第22話『あぁ、アメリアさんですね。初めまして』

人は見た目が十割である。


それ故に私はポンコツパチモン聖女でありながら、顔面偏差値が高い為こうしてリリィちゃんを慰める事も出来る。


美少女万歳である。


まぁニナとかに慕われてんのもそうだし。他の人に好感度高めなのもこの影響だろう。


お陰様で私は今日も元気に聖女様を出来ている訳だ。


しかし、そんなハリボテ聖女でも出来ない事がある。


それは……。


「……セシル様」


「はい。私はここに居ますよ」


よしよしと背中を撫でながらリリィちゃんが少しでも元気になれと祈る。


が、状況は変わらず。


ニナも何処かに行ってしまったし。どうしたもんかな。


私が本物の聖女ならサクっと解決出来るんだけど、私はエリカ様じゃないしなぁ。


うーん。うーん。どうするべか。


……。


考え中。考え中。


……。


ピコーン!


そうだ! 私がポンコツ聖女で駄目だって言うんなら、本物の聖女様に相談すれば良いじゃないか。


よーし。そうと決まれば、リリィちゃんをよしよししつつ、光の魔術を発動させる要領で光の精霊に意識を繋げる。


かつて上位契約を行った時の様に、光の精霊の根源に近づいてゆくのだ。


そして、光の精霊自身を精霊が作る世界の中で見つけると、彼女に触れてお願いをした。


どうか力を貸して欲しいと。


次の瞬間、部屋いっぱいに光を溢れさせながら、女神さまの様な方が降臨された。


しかし、その眩しすぎる光景も私にしか見えていないらしく、リリィちゃんは先ほどまでと変わらず私の腕の中で涙を流している。


なるほど。精霊ってその人にしか見えないのね。


私は新しい発見を頭に刻み込みながら、上位契約の時と同じく精霊さんに……いや、かつてこの世界に存在したという聖女様に話しかけた。


『あのー』


『はい! 何かお困りですか? お困りの気配を感じてきました!』


お困りの気配ってなんじゃいと思いながらも、先ほどまでの神々しい雰囲気を全て吹き飛ばし、ゆるい感じになった女の子を見る。


美人さが二十減って、可愛さが五千万増えた感じだ。


『はい。お困りです。実は、今私が慰めている子が居ると思うんですけど、これからどうすれば良いかなって、悩んでまして。どうかアドバイスを頂きたいなと』


『なるほどー。そういう場合はですね。抱っこしてよしよししたら元気になりますよ!』


『あー。なるほどぉ! それは名案ですね! まぁ、今まさにやってるんですけどね!!』


『そうなんですね。では泣き止むまで継続しましょう! 継続は力なり! ですよ! お婆ちゃんもそう言っていました!』


『……なるほど?』


何か考えていたよりも体育会系のお嬢さんだな。


というか、本当に聖女様なんだろうか。


もしかして間違えて別の人を呼んでしまったとか……!?


あり得る。


『あの。すっごく不躾な質問をしたいのですが、良いでしょうか?』


『はい! 何でも聞いてください!』


『えー。では、聞きますね』


『はい! どうぞ!』


『……』


ゴクリと唾を飲み込みながら、キラキラと物理的にもイメージ的にも輝いている少女に真剣な目を向けた。


そして、もしかしたら命を捨てるかもしれない質問をぶつける――!


『もしかして、もしかしてなんですけど。聖女様では無かったりします?』


『はい! 私、聖女様じゃないです!』


違うんかーい!!


あれー!? おかしいなぁ。光の精霊の気配が、エリカ様とか私の中に眠る聖女の力と酷似してたからきっと過去に居た聖女様が光の精霊になったのかなぁ。なんて想っていたのに!!


まさかの一般人!!


やらかしたー!


