第62話
「で? 結局全部喋ったの?」
ルルーシアの部屋で自室のように寛いでいたキリウスがマリオに聞いた。
「はい、どうやら殿下がサマンサと仲よくしているという話を聞いたダッキィ宰相、いや、元宰相ですね。娘を領地から呼び寄せて、サマンサに接触させたようです。どうやらかなり煽っていたようで、サマンサもその気になっていったのでしょう。娘を正妃にして仕事はサマンサに、そして自分は舅として国政を牛耳るって魂胆だったそうです」
「しかし短略的というか……我が国の宰相って存外おバカだったんだねぇ。具体的なやり方を指示すればテキパキこなすから便利だったのに、怪しい動きが増えたから警戒したらすぐこれだ。底が浅いよね」
「サマンサについては、徐々にその気になっていたところで結婚話を仕掛けたのだそうです。サマンサがカリスに相談し、カリスが父親に指示を仰いでサマンサに伝えていたという流れですね」
「なるほどね。あの二人はいつの間にか宰相の手駒にされていたってわけだ。学園で娘経由か……意外な盲点だったね。アマディもぜんぜん警戒して無かったんでしょ?」
黙って聞いていたアマデウスがゴフッと咽た。
「確かに警戒はしてなかったですが、そういう感情を持ったことが無いからしなかっただけですよ。僕はルルーシアしかいらないんですから」
キリウスがニヤッと笑う。
「だから? サマンサと王宮の森で平気な顔して密会してたのって」
今度はルルーシアが咽た。
「そうなのですか?」
「違う! 密会なんてしていない! 星の観察だ! なんとしても新星をみつけたくて……」
「新星?」
キリウスがアマデウスに肩を竦めて見せた。
アマデウスが困った顔をしながら頷く。
「うん……君にどうしても星を贈りたかったんだ。婚約する前からずっと……でもどうしてもみつけられなくてね。10年も探し続けてさ」
ルルーシアが驚いた顔でアマデウスを見た。
「10年! では殿下は8歳の時からずっと?」
「そうだよ。ルルに星を贈ることだけを夢見て、夜空を見上げてたんだ。でもそうしているうちに、だんだんと知りたいことが増えていってね。異国の遠望鏡を取り寄せたりしたよ。ロマニア国は天体観測が盛んな国なんだ。だから図鑑や古い書物も取り寄せた。読めないからロマニア語を一番に習得したんだ」
「ちっとも存じませんでしたわ」
「うん、そうだろうね。僕は女の子の集団を見ると、時々発作のような症状が出てたから、秘密にしてたんだ。ほら、王族がそういう弱みを公表するわけにはいかないでしょ?」
はぁぁぁぁっと息を吐いたルルーシアが聞く。
「ダッキィ元伯爵たちはどのようになさるのです?」
アマデウスが頷きながら答えた。
「宰相を辞めさせるのはもちろんだけれど、爵位は子爵に落として領地は没収だ。僕に対する暴言は別としても、ルルを正妃の座から引き摺り下ろそうとしたことは許しがたいから、きっちり慰謝料を払ってもらう」
「慰謝料っておいくらですの?」
「5億ルぺ。それでフェリシア侯爵からトール領を買い戻すつもりだ。そもそもはそこから始まったしね」
キリウスが笑い出した。
「バカだなぁ、まだまだ甘いよ。あのフェリシアだぜ? 5億で買ったものを5億で売るわけ無いじゃん。橋を修理したとか、道路を整備したとか、いろいろ言いだすに決まってる」
アマデウスの眉間に皺が寄る。
「だとすると、いくらくらいになるのでしょうか」
「俺なら最低7億だな。おっとこれは親戚価格だぜ? まったくの他人なら出だしは10億だ。折り合いをつけても8億は譲れんな」
「そんな……」
絶望的な顔をするアマデウスを、ニヤニヤしながら見ているキリウス。
マリオが慌てて話題を変えた。
「ルルーシア妃殿下はカリスに対する罰をお決めになったのですか?」
ルルーシアが思案顔になる。
「まだ迷っているの。結局のところ彼女の罪はただの『無知』だと思うのよ。無知だから反省も謝罪もしないし、無知だから人の言葉を疑わない。要するに、自分のやった事がどれほどのことかさえ理解できていないのだと思うわ」
アマデウスがじっと床を見ている。
「勉強しなおしてもらいましょうか。中等部から全寮制の女学校で」
「中等部からですか? 随分年下と席を並べることになりますね」
「でも彼女のレベルはそれくらいじゃないかしら。本人も言っていたけれど、まったく勉強していないらしいし」
アマデウスが勢いよく立ち上がった。
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