第10話『まさか、もう攻略したのか!? チョロード卿を!?』

正直に言おう。既に勝ち確定であると。


先日、色々な偶然が重なり、運命の出会いを果たした私と、アリスちゃんエリカ様の二人。


そして、何かよく分からないけど、私の事を誤解していたお詫びと、これから仲良くしましょうという事でお家に招かれたのだ。


いや、もう勝ったやろ。


家に招くって相当な仲良しじゃないとやらないよ。


まぁ私、前世じゃそうやって招いた人に私の物盗まれたけど。


しかも返してって言ったら、本当はこんなの要らなかったって言われて壊されたけどね。ハハッ、笑える。


しかもその後また盗まれたし。後は、学校で水泳の授業中に下着盗まれて、最悪だったな。売るつもりだったのかな。可愛い子だったし。私のを盗んで錬金術するつもりだったのかもしれん。


いや、前世の事は良い。大事なのは今の事だ。


そう。今日はアリスちゃんの家でお茶会という事なので、なるべくおめかしして最高のドレスとかで行こうと思ったのに、ニナからいつもの服を用意されてしまい、結局いつもの聖女服で出掛ける事になってしまった。


これ、失礼じゃない? 大丈夫?


心配になりつつもアリスちゃんの家に行くと、普通に歓迎されてお庭でお茶会をする事になった。


メンバーは私とアリスちゃんとエリカ様。


あぁ、天国はここにあったんや。


世界で一番安心出来る場所ですよ。ここが。


護衛騎士さんも優秀な人ばかりだろうし……って、ちょっと待て!


何かしれっと紛れ込んでるけど、見覚えのある顔が居るぞ!!


マルク・ヴェイン・ガーランドォ!!


貴様ァ! 何淑女だけの楽園に紛れ込んでるねーん!!


エリカ様! この男は信用しちゃあいけませんよ!


コイツ、正統派イケオジ騎士みたいな見た目して、結構オラオラ系なんですよ!


いや、年から考えればオラオラでも良いのか?


待て待て待て! 駄目だろ! エリカ様の年齢の倍やぞ!? どう考えてもアウトです。本当にありがとうございました。


しかも相当チョロいからみんなコイツの甘い言葉に騙されて、すぐこのルートに入っちゃうんだわ。


そして、突然のガン攻めムーブ。


手を出す速さは全攻略キャラ中最速。チャラ男先輩より早いってどういう事やねん! 騎士ィ!


やはり年か。年を重ねすぎて焦ってるのか。


しかし、こんな場所にまで侵入してくるとは……。まさか、もう攻略したのか!? チョロード卿を!?


早い! 早すぎる!


落ちるのが早すぎるぞチョロード卿! そんなんだからお前、チョロード卿なんて言われるんだぞ! チョロード卿!


「お家での小さなお茶会と聞いていたのですが、凄く多くの人が居るんですね」


「あー。いやー。それについては、大変申し訳ないのですが、実は小さなお茶会ではなくてですね」


「えと、どういう事でしょうか?」


「実は、ヴェルクモント王国の王太子殿下も参加される事になりまして」


申し訳なさそうに語るアリスちゃんに、脳死で気にしないでと言いながらアリスちゃんの言葉を考える。


ヴェルクモント王国王太子? って事は王子って事だよね? あーいや、王位継承権第一位の王子だっけ。よく覚えてないわ。


って! 王子!!


まさか、エリオットか!


アイツ、もうアリスちゃんを攻略しに来たのか!?


馬鹿め!! アリスちゃんは隠しキャラだ!!


そうそう簡単に攻略出来るもんかよ!!


