第16話『いったいどこの誰が起こした奇跡が私の事になってんの!?』
ジェイドさんの背に乗って、何とか無事王立学院へ戻ってきた私は、騎士さん達に事情を聞かれ、咄嗟に散歩していたと伝えていた。
我ながら何を言っているんだという感じではあったが、騎士さんは淡々と頷いてくれたので問題なしだ。
しかし、私の言葉が上の人に、そしてさらに上の人にと伝わった結果……。
「はじめまして。でしょうか。私、リヴィアナと申します。リヴィアナ・ガーラ・ヴェルクモント」
「これは丁寧にありがとうございます。私はセシルと申します」
何故か王族の方とお話しする事になってしまったセシルです。どうもこんにちは。
なんでやろうなぁ。
私にも分かりません。
「えぇ。存じております。べべリア聖国の聖女様ですよね」
「そう呼ばれてはいますね。聖女様と呼んでいただけるほど素晴らしい人間ではございませんが」
「いえいえ。素晴らしい奇跡の噂をいくつも聞いておりますよ。失われた森林を復活させたとか。死者を蘇らせたとか」
「……」
知らねぇぇえええええ!!
何の話!?
とりあえずニコッと聖女様スマイルで誤魔化したけど、マジで知らない話が飛び出してきたんだけど。
いったいどこの誰が起こした奇跡が私の事になってんの!?
「是非とも私も目の前で見てみたいですね」
いやいやいや、待ってくだされ。待って!!
マジで知らないんだって、何の話をしてるのさ!
どう答えれば良いか分からず、完全に頭がおかしくなっていた私の代わりに、ニナが口を開いた。
「失礼ですが、リヴィアナ様。聖女様に対してご無礼な発言は慎んでいただけますか?」
ニナぁぁあああ!! 失礼なのは君だよ!?
向こうは一国のお姫様なんだからさ!! あんまり敵意むき出しの発言したら、ほらぁ! 向こうの騎士さん達がみんなイラっとした顔してるじゃん!!
「リヴィアナ姫様。大変失礼な発言をしてしまい、申し訳ございません」
「聖女様!?」
「ニナ。ここは聖国ではありません。私はあくまでヴェルクモント王国に招かれた身。それを忘れてはいけませんよ」
「はい。申し訳ございません」
「ニナ。謝る相手が違うでしょう?」
「……申し訳ございません、でした。リヴィアナ様」
「い、いえ」
何かちょっと引いてる? っぽいリヴィアナ姫様に笑いかけながら、なんとかリヴィアナ様に赦しを請うた。
ホンマ、ニナには気を付けてもらいたいもんですな。
相手は例の腹黒ヤンデレ監禁王子や、主人公エリオット君の妹君だぞ。
何かトラブル起こして監禁されたり、ヒロインの添え物にされたらどうするの。
よく考えて行動して貰いたいですね。
「……確か、私の聖女としての力を拝見されたいとの事でしたが、生憎と己が起こした事に対して詳しくないので、どのような事をしたのかお聞かせいただけますか? さすればリヴィアナ姫様の望みを叶えられるやもしれません」
「それは……その、私の所には噂程度しか届いておりませんから」
知らんのかい!!
あー。もう、ホンマ噂って面倒ね!
これじゃ情報が全く集まりませんよ! wikiが整備されてないんですけど!?
「そうですか。ニナ。何かご存じですか?」
「森林の復活とは、おそらく聖女様が行った、植林事業の事では?」
「……あれは奇跡では無いでしょう」
「しかし、一月ほど聖女様が植物に光と水の魔術を与え、成長を促しておりましたから、それを見た者が聖女様の奇跡と伝えたのかもしれません」
「そうですか。大変申し訳ございません。リヴィアナ様。おそらく森林を再生した奇跡というのは、森の恵みが復活するという事を知った、近くに住む村の方が喜び広めた話の様です。どうか、お心を悪くされませんよう。それに、しいて言うのであれば、私が原因ですし。何か罰則があるのであれば、聖女を名乗りながら奇跡を起こせなかった私に」
「いえ! 罰則などは何もありませんよ!」
「そうですか。それは安心しました。後は死者を蘇らせたという話ですが……こちらはニナ。何かご存じですか?」
「はい。それに関しては私もよく覚えております。リリアーヌの事ですから」
「あぁ、リリアーヌさんの件ですか。それならばよく覚えております。死者の復活に関してですが、この件については奇跡ではなく、技術です」
「技術、ですか?」
「はい。心臓マッサージと人工呼吸ですね。例え胸の鼓動が止まっていようと、呼吸が無かろうと、助かる術があるのだという教えです。これは資料にして後で送らせていただきますね。騎士の方だけでなく、事故や怪我で胸の鼓動や呼吸が止まってしまった方に対して行ってください。確実という訳では無いですが、可能性はあります。息を吹き返す可能性が」
「……」
何かリヴィアナ姫様が呆然としているんだけど。どういう状態?
あー、いや、まぁ、あれか。何でもかんでも魔術で何とかしてきた世界だから、医療行為にあんまり詳しくないのか。
それなら何言ってんだ? コイツみたいな目になるのも分かる。
まぁ、私も前世で教えて貰わなかったら知らなかったしね。
いやー。そう考えると、あの消防のお兄さんに感謝しないと。
異世界に来ても、私、お兄さんの教えを守れてますよって。
前世でも最期まで役に立ったし。今も役に立ってるし。やはり技術は人を助けるって事ですね。
亮君が将来の事を考えるなら資格が必要だって言ってた理由が良く分かる。
って、それは別の話か。
「という事ですので、私は何ら奇跡を起こせぬ者なので、聖女ではなくただのセシルとお呼びください」
「いえ。その様な事は出来ませんよ。聖女セシル様。少なくとも貴女と直接話をして、私は貴女を侮る様な事は出来ません」
「リヴィアナ姫様はお優しい方なのですね」
ホンマいい人過ぎてビックリする。
こんなパチモン聖女に敬意を払ってくれるとは。王族ってのは凄いのねぇ。
「……聖女セシル様。二人きりでお話しする事は可能でしょうか?」
「はい、構いま「聖女様!!」……っ、ニナ?」
「いけません。聖女様。つい先日あの様な事があったばかりで!!」
「ニナ。私はお散歩をしていただけですよ」
「それは……」
「であれば、リヴィアナ様。大変申し訳ないのですが、ニナや私のお世話をして下さっている方を、私たちの姿が見える場所に居ていただく事は可能でしょうか?」
「はい。それであれば問題ありません」
流石のリヴィアナ姫様である。乙女ゲームにも美少女ゲームにもちょいキャラとしてしか登場しないけど、凄いいい人なんだなぁ。この人。
感動しちゃう。
という訳で、巨大な中庭の向こう側にニナやリヴィアナ姫様の護衛騎士。それにメイドさん達にも移動して貰って、このテーブルには真実私とリヴィアナ姫様だけになった。
そして、リヴィアナ姫様は声を聞かれぬ様にと言って、風の魔術が刻まれた鈴を鳴らした。
これでテーブルに座っている私たちの声は、外に聞こえないらしい。
凄いもんだ。
「まずはお礼を。私の無茶を聞いてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。大した事ではありませんよ」
「それでですね。まずはこちらの水晶を見ていただきたいのですが……」
「はい。分かりました」
私は何だろうと思いながら水晶を覗き込む。
私の顔が歪んで映し出された。
「よく中心部を見て下さい。そこに何が見えますか?」
何だろう。占いごっこかな。と思いながらも私はその中心に意識を合わせてゆく。
そして、暗い世界へと意識を落とすのだった。
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