第19話 犯人
「……紫苑、大丈夫?」
ジンガに八つ当たりしてしまった紫苑は、保健室から飛び出した。
暴走の後遺症で情緒不安定になり、家族からも見放されたと落ち込むジンガに、何も関係の無い自分の境遇をぶつけてしまったことを紫苑は後悔していた。
「ありがとう、ジェイド。……あぁぁああ! 今のジンガがいつも以上に切羽詰まってるのは分かってたのに!」
「……仕方ないよ。フラーウィスにとって喉から手が出るほどの望みだとしても、紫苑にとってはそれがいい物だとは限らないから」
「……うん」
「さっきの話、俺が聞いてもいいこと?」
「うん。だけど、話すのはフリージアが起きてからでもいいかな? さっきは……その、こんな世界に来たくなかったって言っちゃったけど、本当はちょっと違うんだ」
紫苑はバツが悪そうに小さな声で言った。
「魔法だって、初めて見る国だって、凄く素敵でわくわくしてる。二人と友達になれて良かったし、おかげで誰も知ってる人がいない世界に、段々と好きな人達が増えてきてる。嬉しいことも楽しいこともちゃんと沢山あったんだ。それも、本心だから……フリージアとジェイド、二人には私のことを話したいんだ」
「……わかった。フリージアが起きるまで待つよ。俺もフリージアにとっても、紫苑は大切な友達だから」
「ありがとう」
聞きたいことは沢山あるはずなのに、待っていてくれる。その優しさに、紫苑の心はあたたかくなった。
「後で、ジンガにも謝らないと。思いっきりビンタしちゃったしね」
「……あれくらいが、フラーウィスには丁度良かったんじゃないか?」
「ふふっ、ジェイドって意外とたまーに辛辣だよね」
「まぁ、フラーウィスがいい態度じゃないのは事実だからな。俺だって、あれだけ突っかかってこられたら、少しは苛立ったりもするんだよ」
そう言っておどけてみせるジェイドに紫苑は声を出して笑った。
すっかり普段の調子に戻った紫苑は、魔法で見たジンガの記憶のことをジェイドに話した。
「ジンガの記憶でね、変な記憶を見たの」
「変な記憶?」
「うん。ジンガがエクレール先生に薬を渡されている記憶……。生徒が暴走する事件が、最近頻繁に起きてるって言ってたよね? ……こういうのってさ、犯人がいてもおかしくない、よね……?」
紫苑の言葉から何を言おうとしているのか察したジェイドが、怒ったように反論した。
「紫苑が言いたいことはわかるけど……でも、エクレール先生は違う。人々を守る騎士団長が、そんなことするはずないだろ?」
「分かってる……。私だって、エクレール先生はいい人だって信じたい。だけど、それじゃあ、あの渡してた薬はなんなの?」
暴走、薬、と来れば、どうしても想像してしまう。
エクレール先生がジンガに渡したのは違法薬物みたいな代物なんじゃないのかっていうことを。
「……エクレール先生に直接聞こう」
「えっ。もしも本当に悪い薬なら、はぐらかされてしまうだけなんじゃ」
「……うん。だから、気づいてないふりをしてカマをかけてみよう」
そう言うと紫苑とジェイドは、エクレール先生のいる保健室へと戻って行った。
「エクレール先生! この前見たんですけど、ジンガに渡してた薬って何の薬なんですか?」
「紫苑!? ……それのどこがカマをかけてるって……?」
「この前見たんだけど〜って自然に聞いてるじゃん?」
あっけらかんと言ってのける紫苑に、ジェイドが大きくため息をついた。
「あぁ、あれは不眠症に効く薬だよ。ジンガは認めたがらなかったから、押し付ける形になってしまったけどね」
「不眠症……。よかった……」
「急にどうしたの?」
ほっと胸を撫で下ろす紫苑をエクレール先生は不思議そうに見つめている。
「ほら、違っただろ?」
「じゃあ、なんで……急に暴走する生徒が増えたんだろう」
紫苑の疑問に応えるように、開いたままの保健室のドアの方から、ガリッと飴を噛む音がした。
「あれ〜? また会ったね〜。新入生ちゃんたち♪」
ドアの前には、街で出会った派手な服装のツインテールの少女が、にんまりと不敵な笑みを浮かべて立っていた。
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