迷子と謎の少女

 ラグニスと剣を買う約束をした次の日。

 多くの人が絶えず行き交うとても活気のある中規模の街・ファスタリトへと俺達はやって来ていた。


 俺達はファスタリトに着くと、早速武器屋へ行こうとしたが。

 ちょうど腹が空いたため、街の食堂で昼食を摂っていた。


「レウル、初めての街はどうだい?」


 ラグニスは食事を摂りながら、多少緊張した様子の俺に声を掛けた。


「そうですね、初めて街に来たので多少緊張していますが。

 それ以上に父様と出かけるのが楽しいですかね」


「そっか、じゃあ僕が緊張を解いて挙げないとね」


 ラグニスはそう言って頬を緩めた後、俺が一口食べたばかりの揚げ物を食べた。


「ごちそうさま」


 そして、悪戯いたずらの成功した子供のような顔をしながら微笑んだ。

 俺は以前と違い何とか耐えることが出来ていた。何故なら、闘気の修行をしている間も似たようなことをされ、ある程度は免疫めんえきが付いたからだ。


「……」


「それじゃあ、レウル武器屋に行こうか」


 俺が免疫が付いたことに泣くべきか喜ぶべきか悩んでいると。

 いつの間にかラグニスは料理を食べお代を払い終えていた。

 俺もそのことに気が付き、慌てて料理を食べると店を出た。







 食堂から暫く進むこと数分、目的の武器屋が見つかった。

 武器屋の見た目は普通の建物だったが、所狭し ところせましと置いてある武器や鎧が自己主張しているため店を間違えることはなかった。


「すいません、この子の武器を買いたいのですが」


 ラグニスは店にいる店員に話し掛けると会話を始めた。


「はい、分かりました。

 剣士用の物と戦士用の物、どちらをお買い求めでしょうか?」


「剣士用でお願いします」


「分かりました。

 それでは、此方の剣の中から御選び下さい」


 ラグニスは話を終えると、言われた物の中から剣を選び出した。


「うーん、やっぱりレウルは体が出来ていないから軽い物が良いよな。

 よし! これだ!」


 ラグニス暫く悩んだ後、俺に三本の剣を渡した。

 渡された剣はショートソード、ブロードソード、サーベルを更に短くしたような剣だった。


「……これがいいです」


 俺は三本の剣の中からサーベルを選んだ。

 正直、前世から持つことを憧れていた日本刀を持ってみたかったが、店を見回してもないようだったので、一番日本刀に近いサーベルを選んだ。


「分かった。

 すいません、このサーベルを買います」


「はい、此方ですね。

 10000ゴーネになります」


「はァっ!?」


 まぁ、何はともあれやっと自分の剣を持てると、浮かれていたがサーベルの値段に驚き思わず叫んだ。

 何故かというと、この世界では通過の単位をゴーネと言うのだがそれぞれ、

  銅貨(10ゴーネ)←大銅貨(100ゴーネ)←銀貨(1000ゴーネ)←大銀貨(10000ゴーネ)←金貨(100000ゴーネ)←大金貨(1000000ゴーネ)

 と、なっていて前世の日本円に換算すると10ゴーネ大体百円位だ。

 つまり、サーベルの値段10000ゴーネは日本円に変えると十万円になる。


 はっきり言ってまだ俺は幼く、今の体に合わせた物にそんなに使う必要はないと思い。

 ラグニスへ別の店で買おうと言ったのだが。


「何を言ってるんだい、いくら小さな時しか使わないとはいえ。

 安物を買ってレウルの身に何か遭ったらどうするんだい!」


 と、親馬鹿ラグニスに力説され、それでも何とか食い下がったが自身の浪費癖わるくせに敗北し結局受け取ってしまった。


「……」


「レウル、買うものは買ったから、近くの店を見て回ろうか。

 あ、小遣いを渡すから買いたいものを買っていいよ」


「本当ですか!」


 俺は自身の浪費癖わるくせについて落ち込んでいたが、ラグニスの提案に勢いよく顔をあげた。


「あぁ、本当だよ。

 レウル、何処か行きたい所はあるかい?」


「本屋へ行きたいです!」


 俺は行きたい場所を訊かれたため、以前から一度本屋へ行きたいと思っていたのを思い出し本屋を選んだ。


「分かった、本屋だね。

 それじゃあ、行こうか」


「はい!」







 ……と、武器屋を出て本屋へ向けて移動したのだが、今現在俺は”一人”で知らない場所に立っていた。


「……はァっ、またやっちまった」


 俺は手元にある大量の土産へと視線を向けて溜め息を吐くと、こうなった経緯を思い出していた。

 ――俺はラグニスに連れられて本屋に着くと、家には無かった剣闘魔法について詳しく書かれた本、モンスターについての本、植物についての本の三冊を買って貰った。

 その後にラグニスから小遣いを貰い、ミエールやメイド達へのお土産を買おうとした時に問題が起こった。

 お土産を買う際、この世界で初めての買い物で舞い上がってしまった。そのために浪費癖わるくせが出てしまい、お土産を必要以上に買った挙げ句、ラグニスからはぐれるという最悪な状態になっていた。


