ゴホッ、お前たちもな」


「「?」」


「……」


 二人の姿を見たデレーヌは何かを言いかけたが途中で咳払いをして言い直した。それによって3号とファンにクロースルの夜の仕事の隠蔽が成功したが、一度話の流れを折ったせいでなんともいえない沈黙が訪れた。


「……あっ、そうだ。3号ちゃんにこいつのこと紹介しておかなきゃね」


 場の沈黙を破るため、ユウリは茶髪の男性の紹介を始めた。


「はい。お願いします」


「こいつは私とパーティーを組んでるイバラって男よ。……以上、終わり!」


 茶髪の男性、イバラの紹介を始めたユウリだったがその紹介はとても雑だった。


「おいおい、それだけかよ。流石に酷くないか?」


 そのあまりに雑過ぎる紹介にイバラ本人は異議を申し立てた。


「だってあんた、女子には興味ないでしょ」


「まあ、それはそうだけどな」

 ユウリの言い分にイバラも渋々頷いた。


「……あのユウリさん、一つお聞きしてもいいですか?」


「何、3号ちゃん! 何でも聞いて!?」


 質問しようとする3号にユウリは必要以上に近づいた。


「ユウリさんは女性がお好きなんですよね?」


「そうよ。もちろん性的な意味で」


 ユウリは自信満々に3号の質問に答えた。そのあまりの堂々とした姿に周りは呆れて口出す気にもなれなかった。


「それなのに男性のイバラさんと組んでらっしゃるんですか?」


「ああ、それね。私としても出来たら女の子と組みたがったんだけどある程度戦える女の子で私と組んでくれる子がいないのよ」


「そりゃいつ襲われるか分からないしな」


 ユウリの言葉にデレーヌが強めの口調で続けた。


「いや、そんなことしたらここを追い出されかねないからそんなことはしないわよ。でもキャッキャウフフぐらいならしたいわね」


「……そうですか」


 ユウリの悪びれない言葉に3号も若干呆れていた。


「ってわけで女の子と組めないから仕方なく組んでるのがこのイバラってわけ。他の男よりもお互いがお互いに必要以上に興味がないから気が楽なのよ」


「なるほど……?」


 ユウリの筋が通っているような通っていないような回答に3号は困惑していた。しかし、同性愛者ではあるが異性が嫌いというほどではユウリとイバラのコンビは意外なほどうまくはまっていた。


「あっ、そういえばイバラ。ちゃんとクロースルに明日の事頼んでおいてくれた?」


「ああ、それなら大丈夫だ。なあ、クロースル」


「ええ、明日三人で最深部ですね」


 ユウリの確認に、イバラとクロースルは答えた。


「クロースルさんはユウリさんもイバラさんも大丈夫なんですか?」


「え? まあ、クロースルは長い付き合いだし、私のことを色目で見るようなこともないしね」


「俺からしたら問題ないというか大歓迎だしな」


「こちらからしても一人よりも効率がいいからね」


 3号の質問に三者は三様の答えを述べた。


「クロースルさんは誰かと組んだりしないのですか?」


「うん、自分の場合は魔物狩りよりも薬草採取やポーションの作成の方がメインだから基本的には一人で、依頼があれば臨時で参加しているんだ」


「そうでしたか。大変ですね」


「……まあ、自分が好きでやっていることだからね」


 目的が3号のことであるクロースルは3号から目を逸らしながらそう答えた。


「ともかくクロースルの夢のためにも、3号ちゃんのためにも明日は頑張らなくちゃね!」


「私のため、ですか?」


「そうよ。私、3号ちゃんを買うためにも頑張るわ」


 一方でユウリが3号を買う宣言始めた。


「それは3号のためじゃなくてお前のためじゃないのか?」


「というか3000万本気で貯める気なんですか?」


「もちろんよ」


 周囲からツッコミが続いたがユウリは自信満々だった。


「ぶっちゃけ俺は無理だと思ってるけど誰か成功に賭けるやついるか?」


「いや、誰も賭けないだろ」


「そもそも時間の指定でもしないと有耶無耶になりますよ。自分も賭けるなら無理に掛けますけど」


「……酷くない?」


 しかし、誰も成功に賭ける者が出なかったのにはユウリも少しいじけた。


「参考までにお聞きますけど今のユウリさんの貯金ってどれくらいありますか?」


 クロースルにとってライバル出現は由々しき事態だった。彼もユウリ相手では万が一もないと考えていたがそれでも念を入れてライバルの現状に探りを入れた。


「今日はお店を我慢したから6万はあるわよ」


「私も無理で」


「僕も無理で」


 ユウリの無謀さにファンやケフェッチまでもが無理に賭けだした。普段こういった賭けに乗らない二人までが乗るというのはよっぽどのことだった。


「ファンちゃんたちまで……3号ちゃん、3号ちゃんは?」


「すみません、ユウリさん。私の所持金はゴーツさんから頂いた大切なものなので無駄使いをするわけにはいかないのです」


 ユウリはまだ意見を出していない3号に縋ったが、彼女も丁重にお断りした。


「そんな~」


 結果としてその場にいた全員に否定されたユウリは流石に落ち込んでしまった。しかし、当然の流れでもあった。


「……3000万。確かに3号さんの髪は魅力的だけど流石に手が届かないなあ」


「辞めておけ。ゴーツさんの話が本当なら何年も金策をしているクロースルでも届いていない金額だ」


「そうだね」


 3号、というかホムンクルスの髪に憧れるケフェッチもホムンクルス購入について考えたがその無謀さからすぐに諦めた。この後も少し会話が続いたが時刻も遅いため、各自解散することになった。


