第14話『あの夜も、こんな月の日だったな』
いやー。お恥ずかしい限りだ。
何かもう色々とこみ上げてしまって、まるで子供の様にワンワンと泣いてしまった。
しかも小さな子によしよしされるオマケ付き。
恥ずかしすぎるだろ。
「……昨日は、その、お恥ずかしい所をお見せしました」
「せーじょさま。もうだいじょーぶ?」
「まだ寝てても良いのよ?」
「いえ。お二人のお陰で凄く元気になりましたから」
心配そうに私の寝ている布団の上で、ちょっとだけ獣ちゃんモードになったリゼットちゃんとコゼットちゃんに笑いかけながら、私は元気アピールをした。
しかし、流石は非攻略キャラクターでありながら、人気投票に毎度食い込む化け物姉妹。近くで見ると破壊力ヤバいな。
いや、まぁロリキャラはロリってだけで一定の人気を集められるからね、分からんでもない。
だが、思い返していただきたい。このゲームの隠しキャラという名のメインキャラクターを。
そう! ロリなのだ。
アリスちゃんはロリ。つまり属性は被っているという事になる。
だというのに、それぞれにファンが居て、それぞれ票を伸ばしている。
ここから考えられることは……ロリ好きって派閥あるんだなぁ。という事である。
ううむ。闇が深そうだ。
「お前、大丈夫か?」
「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「……」
胡散臭そうに私を見るジェイドさんに、ちと困ったなと思いながら曖昧に笑った。
今までであれば、原作キャラクターに会うだけでテンションが上がっていたのだが、この人はちょっと特殊だ。
何を隠そうこのジェイドさん。悪党キャラなのである。
とは言っても所詮は攻略キャラクター。エリカ様の魅力に負けて悪党辞めるんですけど……まぁ、ここに居るのは真の聖女かつ主人公であるエリカ様でも、メインオブメインヒロインで聖女の中の聖女であるアリスちゃんじゃないからね。
ワンチャン死ぬ。
だって、ジェイドさんって人間を恨んでるキャラクターだったし。
リゼットちゃんやコゼットちゃんと一緒に暮らしている時点で、二人の親も殺されたのだろう。
どこの誰がやったのかは、ゲーム内では語られないけど、回想CG見る限り結構大きな組織なんだよね。
はい、クエスチョーン!! かつてジェイドさんが暮らしていた場所は獣人の国の外れだったのですが、その獣人の国に対して国単位で接触していた国はどこでしょう!!
デデデデデー、デデン!!
『べべリア聖国』デス!
もう無理でしょ。こんなの。
それに、聖国出身ってだけじゃなくて、聖国の聖女なんで、トップの中のトップなんですよねぇ。
わりぃ、私死んだ。
だって無理だよぉ。こんなの! 出会った瞬間に終わりみたいなもんじゃない!!
しかもさ。流行り病で治療薬を手に入れる為に結構な無茶してるから、本当に人間と敵対関係にあるんだよね。
出会った時とか、殺されかけるからね。エリカ様。
しかしそこから大逆転ラブラブルートに入るとは……流石はエリカ様だわ。
でもまぁ、これも自業自得かぁ。
大教会に入ってから私が食べてきた物も、着てきた服も何もかも、全部他の誰かから奪った物だしね。
悪は滅びるのが必然……なんて。
「んで? お前は、どこから来たんだ」
「え、と。ヴェルクモント王立学院の方から」
「そうか。ならそこまで時間は掛からないな」
「……?」
「何、妙な顔してんだ。連れて行ってやるって言ってんだよ」
「え!?」
「驚きすぎだろ」
いや、だって! ジェイドさんは本当に心を許した人しか背中に乗せない筈じゃあ。
だからこそ、エリカ様に絆されて、それで! その絆の証の筈では!!?
「もしやお前、俺に王立学院まで運ぶのは無理だと考えているんじゃないだろうな? 舐めるなよ。その程度俺には余裕だ」
「いえいえいえいえ! その様な事はございません! ただ、私の様な者を乗せるのは」
「私の様なって、お前聖女だろ?」
「あ、はい、一応そういう事になっております」
「しかも聖国の聖女。そうだろ?」
し、知られてるー!!!!
