1-4 再会(2/2)
「……ゴーツさん、私が働くのは明日からとのことでしたよね?」
酒場の様子観察を始めてから10分ほど経った時、居ても立ってもいられなくなった3号はゴーツに声をかけた。
「もしや3号、今からでも働きたいのか?」
「あ、いえ……その、どうにも見ているだけというのが落ち着かなくて。すみません」
ゴーツの読みは当たっており、内心を見抜かれた3号は頭を下げた。
「……よし、それではせっかくじゃから3号には賄いでも作ってもらうとしようかの」
「賄いですか?」
「ああ、酒場では閉める前に店員たちで賄いを作っておるのじゃ。のう、ズラ。少し厨房を借りてもいいかのう?」
ゴーツは3号の様子を見て賄いの仕事を任せることにした。そのため彼は厨房に向かって大声で叫んだ。
「ん、厨房をか? 開いてはいるけど何に使うんだ?」
ゴーツの声に一人の男性がゴーツの方へと振り返った。その男性は筋肉隆々の大男で頭にはフルフェイスの兜を被っていた。
「3号が何か手伝えることはないかというので賄いでも作ってもらおうかと思ってな」
「ああ、そういうことか。念のため聞くけどちゃんと料理できるんだよな?」
「そういうことなら安心じゃ。チモック製ホムンクルスは造られた時から料理に関する知識が組み込まれているうえ、向こうでも作っておった実績がある」
「ならいいぜ」
ゴーツが賄いのことを伝えるとフルフェイスの男性、ズラは快く承諾した。
「よし、3号。ズラからの許しが出たので厨房へ行くとしよう」
「はい、了解しました」
ズラに確認を取ったゴーツは、3号を連れて厨房へと移動した。
「とりあえず8人前。材料はここにあるのを適当に使ってくれたらいい。誰か横につけた方がいいか?」
「いえ、大丈夫です」
「儂もおるし問題なかろう」
厨房へとやって来た3号にズラは簡単な説明をすると付き添いがいるかどうかを尋ねた。しかし、3号はそれを断り、ゴーツも自分がいるから大丈夫だと断った。
「……身長は大丈夫か? 適当な台でも持ってこようか?」
「いえ、足場なら大丈夫です」
ズラは厨房の高さが3号に高いのではと考えた。しかし、次の瞬間、3号の目線が少し高くなった。
「……浮いてるのか?」
突然の事態にズラが3号の足元を覗くと3号の体が20cmほど宙に浮いていた。
「いや、よく見ろ。ズラ。見にくいが3号の足元に板のようなものがある」
ゴーツの指摘によってズラは3号の足元付近へ目を凝らした。そこには薄っすらとした透明の板のようなものが存在していた。
「……本当だな。これは障壁系の魔法か?」
「はい。私たちチモック様製のホムンクルスは護衛用としてこの障壁魔法が使えるように作られているんです」
透明な板の正体は障壁魔法によって作られた障壁で3号はそれを足場にしていた。
「なるほどな。でもこれじゃあ作っている間、出しっぱなしだし疲れないか?」
「それなら大丈夫です。お屋敷にいた時もずっと使っていましたから」
「儂からも補足しておこう。彼女たちはこの障壁魔法を扱うように調整されておるから魔力消費量が普通よりもかなり少ないそうじゃ」
ズラは続いて障壁の長時間展開について指摘した。しかし、障壁魔法を使用するために最適化されている3号には長時間展開も苦ではなかった。
「そうか。まあ、何か困ったことがあれば呼んでくれ」
「はい、了解しました」
「それじゃあ任せるぜ」
3号とゴーツの話に納得したズラは他の作業へと戻っていった。
「ところでゴーツさん。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん、なんじゃ?」
「答えられない質問であればいいのですがズラさんはどうして兜をかぶっていらっしゃるんですか?」
3号はズラが離れたことを確認するとズラの兜についてゴーツへと小声で尋ねた。
「ああ、それはな。昔、鍋をひっくり返って大火傷をした跡が今でも残っておるそうじゃ」
「そうでしたか。こういっては失礼かもしれませんが気になってしまいましたので」
「それについては誰でもそう思うじゃろうから仕方ない」
うつむく3号に対してゴーツはフォローを入れた。実際、ズラの兜を見て気にならなかったものは誰一人としていなかった。
「それはそうと賄いは何を作るのじゃ?」
「そうですね。この材料だと……野菜と鶏肉の煮込みを作ろうと思います」