____________________



「それじゃあ自分はここで。二人とも、おやすみ」


 大浴場からの帰り道、ユウリたちと別れた3号、クロースル、ファンの三人は役所裏の宿舎前まで移動した。


「クロースルさんはここじゃなかったのですか?」


「うん、自分は薬の材料とか機材でスペースがいるから向こうの倉庫の一つを使わさせてもらっているんだ」


 クロースルはそういって宿舎の先に並んでいる倉庫の一つを指さした。宿舎が出来る前からこの町にいるクロースルは倉庫の一つを自宅として使用していた。


「そうでしたか」


「それじゃあまた」


「はい。おやすみなさいませ」


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 改めて別れの挨拶をすますと、クロースルは一人倉庫が立ち並ぶ方へと歩いていった。


「それじゃあ私たちも入りましょうか」


「はい」


 クロースルを見送った3号とファンは宿舎へと入っていった。


「二人ともおかえり。思っておったより遅かったのう」


 二人が宿舎に入ると入ってすぐゴーツが出迎えた。


「すみません。遅くなりました」


「お待たせしてしまいましたか?」


 3号とファンは、出迎えたゴーツに申し訳なさそうに答えた。


「いや、別に責めるつもりはない。これだけ遅くなったということは話が弾んだか、何かトラブルに巻き込まれたかのどちらかじゃろうが顔色を見る限り前者のようじゃからな。こちらとしては早くこの町に馴染んでくれるに越したことはない」


「そうですか。それならよかったです」


「……ふぅ」


 3号とファンはほっと安堵した。


「まあ、なんじゃ。詳細や感想にも興味はあるが今日はもう遅い。明日からは本格的に働いてもらうから今日のところはしっかり休むがよい」


「了解しました。……ファンさん、明日は7時でしたよね?」


「そういえばファン。明日3号は何時頃に食堂へ行けばよいかの?」


「時間ですか。……そうですね。最初に軽い説明もしたいですから7時には食堂へ来ていただきたいですね。3号さん、それで大丈夫ですか?」


「はい、了解しました!」


 明日の仕事の打ち合わせに3号はファンに元気よく答えた。


「……」


「どうかしましたか?」


 3号が返事をした後、ファンは何か考えながら3号の方を見ていた。その事に気づいた3号はファンへと尋ねた。


「ああ、いえ。ゴーツさん、そういえば3号さんに合う丈の給仕服ってありましたか?」


「ああ、そういうことでしたか」


 ファンが気になっていたのは3号の背丈に合った制服があるかだった。


「確かに今ある服じゃとちと大きいのう。……まあ、3号のその服でも別に構わんじゃろう」


 ゴーツは制服のことをしばし考えると3号のメイド服自体が給仕をしても違和感のない服なのでそのまま通すことにした。


「分かりました」


「それで大丈夫なのですか?」


 ゴーツの決定にファンはそのまま了承したが、3号はそれでいいのかと気にかかっていた。


「この町は色々変わった者が多いからのう。何事も臨機応変じゃ」


「そういうことです」


「……そうですか」


 ゴーツの言葉に3号は今までこの町で見たことをしばし思い浮かべた。そして確かに一癖も二癖もある人間が多かったと納得した。


「それでは3号さん、明日から改めてよろしくお願いしますね」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「では失礼します。おやすみなさい」


「はい。おやすみなさいませ」


 最後にそれぞれ挨拶を返すと3号とファンは自室へと戻っていった。


「……ふぅ、3号の購入も滞りなく終わったことじゃし今のところは順当じゃな」


 二人が去った後、ゴーツは一人今日のことを振り返った。


「この生がいつまで続くかは分らんが、いい思い出を期待しておるぞ」


 ゴーツは物心ついてからの記憶を何一つ忘れず持っていた。その能力こそがゴーツは英雄、あるいは大天才と呼ばれるようになったきっかけだった。

 しかし、それ故にゴーツは過去の失敗や惨事を全て記憶していた。そのため、ゴーツはいい思い出を作るために画策するのだった。



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【キャラ情報】


名前:ゴーツ・ゴーマン 

種別:元人間♂ 

年齢:110(うち封印期間約40年)歳

身長:167㎝


名前:イバラ 

種別:人間♂ 

年齢:24歳

身長:174㎝ 

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