あ、分かった。これ送るよと言ってるけど、それはコゼットちゃんやリゼットちゃんの前で、血生臭い話をしたくないだけで、誰も居なくなった場所でコッソリ殺られる!
「せーこくの、せーじょさま!?」
「聖女様! 聖女様だ!」
「なんだお前らも覚えてんのか。まだ小さかったのにな」
ジェイドさんがリゼットちゃんとコゼットちゃんを撫でている姿を見ながら、癒されていたが……現実逃避している場合じゃない。
殺される前に遺書を残しておかないと、もしかしたらエリカ様とジェイドさんが敵対する様な事態になってしまう可能性がある。
そうなれば、もう最悪だ。
私のせいでこの世界がぐちゃぐちゃになってしまう。
そうなってしまったら、もうどうお詫びをすれば良いか……。
「ねぇ、ジェイド。もっと聖女様と一緒にいたい」
「いたい」
「駄目だ。聖国の人間は厄介だからな。さっさと返さねぇと何をされるか分かったもんじゃない」
うっ! も、申し訳ございません!!
「じゃあ、行くぞ」
ジェイドさんは私の腕を掴むと、そのまま空中に放って、獣の姿になり私を受け止めた。
「ジェイド! もっと優しく!」
「けがしたら、たいへん!」
「ヘッ。誰がそんなミスするかよ。じゃ、お前ら大人しくしてろよ」
「あ、あの! 二人とも。ありがとうございます。この事は忘れません!」
「またねー」
「また」
「はい。もし、私が無事生きていたら、また会いましょう!」
私は大空へと駆けだすジェイドさんの背中にしがみ付きながら、地上で手を振っている二人に最期の挨拶をした。
おそらく、生きては帰れないけれど、また会えたら会いたいものだと思う。
聖女を辞めて、二人と暮らす生活なんてのも憧れるな。
そしたら、ジェイドさんとエリカ様のイチャラブ生活を見ながら、コゼットちゃんやリゼットちゃんと生きるのも良いかもしれない。
その場合、私はアリスちゃんと結婚すれば良いのかな。
なんて、ありもしない妄想を頭の中で繰り広げながら、ジェイドさんにエリカ様の良さを伝えて、私もついでに生き残らせてくださいとお願いする計画を考え始めるのだった。
何ら良い案を思いつけないまま、ジェイドさんの背に乗って空を駆けていた私だったが、あまりにも考えすぎて疲れたのか。ジェイドさんに凄いですね。なんて話しかけていた。
「あん?」
が、そんな意味不明な言葉を向けられたジェイドさんが怖い声で返事をしてきた事で、私は正気を取り戻し、必死に謝罪する。
流石に怒りのままに地面に叩きつけられるとかは許して欲しいと思ったからだ。
しかし、意外にもジェイドさんは私を振り下ろす事もなく、むしろ先ほどよりも優しい声を向けてくれるのだった。
「そんなに謝るな。こういう喋り方が癖になってるだけだ」
「そう、なんですね」
「んで? 何が凄いってんだ」
「あ、いや、その。こうやって空を飛ぶように駆けてゆくのは凄いなぁと思いまして」
「そうか?」
「そうですよ! きっとマラソン……あー、いや。世界中の早い人を集めた中で一番早く走れると思いますよ! 憧れますね」
まぁ、前世で私体育の成績最悪だったしね。
今も同じだけど、走ってるのか、歩いてるのか分からないレベルとはよく言われたものだ。
「そうかい。まぁ、どれだけ早く走れても出来ない事の方が多いけどな」
「それは、確かに、そうかもしれないですね」
「まぁな」
「でも」
「ん?」
「大切な人の危機に、間に合うかもしれません。手が届くかもしれない。それはきっと、良い事だと思いますよ」
「……お前」
私は空に浮かぶ月を見ながら息を吐いた。
あの夜も、こんな月の日だったな、と。
「なぁ、お前の名前を教えてくれねぇか?」
「……私の名前、ですか?」
「あぁ」
「私は、セシル。ただのセシルです」
「そうか。俺はジェイドっていうんだ」
「そうなんですね。ではよろしくお願いいたします。ジェイドさん」
私はどこか懐かしさを感じながら、頭を下げた。
私という異物を排除する為に現れたであろう、世界の守護者に。
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