『あぁ、私ったらなんてことを! 勘違いさせてしまって申し訳ございません!』


『いえいえ。私が勝手に勘違いしただけですから』


『本当に申し訳ございません。一応名乗らせていただきますね。私、アメリアって言います。ただのアメリアです。聖女違う。私、普通の人』


『あぁ、アメリアさんですね。初めまして。私セシルって言います。普通のどこにでも居るセシルです』


『セシルさんですね。よろしくお願いします』


『はい。こちらこそ』


アメリアさんかー、可愛い人は名前も可愛いんだなと思いながら、ふと頭の片隅で何かが引っ掛かった様な感覚があったが、思い出せなかったので忘れる事にする。


思い出せないって事は大した事では無いのだろう。


『でも……そちらの子。泣き止みませんね』


『そうなんです。リリィちゃんは辛い事を溜め込んでしまう性格なのか。今絶賛吐き出し中ですね』


『あら。それはお辛いですね。私なんていつもポヤポヤ生きてますから』


『あ。アメリアさんも同じなんですね。私もなんですー!』


『セシルさんもそうなんですか!? こうなると何だか楽しくなっちゃいますね!』


『歌とか歌いますか!? もっと楽しくなるかもしれないですよ!?』


『それは良いですね! っと、言いたいですが、流石に泣いているリリィさんをこのまま放置は可哀想です。名前も私の妹と同じですし、やっぱり気になってしまいます。セシルさんと楽しい夜を過ごすのはリリィさんを慰めてからにしましょう』


『そうですね』


という訳で、二大聖女っぽい雰囲気を持ちながら全然聖女じゃ無かった同盟でリリィちゃんを慰める事にした。


何とも頼りないが、三人寄れば文殊の知恵……って一人足りないや。どうする? 一人増やす? 増えるのか聞いてみるか。


『あの。アメリアさん』


『はい。何でしょうか!?』


『光の精霊の中にいくつか気配を感じるんですけど、呼ぶ事って出来ますか? 私じゃアメリアさんにしか触れられなくて』


『出来ますよ。どなたをお呼びしましょうか?』


『出来れば、人間関係トラブルに強そうな方を』


『あー。それならオリヴィアちゃんが良いですかね。ではお呼びしますねー。オリヴィアちゃーん』


気の抜けた声と共にアメリアさんが何もない空間に手を突っ込んで、そこから一人の女性を引っ張り出してきた。


その女性は私やアメリアさんよりも年上に見えるとても綺麗な人だった。


てか、胸デカ。


しかし、いやらしさはない。清廉潔白という感じだ。


おっとりお姉さんタイプか。良いね!


『はい。アメリア様。何か御用でしょうか』


『はい! 実は、セシルさんが困ってまして』


『そちらの件ですか。承知いたしました。事情は把握しております』


『あ! そうなんですね! 流石はオリヴィアちゃん!』


『い、いえ。アメリア様にお褒めいただくほどでは』


美人さんが、不意に見せる可愛い照れ顔って良いですよね。


きっとすぐにどんな病気も治る様になるよ。


『あの、聖女オリヴィア様、とお呼びしても良いでしょうか?』


『私の事はただのオリヴィアと。アメリア様が聖女ではないと仰っているのに、聖女様と呼ばれるだなんて、私には恐れ多いです』


また聖女じゃない人が出てきた!!


なんという事でしょう。光の精霊から出てきた人が二人とも一般人である。


どうなっとんねん!


いや、パチモン聖女の私が言うのもなんだけどさ。


『えーっと、では、そのオリヴィアさん? 何か解決策とかありますか?』


『はい。とっておきの作戦があります』


『おぉ!!』


流石はおっとり系お姉さんだぜ! ここに来て究極の癒しテクが来るのか!


『抱きしめて、よしよししたら大抵の事はどうにかなります』


お前もかい!!


ドヤってんじゃないよ! 状況把握してるって、アメリアさんと同じ意見やないか!!


『あれ。私も同じ事考えてたんですけど! オリヴィアちゃん! 気が合いますね!』


『あ、そ、そうなのですか? 照れてしまいますね』


ポンコツや……またポンコツが一人増えた。


もしかして光の精霊って、頭が緩い人と相性がいいって話ある?


うっ! なんか周りで光の魔術使える人見てるとそんな気がしてきた。


もう駄目かも分からんね。


私は変わらない状況に嘆きながら、リリィちゃんが泣き止むようにと祈り続けるのだった。


『頑張れ! 頑張れ! セーシルさん!』


『ファイトですー!』


溜息が出るよ。まったく。


勿論出さないけど。

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