ホムンクルス、ついに買われる!~爆乳専門店の元売れ残り~

ツインテスキー

プロローグ 目覚め

「……ん、んん?」


 共歴1290年、ある館の一室にて一人の少女が眠りから目を覚ました。彼女が寝ぼけた様子で体を起こすと掛けられていたバスタオルがするりと滑り落ち、服を着ていなかった彼女の起伏の少ない体が露わになった。しかし、まだ覚醒しきっていない彼女はそれを気にせず紫色の瞳を擦り、紫がかった黒髪を揺らした。


「……ここは?」


 眠たげな瞳で少女が周囲を見渡すとそこには様々な道具や空になった培養槽が置かれていた。


「お目覚めのようね」


「……えっ!?」


 そんな少女へ後ろから声がかけられた。少女が慌てて振り向くとそこには眼鏡をかけたメイド服姿の女性が立っていた。その女性は整った顔立ちでショートカットの黒髪や黒い瞳が目を引いた。しかし、それ以上に目立つのが女性の顔よりも巨大な胸の双丘だった。


「おはよう、3号。状況は分かっているかしら?」


 メイド服の女性は少女へと近づくと優しい声で尋ねた。


「……おはようございます。マリアさん、……で合っていますでしょうか?」


「ええ、大丈夫よ」


 “3号”と呼ばれた少女が女性の名前を確認すると女性、マリアはゆっくりと頷いた。


「その様子だと自分のことも大丈夫かしら?」


「はい。私はチモック・モウル様に作られた販売用ホムンクルスの……3号機、ということですね」


「正解よ」


 3号がマリアの質問に答えるとマリアは再び頷いた。3号の回答の通り彼女はホムンクルスという錬金術によって造られた人造人間だった。そして“3号”という呼び名は彼女の商品としての通し番号だった。


「特に問題はなさそうね。それじゃあ私はチモック様を呼んでくるけどあなたはそこの服を着て待っていてちょうだい。……サイズが合わなかったらごめんなさい」


 受け答えをするマリアも3号と同じ人物によって造られたホムンクルスだった。しかし、商品として造られた3号たちとは異なり、本人用に造られた存在だった。


「はい。了解しました」


 簡単な確認を終えたマリアは3号へ次の指示を出すと、ホムンクルス制作者のチモックを呼びに部屋から出ていった。


「……それにしてもこれはどういう?」

 部屋に一人きりになった3号は自らの体を不思議そうに見つめた。それからしばらくして我に返った彼女はマリアに指示されたメイド服へと慌てて着替え始めた。マリアから指示されたメイド服は彼女の物と同じデザインのもので多少の手直しはされていたがそれでも小柄な3号には大きすぎた。


____________________



「……やっぱりまだ大きすぎたわね。ごめんなさい、3号。後で調整しておくわ」


 3号が着替え終えて少しするとからマリアが一人先に戻ってきた。そして大きすぎてメイド服に着られるような状態になっている彼女を見たマリアは謝り、後で直すと答えた。


「いえ、これぐらいなら自分でやります」


「ごめんなさいね」


 服の調整を自分でやると答えた3号へマリアは重ね重ね頭を下げた。


「遅くなってすまない。3号、体に違和感はないか?」


 3号の服の話が一段落したところで一人の中年男性が部屋へと入って来た。彼こそが3号やマリアの制作者であるチモックであり、遅くなったことを謝ると3号の状態の確認を始めた。


「はい。特には」


「そうか。ならよかった」


 チモックからの質問に3号は軽く体を動かしながら答えた。その3号の言動にチモックはほっと安堵した。


「……ですが一つだけご質問をしても構いませんか?」


「……何かな?」


 しかし、安堵したのも束の間、3号からの“質問”という言葉にチモックは顔をしかめた。


「この体はどういうことでしょうか? チモック様はマリアさんと同じような背丈も乳房も大きなホムンクルスを作る予定だったと記録されていますが」


 3号には製造された段階で家事などの基礎知識に加えてチモックやマリアなどの情報も記録されていた。その中にはチモックが大の巨乳好きでマリアを作ったこと、販売するホムンクルスもマリア同様の巨乳ホムンクルスにしようとしていることも含まれていた。そのため、ホムンクルスは造られた姿から成長しないのもあって3号は小柄な自らの容姿に疑問を抱いていた。


「……やはり気になるか」


 チモックは3号の質問を想定していないわけではなかったがそれでも言葉を渋った。


「はい。ですが答えられないものであればそれでも構いません」


「……いや、答えさせてくれ。一言で言うなら私のミスだ」


 3号は製造者であるチモックに無理強いをするつもりはなかった。しかし、彼女のその真面目さから彼はその口を開いた。


「ミスですか?」


「ああ、販売用ホムンクルス1号を作った時には割と余裕があったから2号と3号は並行して作ることにした。その結果、お前の調整を失敗してしまった。だからお前の体が小さいのは私のミスなんだ。……すまない」


 チモックが言う通り、3号の体が小さい原因はチモックの管理不足によるものだった。理由を話した彼は3号相手に申し訳なさそうに頭を下げた。


「そう、でしたか」


「だがその様子だと見た目以外は特に問題はなさそうだから買いたいという者もいるだろう。だからあまり気を落とさないでくれ」


「は、はい」


 3号は制作者であるチモックに頭を下げられ混乱してしまったものの最終的には彼の言葉に安堵した。しかし、現実はそううまく行かずこれから長らく彼女は多くの同輩や後輩が買われていくのを見送ることになるのだった。



この物語は長身長巨乳専門ホムンクルス店で生まれた低身長貧乳ホムンクルスの物語である。

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