「ほう。それではお手並み拝見といこう」
3号はその場にある食材から作る料理を決めると手慣れた手つきで料理を開始した。
「皆さんお疲れ様です。こちら賄いの野菜と鶏肉の煮込みになります。どうぞ召し上がって下さい」
酒場の業務が終わり、残った料理人や給仕たちに3号の作った賄いが振舞われた。
「あっ、普通に美味しい」
「ズラさんのよりおいしいんじゃ」
「……確かにいけるな」
3号の作った賄いは、中々の高評価だった。
「中々好評のようじゃな」
「なあ、ゴーツさん。これだけ料理が出来るなら厨房に立ってもらった方がいいんじゃないのか?」
「悪いが3号には早くここに馴染んで欲しいのもあるからのう。しばらくは給仕中心で行こうと思う」
「そうか。そういうことなら仕方ないな」
3号の料理の腕は申し分なく、厨房の戦力は多いに越したことはなかった。しかし、厨房よりも給仕の方が周りと接する機会が多いためゴーツは彼女に給仕を任せることにしていた。
「ああ、それからファン。この後予定はあるかの?」
ゴーツはズラとの会話を終えると女給のファンへと話しかけた。
「いえ、特には。お風呂で汗を流して休むぐらいです」
「ならちょうどよかった。3号も一緒に浴場まで連れて行ってはくれんか?」
「3号さんをですか?」
「ああ、細かい説明をしたいところじゃが儂が女湯に入るわけにはいかんからな」
「確かにそうですね」
ゴーツの言い分にファンは納得し、浴場の案内を引き受けた。
「あとこれは出来たらでよいのじゃが3号がここで給仕をやる間の指導係を任せたい。無論給金に上乗せはするし、無理そうなら途中でやめてもよい」
続いてゴーツはファンに3号の指導係の話を持ちかけた。
「……分かりました。私でよかったら3号さんの指導係やらせていただきます」
「ならよかった」
ファンは指導係の依頼についても快く引き受けた。
「というわけで3号。酒場での業務についてはこのファンの方が詳しいからファンに尋ねてくれ」
「了解しました。ファンさん、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いしますね」
ゴーツの説明に3号とファンはお互いに頭を下げた。
「ところで3号さん。3号さんは伝説の傭兵ハーゲン様を知っていますか?」
「……いえ、すみません。無知で申し訳ありません」
突然の話題の切り替えに詰まった3号は、ハーゲンのことを知らなかったので素直に答えた。
「そうですか。ハーゲン様が活躍されたのは今から10年以上前。3号さんはまだ生まれ……造られていないから仕方がありませんね。でもそれならいい機会なので私が今からハーゲン様のことをお教えしましょう!」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
3号はファンの好意に甘えることにした。そしてその瞬間、ファンの瞳が輝き出した。
「ありがとうございます! では、まずハーゲン様を語るに外せないのがハーゲンヘアとも呼ばれた前方に大きく突き出した特徴的な髪型です。この前に大きく突き出された髪型とその強さからハーゲン様は黒鬼とも呼ばれていました。この黒鬼と呼ばれるようになったのが23年前の……」
3号の許可を得たファンは伝説の傭兵ハーゲンについて熱く、早口に語り始めた。
「いつもの」
「これさえなければなあ」
「ズラさん、私たち帰っていいですか?」
「いや、片づけはちゃんとやれよ」
「バレましたか」
「そりゃあそうだろ」
嬉々としてハーゲンのことを語るファンとそれを聞かされる3号の傍ら、食堂の面々はその見慣れた光景を放置し、片づけを済ませると解散していった。
「……というのがたった一人で30人近い山賊を打ち破った『ヤーバン谷の死闘』というわけです。続いて……」
ファンのハーゲン語りはこれから更に二時間ほど続いた。
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【キャラ情報】
名前:ファン
種別:人間♀
年齢:16歳
身長:181㎝
胸囲:Eカップ
名前:ズラ
種別:人間♂
年齢:37歳
身長:180㎝
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