AnotherStory 2

そらと

第1話

私は図書館司書をしている。


自宅から割と近い駅にある公共図書館に配属になったので、通勤が楽で助かっている。


来月の図書館月報で″お勧め本″を紹介する係が回ってきたので、裏紙注1に思いつくまま、書名を書き綴っていた。


「月の本はありますか?」


低過ぎもなく高過ぎもなく、程よい甘さの中にどこか凛とした強さを秘めている声が降り注いできたのだ。

(え?めちゃめちゃ、私好みの声!)


顔をあげて更に驚いた。


こちらを見ていたのは、麗しいメガネ男子だったからだ。


(歳は私より少し若いくらい、多分。

更に言うと、煌太注2くんに少し似ていた。)


そこからは、軌道修正し、プロ然として答えていったつもり。




帰宅後、夕飯をとりながら思い起こす。


煌太くんに少し似てたな。

カッコ良かった。

いやいや、格好だけで中身が伴わないのは、ダメだから。


煌太くんのようにすべてが完璧な、ウルトラハイパーメガネ男子は、この宇宙上にはいないと思う。

そんなお方と出逢えた世界線には、感謝しかない。

彼が、人生(恋愛含む)の基準になってしまっている私は、ある意味不幸なのかもしれない。


少し似ている事で気になるのか、何か遺伝子的な要素なのか…その他の事なのか。

いくら素敵だと思っても、一度きりしか会わない人など星の数ほどいる。

また会えたら嬉しいのに。




入館してくる人を気にしながら、淡々と仕事をこなしていた日々だった。


あ!来た!

気になる彼は現れた。

ふと、精悍な顔つきになったように思えた。


「儀式の本。装束の着かたの本はありますか。」


「だれかを呪うとかそういう本ですかっ!」

ミステリー好きの私は、思わずそう結び付けてしまう。

「いやっ、違います!!」


そりゃ、そうですよね…すみません。

でも言いしれぬ迫力を感じるかも…。


その後は、プロ然として対応したはず。

また会えた喜びと、本選びの為に真っすぐこちらに向かって来てくれた事への喜びもあった。

(ちょっと舞い上がってしまったかも)


その後、交代で貸出カウンターに入った。

その時にちょうど彼が本を借りにきたので、利用者カードで名前がわかった。


薬利彰吾さん。

確か…これ、くずりって読んだよね。

くずりしょうごさん。

珍しい苗字ね。


本を借りたという事は、また会えそうだな。

(どうかブックポストに返さないで!

彼が入館する時には、絶対に居なさい、私っ!!)




「ふぅ…。」

待っているとなかなか来ないと感じるのは、何と言う現象なのだろう。

仕事に身が入らなくなりそうで、私は慌てて立ち上がり甲冑注3∶エプロンを整えた。


今日は午後から半休をとり、仕事帰りにお散歩をしていて見つけた、着付け教室に行く予定だ。

先生の体調不良で、度々お稽古が休みになっていたが、教室再開の葉書が改めて届いたのだ。

紗由利先生や紗季さんは、着物の色や柄、小物の取り合わせがとても粋なので、いつもお会いするのを楽しみにしている。


「こんにちは。」

「こんにちは、凪桜なぎささん。」

「早く着いてしまって…。すみませんが時間まで荷物を教室に置かせてもらえませんか。」

「今日は先約があって。ちょっと先生に伺って来ますね。」紗季さんがすっと立ち上がる。

紗由利先生や紗季さんは、所作がきれいで女性として憧れる。


紗季さんと一緒にお稽古部屋に向かった。

中に入ると、背の高い男性がいた。 

しかも装束姿だ。

珍しいなぁ。

…と、男性が振り向いた。


「!!薬利彰吾さん!?」

(なんというお導きなのでしょう!して、その装束姿、麗しいを通り越して、もはや神々しいです!)

「えっ!?」

「あっ!えっと、、利用者カードでお名前を…」

「あ、図書館の!エプロンがないと分からないものですね」と微笑んだ。

(その微笑み、永久保存モノでは!)


4人でのお茶会は、とても楽しかった。


私の事、凪桜さんって呼んだ。

″凪桜さん″って。

本当に良い声。耳がくすぐったい。


「あのっ、ちょっと気になったのですが…さっきの装束は?何かのイベントですか?」

「あらっ。えーっと、彰吾さん…?」

紗由利先生は、慌てて彰吾さんに目を向ける。


「あの装束は、趣味です!」

「しゅ…趣味ですか!雅で素敵ですっ!」



お稽古を終えて駅に向かう。

今日は、思わぬところで彰吾さんとお近づきになれたな。紗由利先生に感謝。


それにしても彰吾さん、装束が趣味だなんて。

私とぴったりなのでは?


「姫」

「はい、殿」


なぁんちゃって♪


ーFinー


***********************

注1:印刷済コピー用紙を再利用したもの。まさに裏面を使います。

 

注2:私の初恋の人。幼馴染みであり姉の彼氏。史上最強の麗しいメガネ男子。AnotherStory参照。


注3∶図書館司書にとって、エプロンは甲冑と同じです。(これは私だけの感覚です。)

仕事は、常に戦闘モードでしています。

(いえ優しくご案内しています。私は小心者なので、この様な表現となります。)

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AnotherStory 2 そらと @e_sorato333

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