ククク。なんだそういう事か。


可哀想に。主人公エリオット。君は何も知らないんだな。


アリスちゃんを攻略する為には超重要な要素が二つある。


一つ目は主人公エリオットが転生者であるとアリスちゃんが知り、しかも前世で自分たちが幼馴染であったと知る事だ。


これは正直条件を満たすのが凄く難しい。


当たり前だ。アリスちゃんが転生者だと知らずに、突然自分が転生者だと語る事など出来ない。


だからまずはアリスちゃんが転生者だと知って、エリオットが自分もそうだと告白する必要がある。


しかし、アリスちゃんは可愛くて天然で純粋で可愛くてちょっと抜けてて可愛いけど、前世の記憶があるという事に関しては結構慎重だ。


かなり信頼ゲージを溜めて、その上で、その信頼ゲージを大きく削るくらいの勢いで心を揺さぶるしか無いのだ。


難しいぜ? これは。


しかもこの関門を超えてからもさらに関門がある。


それはアリスちゃんが前世で助けられなかった大切な人の話だ。


話しぶりからするに、おそらくは年下の女の子だったのだろうけど、この子の事で、アリスちゃんは人と深く付き合う事がトラウマになってる。


だから、主人公エリオットが大きなイベントを起こさない限り、攻略は難しいのだ。


例えばそうだな。原作ゲームみたいに、ドラゴンが現れて、単身ドラゴン退治に向かった主人公に、好感度が相当高い状態のアリスちゃんが助けに来て、そこからトラウマごとアリスちゃんを抱きしめる様な気概を見せねば、アリスちゃんは落ちない。


チョロード卿とは違うのだよ。隠しキャラのアリスちゃんは。


ふふん。という訳で、王子が来ようとも何ら問題は感じないね。


「すまないな。少々来るのが遅れた」


「いえ。アルバート殿下。ご足労いただき、ありがとうございます」


「その様な固い返事をするな。アリス嬢、それにエリカ嬢……そして、今日はよろしく頼むよ。聖国の聖女殿」


お、おおおお、お前は! 腹黒監禁王子やないか!!


「……よろしくお願いいたします」


何とか挨拶をして椅子に座った私だけれど、取り繕っている外側とは違い、内側はそれはもう大荒れだった。


当然だろう。


平和な乙女ゲームの世界で、いくつものバッドエンドを雨の様に降らせる男、アルバート・ガーラ・ヴェルクモントが現れたのだから。


思い出すだけでもトラウマになりそうな話がいくつもあるが、その中でもトップクラスに酷いのはやはり、人が寄り付かない王城の奥に監禁されるエンディングだろう。


『お前を妻として迎える事は出来ないが、ここで私だけを見て生きて行け。聖女は自らの傷を癒せない。昔はこの事実に苛立ちを覚えたがな。今はこれ以上なく喜ばしい事だと感じているよ』


という王子の台詞と共にエリカ様が薄暗い部屋で項垂れている様子が画面に表示されるのだ。


アタイ! こんなCG回収しとう無かった!


だってさ、この時のエリカ様、足に鉄製の枷が嵌められてんだけど、その上に何か傷があって、有識者によれば足の腱切ってんじゃねって。


それで逃げられない様にしてるんじゃねって。お前、ホンマ。


そしてこのエンディングは、最後に幸せそうな結婚をする王子とお嬢様の姿を、遠くに見るエリカ様という構図でエンドクレジットだ。


製作スタッフ君はホンマにこのエンディングで良いと思ったのか?


ちなみに、乙女ゲームと美少女ゲームが同じ時間軸の話なのでは無いか、という説が出てきたのはこのエンディングが原因だ。


遠くで行われている結婚式に出ている女性がアリスちゃんと激似なのだ。


「可憐なお嬢さん方の茶会にお邪魔出来るとは、幸運に感謝しなくてはいけないな」


この王子、マジでやってんな。


美少女ハーレムを権力で作るとか、マジでふざけてるわ。


しかも人の良さそうな笑顔を浮かべているが、バッドエンドの九割が監禁エンドでハッピーエンドすら実質軟禁みたいな監禁大好き男だ。


故に誰が呼んだか腹黒ヤンデレ監禁王子。


ロクなモンじゃないよ。お前の野望は私が絶対に阻止してみせるからな!!


エリカ様とアリスちゃんは、この私が攻略する!!


このお茶会で最高に好感度上げて、セシルちゃんラブラブな所まで持っていってやるよぉ!


と、まぁ気合を入れたけれど、実は王子のバッドエンドを回避するのは簡単だ。


そう。フラグがあるんだよ。


ドラゴンイベント開始前に、王子からちょっとアレな告白を、水で作った簡易監禁部屋の中で言われなければ大丈夫だ。


よくよく考えるとアレも結構病んでるよな。コイツ。


見た目だけは良いのにな。金髪碧眼の爽やか王子って感じで。


中身が駄目過ぎる。


何で無駄に監禁のバリエーションだけ凝ってるんだよ。おかしいだろ。


という訳で、バッドエンドのフラグは分かっていても、何があって発狂するか分からないので、要注意だ。


コイツが簡易監禁部屋を作ったのを確認したら、即破壊しなくてはいけない。


絶対の絶対にだ。

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