第20話『ニナ! 貴女はまさに救世主です!!』
なるほど。と思う。
アリスちゃんやエリカ様に近づく上でどうやって近づくか、何も決まっていなかったが……弟君と結婚すれば良いのか!
そうすればアリスちゃんはお姉様になる訳だし。
後はエリカ様とアリスちゃんが、ただならぬ関係になれば、最高の環境が出来上がると言っても過言じゃない。
そして、後はデイビッド君が好きになれるだろうかという問題があるが……うん。まぁ結構好きになれそう。
とりあえずジーっと見つめてみたが、何か狐っぽい顔だよね。可愛いわ。
思えば私、前世の頃は狐が好きだったんだよね。
あの何とも言えないキュートな顔が、見ててもずっと飽きないからさ。それを思い出させるデイビッド君はとても好みだ。
後は性格だけど、まぁアリスちゃんが推してるのに、悪い性格な訳無いからね!
……これはもしかして最高の選択肢なのでは!?
どうせ元の世界には帰れないしね。
「確かに、デイビッドさんはとても素敵な人ですね」
「ホントに!? ならさ。ならさ。婚約とかする? お父様に言えばすぐに出来るよ」
「そうですね。では「いけません。セシル様」ぁえ?」
私はすぐ後ろから聞こえてきた声に振り返ると、普段よりもずっと冷たい顔をしたニナが私たちを見下ろしながら言葉を放った。
「え? 駄目ですか?」
「はい」
「いや、あの! 恋愛は、自由だと思うんですけど!」
「聖女エリカ様。大変申し訳ございませんが、これは聖国の問題です。セシル様には聖国の、それも教会に関わる人間の中から選んでいただかなくては。それが聖女様のお役目です」
「そんなのって無いと思います! 別にセシルさんは望んで聖女になった訳じゃ無いんですよね!? なら」
「もしセシル様の結婚が切っ掛けとなり、争いが起きたら聖女エリカ様はどの様に責任を取られるおつもりなのか。お聞かせ願いたいですね」
「あら、そい?」
ニナの言葉にエリカ様は、困った様にただ言葉を繰り返した。
そして、そんなエリカ様にニナはさらに連続して言葉を投げつけてゆく。
「聖女セシル様は多くの国でその力を使っています。そんなセシル様の事を狙う国は多い。最低でもセシル様を守れる人間でなければ、狙われ、争いを起こしてでも奪おうとするでしょう。だからこそ、中立でどこの国とも深く関係を持たない聖国に居るべきなのです」
そうなんだ。と自分の話ながら私はイマイチ実感が湧かず、ニナの話に小さく頷いた。
そして、アリスちゃん達も複雑そうに私を見ている。
あー。なんか重い空気になっちゃってるし。明るくしなけりゃ。
「あー。アハハ。なんかそういう感じだったんですね。私も結婚とかはあまり興味が無いので、このまま教会で過ごしても良いかな。なんて「駄目だよ!!」っ」
「そんな風に諦めちゃ駄目だよセシルさん。私は、そんな風にセシルさんが自分を諦めちゃうなら、聖国からだって攫っちゃうからね!」
「……! アリスさん!」
なんて格好いい!!
可愛くて格好いいとか最高かよ。このヒロイン様。
やっぱりアリスちゃん良いなぁ。護って貰いたいなぁ。
でも、一緒に逃避行というのは選択肢としてどうなんだろうか?
例えば私とアリスちゃんだけで逃避行?
そうなると聖女が減るから世界的には良くないよね。
それなら、エリカ様も含めて三人で世界救済の旅とかに出るか?
うーん。結構良さそうな案に思える。
しかし、私がうんうんと考えている間にも、お茶会の会場はとんでもない事になりつつあった。
「……私の居るこの場所でその様な発言。これは宣戦布告にも等しいですよ?」
なにせ、ニナが突然ブチ切れて、剣を抜こうとしているのだ。
いやいやいや。何をやってるのこの人!!?
