第65話
マリオとアリアはカレンを宰相執務室へ連れて行った。
ものすごく不機嫌そうに執務机に座っているのは、アランの父親であるフェリシア侯爵だ。
「あら、結局おじ様が?」
「いや、まだ仮だ。ほら、ここ見て」
机の上に置いてある役職札に『宰相(仮)』と書かれている。
「チェスに負けたのですか?」
「違うよ。今回はキリウス殿下とロックスとメリディアンが理詰めで来やがった。三対一だぜ? 勝てるわけがない」
「なんと言われたのです?」
「まずメリディアンは娘が王太子妃だから邪推する者が出るからダメ。ロックスは娘が王太子の側近だからダメだってさ。キリウス殿下は王族が宰相になっては拙いからって。それなら王族の籍を抜けて、大公か公爵になればって言ったのだけれど、便利だから抜けたくないそうだよ」
「まあ! でも、それで言うならおじ様だってアランのお父様じゃないですか」
「アランは次男だろ? 喜んでロックス侯爵家が婿に迎えるんだってさ。うちは長男がすでに侯爵家の仕事を手伝っているだろう? だから暇だろうって言われると何も言い返せん」
「なるほど。それは反論の余地なしですわね」
「うん、だからものすごく悪政をしまくって、私腹を肥やしてやろうかなって思ってるよ。俺は前任者より上手くやれるから、バレる前に貯めた金を持ってトンズラさ。どう? このプラン。ところでそのオレンジ色のお嬢さんは何をそんなに怒っているのかな?」
マリオが口を開く。
「やっちゃいましたので連れてきました」
フェリシア宰相(仮)が溜息を吐く。
「まあ黒幕が全部しゃべっちゃったもんね。そりゃ焦るだろうさ。で? 殿下はちょっとは靡いたの?」
「いえ、全く。むしろ友達だと信じていたと言われ、ひどく傷つかれているご様子です。今はアランが側にいます」
「ああ、そうか。そりゃ気の毒だが、良い勉強にはなっただろう。それでアリア、そのオレンジちゃんをどうするつもりなのかな?」
「仲間の誼で選ばせてあげるって言ったのですが、最後まで聞かなうちに取り乱しちゃったので、連れてきました」
「なるほどね。君の考えは?」
「いっそバッサリ?」
「おぉぉ! 過激だねぇ。うん、おじさんそういうの嫌いじゃないよ。でももう一度よく考えてごらん。王太子夫妻も含めてちゃんと話し合うんだ。それまでは貴族牢にでも入れとくか。自室軟禁にすると、逃げられる可能性があるかもって考えちゃうでしょ? そうなると罪を重ねさせてしまうよね? 本人のためにも良くない」
フェリシア宰相(仮)が目配せをすると、後ろに控えていた護衛騎士が頷いてカレンの腕をとった。
「嫌よ! 私は悪くないわ! 死にたくない! 死にたくないの!」
逃れようとするが、鍛えた騎士にかなうはずもなく連れて行かれてしまった。
それを見送った宰相(仮)が改めてふたりを見る。
「マリオ君はどう思う?」
少し考えた後で口を開くマリオ。
「俺は彼女も被害者かなって思ってます。あんな勉強しかしてこなかった小娘なんて、粗雑な策だったとしても騙すのは簡単だったはずです。でも今日彼女がやったことに関しては、罰を受けるべきだと思います。見守ろうとして下さった妃殿下や友人だと信じていた王太子殿下に対する酷いうらぎりですからね」
「なるほど。では君はバッサリは反対なんだ」
「ええ、反対です」
フェリシア宰相(仮)がアリアの顔を見る。
プッと小さく吹き出すアリア。
「別に何が何でもバッサリなんて考えてないですよ?」
「ああ、安心したよ。未来のわが義娘が、そう簡単にバッサリバッサリいっちゃうようじゃ、アランの首がいくつあっても足りないからね。では、話し合った結果を知らせてくれ。私は私で少し考えてみよう」
頷いたふたりが部屋を出ると、フェリシア宰相(仮)がメリディアンとロックスに手紙を出した。
微笑ましそうに見送ったフェリシアが、次の書類に手を伸ばす。
「あれ? やっと出したのか。粘ったねぇワートルも」
その書類はワートル男爵の爵位返上申請書と破産宣告書だった。
「おかしいな……あの廃鉱山は相場よりちょっと高めに買ってあげたのに破産なんてさ。俺の優しさが無駄になったじゃん。まあ、別にどうでもいいけど」
そう呟くと、バンッという音を立てて『承認』というスタンプを押したのだった。
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