第31話
一方先祖代々の墓参に向かう馬車の中では、アマデウスの言い訳攻撃が繰り広げられていた。
「ルルを傷つけたことは本当に反省しているよ。僕がバカだった」
心の中ではうんざりしながらも、笑顔を絶やさないままルルーシアが聞く。
「殿下はご自分のどの行動が私を傷つけたとお考えですの?」
「君に相談もなく側妃を迎えた事でしょう? しかも婚姻と同時になんて……本当に自分でもバカだと思うよ」
「それだけ必死だったということでしょうか?」
アマデウスがポリポリと頬をかく。
「あの時は……そうだね、必死だったのかもしれない。唯一の友を失うということが途轍もなく恐ろしくなってしまったんだ。また誰とも星の話ができなくなってしまうって、そのことばかりを考えてしまったんだろうね」
「私ではお話し相手になりませんか?」
慌てて首を振るアマデウス。
「そんなわけないよ。ルルが聞いてくれるなら嬉しいけれど、これ以上の負担をルルにかけるわけにはいかないだろう? それに星の話は僕が君にしてあげたかったんだ。だから結婚するまでには知識を溜め込んでおこうと思った」
「まあ、左様でございましたか。知識を溜め込むためのお相手がサマンサ嬢ということですのね?」
「まあ、そういうことになるね。僕のまわりで、ちゃんと星のことを知っているのは彼女だけだったんだよね……でもよく考えたら、わが国には天文観測所もあるし、探せばきっと星が趣味という人もいたはずだ。ねえルル、僕がなぜ趣味を隠したかったかは話したよね」
「ええ、伺いましたわ」
「その令嬢が誰だったのかは本当に思い出せないんだ。いつだったかもはっきりとは覚えていない。でもね、そう言われて泣いていた僕に叔父上が言ったんだ」
「キリウス殿下が? なんと仰ったのですか?」
「何でもいいからひとつだけ仕事以外で興味が持てるものを作れって。そのひとつを突き詰めていけば、自分の自信にも繋がるし、心のよりどころにもなるからってね。そして、そういう心の拠り所を持っていると、余裕も生まれるし、その余裕は女性にモテる秘訣だと教えて下さった」
「まあ……なんと言うかキリウス殿下らしいといえばそうなのですが。それが殿下にとっては星の観測だったのですね?」
「うん、そういうことだ。でもどうしても人には言えなかった。今となってはバカな事だと思うけれど、何度忘れようとしても忘れられないんだ。趣味のことを打ち明けようとすると声が出なくなるんだよね。その令嬢が薄紫のドレスを着ていたことまで覚えているのに、顔は思い出せない」
「本人に自覚は無くとも、人を傷つけてしまうこともありますわ。ずっとおひとりで耐えておられたのですから、お辛かったことでしょう。私は婚約者という立場をいただきながら、そんな殿下の苦しさに気づかず、本当に申し訳ございませんでした」
アマデウスが小さく頭を下げるルルーシアの手を握った。
「違うよ、ルル。僕はルルに会うたびに嬉しくて、自分の傷のことなんて忘れていたんだ。夜に部屋で一人になると思い出すだけで、いつも苦しかったわけじゃない。でもね、どれもこれも言い訳さ。僕が君を傷つけた。これは消せない事実だろう?」
ルルーシアは少し迷ってから口を開いた。
「そうですわね、私はとても傷つきました。きっと私よりも大切にしたい女性がおできになったのだと思ったからですわ。私がしてきた努力は何の意味も無かったのだと考えると、冷静では居られませんでした。そして殿下はそれを私に隠そうとなさった……」
「絶対違うけど、ルルがそう思っても仕方がない行動だった。本当にごめんね。一生をかけて挽回するつもりだよ」
フッとルルーシアが視線を窓の外に投げる。
その先には丘の上に建つ小さな教会があった。
「殿下、先日の婚姻式で大教会長様が仰った言葉を覚えておられますか?」
「もちろん覚えているよ。僕の幸せが君の喜びであり、君の幸せが僕の喜びっていう言葉でしょ?」
「ええ、そのお言葉ですわ。私はとても感じ入りました。常に相手を見て、言葉を交わせとも仰いましたわ。私と殿下が交わした言葉といえば、国政のことや災害復旧のことばかりで、趣味とか楽しみとかの話はしたことがございませんでしたわね」
「そうだね。ルルは勉強が大変だったし、僕は父王からの無理難題に疲弊していた。でもルルはそんな僕に気付いて助言をしてくれたよね。ありがたかったよ」
ルルーシアが正面からアマデウスを見た。
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