「ニナ。それ以上は駄目です」
「……しかし! 私はセシル様の護衛騎士です。この様な言葉を許すわけには」
「それでも、駄目です。アリスさんには傷ついて欲しくない。それに貴女も」
「っ! ……はい」
「アリスさんも申し訳ございません。お誘いはありがたいのですが、多分難しそうです」
まぁー。やるなら国に拘らない方法を見つけないと駄目なんだよね。
国に拘らない方法かぁ。
そんな物あるのかなぁ。
「そういう事なら、どこの国にも所属しない組織を作れば良いのでは?」
「どこの国にも」
「所属してない組織?」
「その様な物があるのですか? デイビッドさん」
「いや、今は無いんですけど。聖女セシル様の話は、きっとエリカ様も同じだと思っていて、どの道将来的にはお二人の事を狙って、国家間の争いが始まる可能性があるんです。なら、そうなる前に、どこの国にも属さず、協力した国だけが恩恵を受けられる組織があれば、互いに睨み合う事で均衡が保てるかなと」
天才か!
やっぱりアリスちゃんの弟君なだけあって優秀なんやな。
美少女ゲームには名前くらいしか出てこないから、あんまり目立たない子なのかと思ったけど、やるやん。
これは将来期待できるのでは?
まぁ、それはそれとしてどういう組織なのかは気になる所だよね。場合によっては賛成できないし。
「とても良い案ですね。素晴らしいです」
「えっ、あ、はい。ありがとうございます」
「ただ、どういう組織にするのか。それをしっかりと決めなくては、世界から排除されてしまうでしょう」
「うーん。確かに。セシルさんの言う通りだなぁ」
「なら、私とセシルさんでお医者さんをやりますか? 皆さんの病気とか怪我を治す為に色々な国を渡るとか」
「それでも良いけど。多分二人だけじゃどっかで行方不明になっちゃうよ? わるーい人に捕まっちゃうかも」
「しかし護衛として戦力を雇おうにも、騎士はどこかの国か領地に所属してますし。難しいですね」
「ふっふっふ。遂に私の出番が来たようだね」
「アリスさん?」
「なら私が護衛として二人を護れば」
「不可能です」
「まだ最後まで言ってないでしょ!」
アリスちゃんの意見をニナがバッサリと切り捨てる。
実はあんまり相性が良くないのかな。なんて思いつつ、次の案を考えていたのだが、予想外の所から意見が飛び出した。
「ならば、金銭で雇うのは如何でしょうか」
「金銭? でも、騎士さんは国とか領地への忠誠を誓っているんですよね?」
「えぇ。それは間違いないです。聖女エリカ様。しかし、騎士ではなく、平民から人を雇うのです」
「平民から?」
「そうです。平民の中にも戦闘を行える人間は多く居ます。しかし、彼らはその力を発揮する場所を殆ど持ちません。精々、戦争が起こった際に雑兵として戦場へ行くくらいでしょう」
「でも、雇うって言ってもお金とか私たちありませんよ? それにニネットさんの話では一人や二人という訳じゃないですよね?」
「はい。そこでデイビッド様が提案された組織です。各国が資金援助をして、様々な雑用を仕事としてその組織に所属している人間に与えるのです。そしてセシル様、エリカ様もその組織に所属し、国や個人からの依頼で聖女として活動する。これならば国同士で相互に監視が出来ますし。お二人が依頼を受ける際には、護衛の資金も共に請求する事で、護衛の者たちにも仕事を与える事が出来るでしょう。そして資金援助をしなかった国にはその組織へ依頼が出来ないとすれば、どの国も参加する筈です。聖女様のお力はあらゆる国が欲していますから」
天啓であった。
ニナが当たり前の様に話している話は、まさに天啓だった。
これほどまでにちょうど良い案があっただろうか。いや、無い!
「凄い! 凄いです! ニナ! これなら多くの人が幸せになれます!」
「……確かに、そうですが、セシル様のご負担が」
「私が少し疲れるくらいなんですか! その様なものは生きているのならば当然です! でも、この組織があれば、国が対処しきれない魔物被害にも対処できるようになりますし。飢えて亡くなる方も減る! お金を得る手段が出来る! ありがとうございます! ニナ! 貴女はまさに救世主です!!」
「セシル様……いえ、私は」
「ありがとうございます!!」
私は興奮しながら立ち上がり、ニナの手を取って喜ぶ。
思わず目に涙が浮かんでしまうが、それほど興奮していたのだから仕方がない。
でも、これならばと思う。
私が追い求める理想に、最も近い。
エリカ様やアリスちゃんと一緒に居られて、世界の人たちが幸せになって、私も幸せに生きていける。
明日を笑って迎える事が出来る。
平和な世界が来る。
あぁ、私は今日まで生きていて良かった。そう思うのだった。
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