「まぁ、落ち込んでいてもしょうがない。

 取り敢えず、何処かで待っているか」


 何時までも考えごとをしていてもしょうがないなと、思い出すのを止めると座る場所を探すために歩き始めた。


「お、ちょうどいい場所があったぞ」


 少し歩いて探してみると、ちょうど近くにカフェがあったので少し休もうと店内に入った。


「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか」


「はい、そうです」


「それでは此方へどうぞ」


  店内に入ると女性のウェイターが丁寧に応対してくれ、歩道の方の窓の見える席へと案内してくれた。


「それでは、ご注文がお決まりになったらお呼び下さい」


 ウェイターはそう言うと別のお客の所へと給仕に行った。

 俺は暫くメニューを眺めた後、軽食とコーヒーを一杯注文した。


「美味しそうだな〜」


「そうだね、美味しそう」


「うん、そうだね――って、はァっ!」


 そして、俺が出てきた料理をナイフで切り、フォークを使って口に運ぼうとした時、真横から急に声が掛かって来た。

 思わず叫びながらそちらへと視線を向けると、そこには青色の目と白く肩まで伸ばした髪がとても綺麗な少女が座っていた。


 俺が混乱した頭で少女の顔を見ながら同じくらいの歳の子だな〜と、呑気に思った時だった。


「美味しい〜ー!」


「なっ」


 少女は俺が持ち上げたままだった料理をパクりと食べてしまった。

 あまりのことに唖然としていたが。


「もっとくださ〜〜い」


 少女が俺に顔を寄せて、そう言った所で現実に戻ってきた。


「あ、あぁいいよ」


 取り敢えず、俺自身はまだ昼食を摂ったばかりだったため、少女に料理を渡した。


「本当! それじゃあいただきま〜〜す」


「…………」


 どうやら、少女はかなりお腹が空いていたようで、俺から受け取った料理を恐ろしいスピードで食べていった。

 俺はその様子をコーヒーを飲みながら見ていると、ちょうどコーヒーを飲み終えたタイミングで少女も料理を食べ終えた。


「料理ありがとう、私お腹がものすごく空いてたんだ。

 私はエレナだよ、よろしくね!」


 軽食とはいえ飲み物を飲むのと同じスピードで食べた少女に俺が頬をひきつらせていると、少女が話し掛けてきた。


「俺はレウルだ、よろしく。

 けど、エレナは何故お腹を空かせていたんだ?

それから親は何処だはぐれたのか?」


 俺は話し掛けられため、少女へ幾つか気になったことを訊いてみた。

 俺みたいに親とはぐれたのかと、軽い気持ちで訊いたのだが。


「えぇ〜と、ごめんなさい。

 私、名前と魔法についてのこと以外はあまり覚えていなくて……」


「はァっ!」


 少女――エレナから予想していなかった言葉が返ってきて驚いた。

 俺は驚きのあまりエレナの肩を掴み大きな声で話し掛けた。


「あまり覚えてないって、自分の家や家族のことをかっ!」


「ひゃうっ! そ、そうです!」


「自分のことも覚えてないのかっ!」


「そ、そうだよ。

 あぅ、肩が痛いよぉ……」


 俺はエレナの声で肩を掴む手に力が入っていたことに気が付き慌てて手を放した。

 少し涙を見せながら声を上げたエレナにあの時の”女の子”が重なり慌てて謝った。


「ぁ……ご、ごめん」


「ぇ、えぇーと、あの、大丈夫だよ。

 ほ、ほら、痕も残ってないし、えっと、ぁ、あの! 痛がっちゃってすいません!」


 そうして、俺が謝ると今度はエレナが慌ててフォローをしようと、何故かオロオロとしながら半泣きで謝って来た。


「ぷっ、あはは! 何でエレナが謝ってるんだよ!」


 前世の出来事を思い出し、落ち込みながら謝ったが。

 慌てるエレナの姿が可笑しくて、俺は顔を背けながら笑った。


「……ほぇっ?」


 エレナは何故俺が笑っているのか分からないようで、間抜けな顔をしながら首を傾げていた。

 俺はその仕草に止めを刺され、口に手をあてがって大笑いをした。


「ハァ、ハァ……ふぅ。

 なぁ、エレナお前ものすごく面白いやつだな、もしよかったら俺と友達に――!」


 ひとしきり笑った後、俺は今だに間抜けな顔をしているエレナに話し掛けようとしたその時だった。

 俺とエレナが座っている席の回りを、いつの間にかフードに身を包んだ十人の男達が取り囲んでいた――。






  「あれっ、お兄さん達ひょっとして相席希望ですか?

 流石にそんなに座れませんし周りにいると暑苦しいんで、早くどっかに行ってくれませんか??」


 エレナを守るために俺は敢えて男達が注意を向けるように挑発したのだが。


「……」


 男達は挑発に乗る様子はなく、殺気を放ちながらゆっくりと距離を詰めてきた。

 俺はその事実に思わず舌打ちをした。


「チッ」

(クソッ、こいつら揃いも揃って挑発に乗らないってことは何かしらの組織か。

 不味い、最悪闘気で体を強化すれば大人とも闘えるがエレナを庇いながらなんてとても無理だ。

 おまけにまだ闘気は不安定で併用して魔法を使うことが出来ねぇと、よしだったら!)


「敵を焼き尽くす地獄の業火よ、出でよ『ヘルファイア』」


 頭の中で考えを纏めると、回りにいる男達ではなく天井・・へ向けて攻撃魔法を発動した。


「……ッ!」


 俺が魔法を発動して天井に大穴が空くと同時に男達は俺とエレナに襲い掛かった。


「エレナ! しっかり捕まってろよ!」


「う、うん」


 だが、それよりも早く俺は体を闘気で強化してエレナ抱き抱えると、天井に空いた穴から外へと飛び出して逃げ出した。

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