単身赴任

天川裕司

単身赴任

タイトル:単身赴任


彼は一家の大黒柱。

だが、家の中で邪険にされていた。

妻がおり、娘が1人いる。

妻は安月給のその夫をことごとく馬鹿にし、

娘も母親にならって実の父親であるその人を馬鹿にした。


(朝)


娘「行ってきまーす♪」


母親「いってらっしゃい♪今日は早く帰ってくるのよ」


娘「ううん、今日は友達と遊びに行くから」


夫「友達ってお前、男じゃないだろうな?」


娘「は?なんでアンタにそんなこと報告しなきゃなんないのよ?wじゃあ行ってきま〜す」


母親「いってらっしゃい♪…ほら、アンタもとっとと働きに行きなさいよ!家にいたら掃除の邪魔なの!」


彼は気が弱く、こんな時でも言い返せない。

何とか家庭を丸く収めようとする、

その努力が裏目に出ていた。


そんな時、彼は不思議な人に出会う。

ヒトミ「あなたはもうすぐ単身赴任することになるでしょう。その時こそ、第二の人生の始まりです」


夫「え?あ、あなたは…?」


その通り、彼は単身赴任することになった。

その赴任先で、彼はまた新たな女性と出会う。

道を歩いていた時、1人の女性が目の前で倒れこんだ。

彼は持ち前のボランティア精神を発揮させ、

彼女に近寄る。そして助けようとした。

でもそのとき見た彼女の素顔は絶世の美女。

他の人からはそう見えなくても彼にとってはそうだった。


カスミ「すみません、では私の家まで…。すぐ近くですから」


彼女は重い荷物を持っており、

それを彼は彼女の自宅まで持っていってあげた。


これが交際のきっかけとなり、

彼は赴任先でずっと彼女の家に通った。

彼女は持病の為、身の周りの事さえなかなかできない。

それを彼が手伝い、そのうち2人は親しい間柄になっていく。そして…


夫「あんな家に帰るより、ここに居たほうがずっと良い…俺はこの人と一緒になりたい…」

その正直な思いが強くなり、彼は離婚を考え始めた。


そんなある日の会社帰り。

夜道にあの不思議な人が現れた。


夫「あ、あなたは…」


ヒトミ「あなた、彼女との結婚を考えてますね?今の奥さんと離婚して。それはいけません。あなたには娘がいるでしょう?」


第二の人生がそこで始まると言っておきながら、

彼女はまるで彼を諭すようなことを言ってきた。

それに少し憤慨した彼は…


夫「あ、あなたがここで第二の人生が始まるって言ったんでしょう!?それはこういうことじゃなかったんですか!?」

とまず正直を吐露し、


夫「あの家にはもう帰れない。あの2人は俺なんていない方が良いと思ってるんだ。冗談じゃない、俺にだって人権がある!あんな母親の血を引いたから、娘もあんなになっちまったんだ!」


ヒトミ「けれどそれは親の勝手な言い分です。子供には何の罪もありません」


夫「あなたは…!普段のことを何も知らないからそう言えるんだ!帰れば針の筵!…昨日だって電話口で…」


(回想シーン)


夫「…やぁ変わりないかと思って」


母親「は?あんた誰?あーはいはい私の旦那様ですかwあんたに心配されなくても全然大丈夫よ♪てかあんたがいない方が生き生きしてるわ」


母親「あ、それダレ?新しい彼氏さん?」


娘「もぉ誰だっていいでしょ〜?w」


母親「そんなこと言わないで、今度お母さんにもその彼、紹介してよ♪」


夫「お、おい…」


(時間を戻して)


夫「…こんな感じでそれっきり、電話は切れました。あんな獣のような母親と娘、俺は自分の人生をかけても、いや捨てても、二度と一緒に生きてたくない…」


夫「父親失格と言われても何でも構いません。俺にはもう世間なんて関係ないんです。あなたも。俺は自分を必要としてくれる人としか結婚できない、一緒になれない」


「これって当たり前のことでしょう?」

みたいな勝手な言い分を散々吐き捨て、

彼はその赴任先に落ち着く決心をした。


ヒトミ「…どうやら本気のようですね。人生を捨ててでも、ですか。あなたを少し試してみました。それほど決心が固いなら、やってみたら良いと思います」


夫「…え」


ヒトミ「ただしもう二度とこれまでの生活には帰れないこと、これは覚悟して下さい。あなたの奥様と娘さん、そしてあなたの為です」


ヒトミ「その上でカスミさんと一緒になるのなら、私もあなた達を祝福しましょう」


それから彼女は、俺を最寄駅へ連れて行った。

夫「こんなとこに連れてきて一体…」


ヒトミ「あ、電車が入ってきましたね」

ホームに電車が1本到着した。そして…


ヒトミ「さぁどうぞ。足を一歩、電車の中に踏み入れてみて下さい。私の言った『覚悟』というのがわかると思います」


彼女の言う通り、足を一歩踏み入れてみると…


夫「う、うわあ!?こ、これは…」

踏み入れた足が電子分解するように消え、

もしそのまま乗っていたら

俺の存在そのものが消されそうな

そんな直感を受けた。


ヒトミ「ご覧のように、あなたはもうこの土地から離れることができません。つまり戻れないと言うことです」


ヒトミ「ここで一生を過ごす覚悟で、あのカスミさんと将来を歩んでいって下さい」


そう言って彼女は改札口を出て、角を曲がったところで…

夫「あっ…」

ポッと消えた。


(夫が元居た自宅)


彼の自宅の中には、まだ結婚して日が浅く、

娘が生まれた当時の写真が飾ってあった。

そしてそれがそのまま遺影となってしまったようである。

なので母親も娘も、彼を探す事はもうしなかった。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=3s9f8tyagPw

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単身赴任 天川裕司 @tenkawayuji

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