第16話 友達を助けたいの

 



「「フリージア! 危ないっ……!」」


 ジェイドと紫苑が叫んだ。

 逃げられない、とフリージアは助けていた生徒を庇うように覆いかぶさると、ぎゅっと目を閉じた。


 ジンガの水球が物凄い速さで襲いかかり、フリージアは水の中に閉じ込められてしまった。

 もがいても、もがいても、水を掴めずにフリージアの手が空を切る。


「フリージア……ッ!」


 フリージアを助けようと、ジェイドが風魔法で水を分裂させようとするも、動揺からか上手く狙いが定まらなくなっていた。


「……くそっ……! こっちにまで……!」


 そうしている間にもジンガの魔法は威力を増していき、手当り次第に近くにあるものを取り込もうとしている。

 逃げ遅れている生徒を避難させるのに手一杯で、エクレール先生も身動きが取れなくなっていた。


「このままじゃ、フリージアが溺れちゃう……っ! 何か、私に出来ることは……」


 焦る紫苑が何か使えるものはないかと、きょろきょろと周りを見回した。

 けれど、魔力の塊のような水球に抵抗出来るような物などなく、魔法には魔法でしか対抗出来ないという事実だけが紫苑にのしかかった。


「私にも魔法が使えたら……。もう、不発ってなんなの! ここで友達を助けられなかったら、世界なんて救えっこない!」


 自分を奮い立たせるように、紫苑は決意を口に出した。

 想いが言霊となって、思考がクリアになる。

 焦る心とは裏腹に、紫苑は自身が冷静になっていくのを感じた。


 フリージアに向けて杖を構えると、紫苑はありったけの魔力を込めて解き放つ。


「なんでもいいから、フリージアを助けられる魔法、出ろーーー!」


 紫苑を中心に、まばゆい白い光が周囲を包み込んだ。

 白い光に包まれた水球が、ぼこぼこと形を保てずに崩れていく。


 魔力による操作を失った水球は、ただの水となって地上へと溢れていき、解放されたフリージアが投げ出された。


 どさり。


「……っ、……げほっ、……ごほ……っ」


 落ちてきたフリージアをジェイドがお姫様抱っこで受け止めると、フリージアは真っ青な顔で咳き込んだ。


「……っ、よかった、フリージア……っ!」


「……いまの、紫苑……が?」


 駆け寄る紫苑に、フリージアがか細い声で呟いた。


「多分、そうだと思う。……だけど、自分でも何をしたのかわからなくって……」


「……そっか。あり、がと……」


 混乱している紫苑にお礼を言うと、フリージアは意識を手放した。


「フリージアは俺が校舎まで運ぶ」


「うん、わかった。私は、さっき何をしたのかわからないけど、役に立てるかもしれないから……!」


 大元の一番巨大な水球を壊したものの、まだ暴走し続けているジンガを見つめて、紫苑は強く杖を握った。


「……エクレール先生っ! 私の魔法でジンガを止められないかな!」


「……やってみてくれ!」


「……はいっ! いっけぇぇえ!」


 全力で放った時とは違って、紫苑の杖から小さな白い光の球がジンガに向かって飛んでいく。

 ジンガの操る水球に魔法が当たると、水球の威力が段々と弱まっていき、ただの水に戻ってぴしゃっと地面へと落下した。


「もしかして、紫苑の魔法は魔力除去アンチ魔法か、弱体化デバフ魔法なのか……?」


 攻撃されたと思ったのか、反射的に攻撃してきたジンガの水魔法が紫苑へと迫ってくる。


「……紫苑、危ないっ!」


 エクレール先生が叫ぶ。

 咄嗟に、攻撃を避けようとした紫苑が斜め上へと飛び退いた。


「…………えっ?」


 確かに紫苑は全力で攻撃を避けようとしていた。

 けれど、それはあくまで気持ちだけの問題で、人間の身体能力上、ジャンプして避けることは困難だと紫苑も分かっていた。


 だからこそ、思いっきり飛んで後は祈るように目をつぶっていたのだが、紫苑が目を開くと校舎の屋上が自分の真下に見えたのだ。


「今度は強化バフ魔法なのか!?」


強化バフ魔法!? ……って何!? 待って待って待って! 私、落下系は無理なんですけど! 高い! 無理! 落ちるぅうう!」


 空高く飛び上がった紫苑が、叫びながら落ちていった。


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