第14話 一段落がついて

 とりあえず近づいてみておっさんの様子を見る。

 白目をむいてぶっ倒れて、攻撃が直撃したせいか体がちょっとすすけてる。


「えいっえいっ」


「ちょっと、つつくのはやめなさい」


 その辺に落ちていた木の棒でおっさんをつついてみたが、うぅと言うだけで反応がない。

 そのうちアヤミにも怒られてしまったし、仕方がないからこれで終了。


「でもこのまま目を覚ましたらやっぱり危ないんじゃないかな? 手でも縛っておかないと」


「ナイスアイディアね、エミ。じゃあ縛れそうなもの……は無いから着ているローブ脱がせてそれで縛りましょ」


 そうと決まればなんとやら、おっさんのローブを脱がせて手を縛ることにしたのだ。

 あっ、このおっさんよく見たら髪の毛がうっすい。だからローブを目深に被ってたんだな。納得。


 そうして手を縛り終えて数分、おっさんのまぶたがうっすら開き始めた。


「……ぅ、ぐぅ……! き、貴様ら、こんなことをして……! まだだ、まだ負けたわけではない!」


「いい加減にしろよおっさん。生え際が悪いぞ」


「ッ!?」


「いや、悪いのは往生際だよ! 生え際が悪いはダメ、普通に酷すぎるから。その発言は一線を超えちゃうよ」


「え~? ちぇっ、仕方ないなあ」


「こんな時までバカなこと言ってんじゃないの。……それに不審者、あんたの目の前に突き出たコイツが見えないわけ?」


 アヤミはショックガンをおっさんの眉間に突き付けてる。

 様になるなぁ、流石はガキ大将だぜ。

 あれ? 学級委員長だっけ? ……どっちも出たようなもんか。


「こんなおもちゃを警戒しなければならんとは……。この私が何故こうもやられるのだ」


「そんなこと言われたってなぁ。っていうかさ、結局なんで俺たちの居たダンジョンに現れたわけよ? おっさんが何やろうとしてるのが全然わかんないんだよね」


「ふん、素直に答えるとでも……」


「いいえ、あんたは答えるしかないのよ。撃たれたくなかったらね」


「くっ……!」


「あ、アヤミちゃん……。これじゃどっちが悪者かわかんないよ」


 わざと銃のさきっちょをおっさんにぶつけるアヤミ。

 エミなんて引いちゃってるぞ。


「ちっ、……何年も待ったのだ。外界とつながる時をな。空間転移魔法を完成させる事は出来たが、装置の補助無しでは無機物しか送る事が出来なかった。送った先で誰かが術式を込めた装置を起動させる他にない。ゴーレムの支配も私が所有するダンジョンまでしか効果を発揮しない」


「装置っていうと……あの石版のこと? でもあんなものすごく分かりづらくする必要あったんですか? たまたま発見出来なかったら、本当にそれまでですよ」


「術式が見破られるわけにはいかなかった。……しかし、送ったあとに手を込み過ぎたとも思った。故に数年の時間が掛かってしまったのだ。完璧を求め過ぎたツケだな」


「こっちからしたらはた迷惑な話だわ。あんたのせいで向こうはパニックになってんだから。そもそも何で地球に来る必要があったのよ?」


「貴様らの住んでる場所の名前など知らん。だが、魔法の研究の末、こことは違う世界の存在を認識する事が出来た。一研究者として未開の地を調べたいという欲求は抗えるものではない」


 そうなんか? 俺、研究とかよく知らないからなんとも言えないけど。

 あっ、でも知らない場所に行くって思うと確かにワクワクはするかな。そういうことか、納得。


「向こうにいた私たちを消そうとした理由は何よ? 研究が目的だったらそこまでする必要なんかないでしょ」


「ふん、ただでさえ他人など信用が出来るものでは無いのに、どんな文明を持ってるかもわからない未開の人間など……野蛮な振る舞いをされる前に片づけるに限る。その上でゆっくりと研究を開始するのが目的だった」


「失礼ですよ。よく知りもしないのに野蛮だなんて」


「そうだそうだ。そんな性格だから一度も友達ができたことないんだ」


「だ、黙れッ!! ――やめろ、それを突きつけるな!?」


 声を荒げるおっさんに無言で銃を突きつけるアヤミ。おっさんはビビって大人しくなった。

 こいつだんだん手慣れてきたな。


「私たちだけさらった理由は何? わざわざこんな姑息なことして」


「あの二人は想像以上の猛者だった。職業柄、その手の連中の強さには敏感なのだ。ならばと、まずはガキ共から片付けて、そのあとに一人ずつ始末をつけるつもりだった。……目論見は外れたがな」


 おっさんの悔しそうな声と顔。うっすらした頭皮も相まって悲壮感ってやつが透けて見えるぜ。


「さてと……。じゃあ聞きたいことも聞けたし、私たちを元の場所に帰しなさい」


「ふん、帰せだと? 確かに私はここまで追いつめられたが、何でも要求に乗ると思ったら大間違いだぞ。――ほれ、見ろ!」


 そう言うと、おっさんは通路の先を見る。

 何? なんかあるの?


 暗くてよく見えないけど、耳をすませば何か音が聞こえてくるような……。


「これって足音? もしかしてまだ手下がいたの!?」


「やってくれたわね……! 自分じゃもうどうしようもないからって……、今までの会話は全部時間稼ぎだったのね!」


「今更気づいても遅い! これで形勢逆転だなガキ共が、フハハハハハ!」


 ちょっとマズいかも。さっきのバトルで正直疲れ気味。

 たぶん俺の中のオーラがすっかからかんなんだ。これは困ったぞ。


「何が出るかな? 何が出るかな?」


「そんなワクワク要素ないよ!? もう、君はどこでもマイペースなんだから!」


「言ってる場合じゃないわ。ほら、不審者! 私たちの盾になりなさい!!」


「やめろ!? 髪を掴むな!!?」


 髪の毛を無理矢理掴んで立たせる。痛そう。

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