理不尽と馬??

 ラグニスに王都へ行くことを伝えられてから半年が経ち、俺は四歳になった。


 半年間前にはラグニスの加速ブーストの動きを捉える事が出来なかったが。

 最近は五感強化の習得に成功し、完全ではないが加速ブーストの動きを捉えることが出来るようになった。


 この半年間でエレナには約束通り、修行の合間に大人っぽい言葉使いや態度を教えたが。

 スポンジの様に教えたことを覚えていき、今では大人顔負けの礼儀作法を身に付けている。


 半年前にラグニスに買って貰った剣闘魔法について詳しく書かれた本、モンスターについての本、植物についての本の三冊の本は、モンスターの生態や剣闘魔法の様々な修行方法や危険な植物の見分け方などの知らなかった知識を覚えることが出来たため、今では鞄に入れて持ち歩いている程に気に入っている。


 そうして、俺は魔力感知の修行をしながら半年間の充実した日々を振り返っていたが、此方へと向かってくる足音が耳に入った。

 その足音で王都へ行く為の準備が終わるまでの暇つぶしで修行をしていたのを思い出し、修行のために閉じていた目を開けて足音の主が到着するのを待った。


「レウル、馬車の準備が出来ましたよ。

 他の方々はもう馬車に乗り込んでいますので、少し急いで向かいましょう」


「……分かったよ、エレナ。

 それじゃあ、行こうか」


 俺は足音の主――エレナが以前と違う丁寧な言葉遣いで要件を伝えてくるの聴きながら、今の大人っぽいエレナも好きだけど。

 元気なエレナがもう見れないのかと思うと寂しいなと、俺は一抹の憂いを覚えながらゆっくりと立ち上がったが。


「レウル、そんなにゆっくりしていては遅れてしまいますよ!」


「えっ、ちょっ、グヘッ!!」


 エレナはそんな俺を緩慢かんまんとしていると判断したようで、以前と同じように風属性の魔法で拘束した後。

 その応用で俺を浮遊させると、庭へ向けて移動し始めた。


「エレナ、拘束がきついって!! エレナ!!」


「ッ!!」


 体を魔法がガチガチに拘束してきたため、俺はエレナに拘束を緩めてくれるように言ったが。

 エレナは急いで庭に着くことで頭の中が一杯になってしまったようで、俺の声を完全に無視して走るだけだった。


「あぁ、なるほど……」


 俺は今の状況に妙な既視感・・・を覚えたが、エレナの性別・・を思い出して既視感の正体を把握した。

 そして、負け犬のように項垂れた後、


「クソガァァァァァッッッッッ!!!!!」


 この世の理不尽オンナ達へ向けて獣のような雄叫びを上げた。









 この世の理不尽オンナ達に向けて雄叫びを上げてから数分後、俺はエレナに庭へ連れてこられていた。

 そして、視界へ入った馬車・・に遠い目をした後、ラグニスに視線を向けた。


「…………父様、”これ”は何でしょうか?」


「うん?? 何って、”馬”だけど??」


 俺は明らかに前世で見たことのある”馬”とは全く違ったため、ラグニスに目の前の”これ”が何かを問い掛けた。

 そして、ラグニスから目の前の”これ”が馬だと伝えられて頭を抱えたが、ひょっとしたら見間違えだったかもと淡い希望を持って再び視線を”馬”へ向けたが。


「そ、そうですか。

 あははは」


 そんな俺の淡い希望は真正面から踏み潰された。

 は前世の馬の三倍程の体格を持ち、足も前世の馬のように細いながらも屈強な体つきと言うよりも一本の柱と言った方がしっくりとくる程のものだった。

 そして、体には馬自身と同じく前世のものより三倍程大きい車を引いていた。


「……」


「よし、みんな乗ったね。

 それじゃあ、出発だ!」


 俺は目の前の馬について考えるのを止めると、二人のメイドが御者をしている馬車へ乗り込んだ。

 そして、最後にラグニスが乗り込んで御者に出発の合図を出した後、馬車は王都へ向けて出発した。


「うわっ?! ――すげぇ!!」


 馬車は出発してすぐに前世のジェットコースター並の速度まで加速し、体にものすごいGがかかってきた。

 俺は一瞬でここまで加速した馬車に驚愕した後、前世の人と同じほどの速さで移動する馬車とは違うと結論付けて純粋にその速度を楽しんだ。


「レウル、少し窓の外を見てみなさい」


「はい、分かりました」


 俺がジェットコースターのような速度を楽しんでいると、ラグニスから窓の外を見るように言われた。

 何故窓の外を見るように言ったのか不思議に思いながらも窓の外を見てみると――馬が進路に立ち塞がったモンスターを跳ね飛ばしながら進んでいた。


「本来は街道に立ち塞がったモンスターの相手をするから旅は時間が掛かるんだけど。

 馬車はああやってモンスターを止まらずに跳ね飛ばすことで、旅に掛かる時間を短くしてくれるんだよ」


「父様、確かに馬はすごいのですが。

 跳ね飛ばされたモンスターは大丈夫なのでしょうか?」


 俺はラグニスの話を聴いて跳ね飛ばされたモンスターのことが気になり、ラグニスにモンスターは大丈夫なのか訊いた。

 すると、ラグニスは俺の言葉に目を丸くした後、相好そうごうを崩した。


「やっぱりレウルは優しいね、大丈夫だよ。

 モンスターはアレくらいでは何ともないし、尚且つ街道に出でくるのは凶暴なモンスターだけだからね」


「そうですか――あれ??」


 俺はラグニスの言葉に安堵した後、何時もならこういう時に一番元気なエレナが今日は一回も声を上げていないことに気が付いた。

 エレナの方を見てみると、目を回して気絶していた。


「エレナ! 大丈夫か!?」


「あぅ……」


 俺は気絶しているエレナのところへ慌てて行って話し掛けたが、エレナは苦しそうな顔で小さな声を漏らすだけだった。

 俺は前世の記憶を呼び起こしてこういう時の対処法を探し、脈と呼吸を図った後に楽な姿勢を取らせるという方法を思い出して実行した。


「えっと、呼吸と脈は大丈夫。

 後は楽な姿勢を取らせてと――ふぅ、これでよし!」 


「レウル、呼吸と脈ってなんだい?」


 俺は対処法を使ってエレナの顔が少し楽になったのを確認し、満足げに頷いていたがラグニスからの質問で固まった。

 そして、壊れたブリキ人形のようにラグニスへ視線を向けると、ラグニスは満面の笑みで此方を見ていた。


「えぇっと、分からないです。

 無我夢中だったので、変なことを言っていたようですいません」


「……いや、僕も変なことを訊いてしまって悪かったね。

 あまり気にしないでくれ」


 俺はラグニスの質問に咄嗟に考えた言い訳をし、ラグニスからの返事を待っていたが。

 ラグニスはどうやら納得したようで、一回大きく頷いて俺に謝罪をしてきた。


「はい、分かりました。

 父様、そう言えば母様は馬車が出発してからずっと寝ていますが、どうしたのでしょうか?」


「あぁ、ミエールは馬車が苦手でね。

 何時も魔法を使って眠たまま過ごすんだ」


 俺は先程のことを再度聞かれるのが嫌で誤魔化すようにミエールのことを訪ねると、ラグニスはミエールが馬車が苦手で魔法を使って寝ていると教えてくれた。

 その後もラグニスと二人きりの空間で取り留めのない会話を続け、ちょうど話題がなくなり始めた頃に馬車は王都へと到着した。

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