第14話 能力適性テスト
「能力適性テストだー!」
青空の下で紫苑の叫び声が響き渡る。
個人の魔法を診断されてから、新入生はまずは魔力の出力とコントロールを教わっていた。
歌唱でいうところの、一つの曲ではなくひたすらに発声練習だけを続けさせられて、能力適性テストが初めて魔法の形を外部へと出力する記念すべき日だ。
「叫んだって結果は変わらないぞ」
「いや、変わる! 魔法って結構気の持ちようみたいなところあるじゃん! やるぞーって言ってたら出力が上がる気がする!」
こんな時でも冷静なジェイドに窘められて、紫苑は頬を膨らませて抗議した。
「紫苑が言うことも結構あってるかもよー。心が不安定だと、上手くコントロール出来なかったりするもんね」
「「ねー!」」
仲良く顔を見合わせると、フリージアと紫苑が両手をぱちんと合わせた。
「まぁ、一理あるかもな」
してやったり、と自慢げに胸を張る紫苑をよそに、エクレール先生に呼ばれた順に列をつくる。
ついに、能力適性テストの始まりだ。
「よし、それじゃあ、ジェイドから始めるよ」
エクレール先生の声を合図に、ジェイドが杖へと魔力を貯めていく。
魔力特性診断キットの時とは違い、ジェイドの杖の先に風が渦巻くように集まっていくのが見えた。
「……出ろ……っ!」
ジェイドの掛け声で、杖の先に集まった風が放たれて、目の前に人型サイズの竜巻が出現した。
「いいぞ、ジェイド。落ち着いて、その竜巻を移動させてみようか」
エクレール先生の指示に従って、ジェイドが慎重に竜巻を移動させる。コントロールを誤ってしまえば、天変地異のようになることも、人を傷つけることも簡単に出来る。それが魔法なのだ。
「そこまで。終了! 初めてにしては竜巻のサイズも大きいし、よくコントロールが出来ていたよ」
「……ありがとうございます」
ジェイドの竜巻が霧散する。
「竜巻を出現させることが出来るなら、風を使って木を切る、なんてことも出来そうだね」
エクレール先生がジェイドの魔法をどう拡げていくのか案を出しながら、手元のノートに何やら書き込んでいった。
どうやら、あのノートに結果やアドバイスなどが書き込まれていくようだ。
「次はフリージア。始めようか」
「……はいっ!」
フリージアは元気よく返事をすると、躊躇うことなく杖に魔力を込めた。
柔らかな黄色の光が集まって、杖の先に小さく凝縮されていく。
「……それっ!」
ぽんっ、と可愛らしい音とともに、光の玉が弾けた。弾けた光が花の形に姿を変えて、フリージアの周りに黄色の花がひらひらと舞い落ちた。
「出来たっ!」
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるフリージアに、周りの生徒が呟いた。
「これ、綺麗だけど……何の魔法なんだろう……?」
「今のところ何も起こらないけど、やっぱり回復魔法とかかな?」
ざわめく生徒達に、エクレール先生が声をかけた。
「うーん、このままだと何の魔法かよくわからないね……。誰か怪我してる人とかいないかな?」
「あ、私さっき紙で指を切ったんだけど、その程度でもいいですか?」
指に巻かれた絆創膏を剥がして、女生徒が小さな傷跡を見せた。
「ありがとう、助かるよ。僕が触れてもこの魔法はただ身体をすり抜けていっただけだからね。この花びらに触れてもらえるかな?」
エクレール先生に言われた通りに女生徒が傷のある手で花びらをつつくと、しゅるしゅるとツタが伸びて女生徒の手に絡みつくと、花は美しく姿を変えて咲き誇った。
その変化に合わせて、女生徒の指の傷が跡を残さず消えていく。
「本当に、治った……」
不思議そうに掌を見つめる女生徒を見て、凄いよ、とエクレール先生は興奮気味に言った。
「フリージアは確かに回復魔法みたいだね。傷跡まで綺麗になくなった。これは磨いていけばとんでもない魔法になるかもしれないね!」
フリージアはえへへ、と紫苑達に向かってピースサインをすると、照れくさそうに足早に戻ってきた。
「よし、次は紫苑。始めようか!」
エクレール先生に呼ばれた紫苑は前に出ると、買ったばかりの白い杖に魔力を込めた。
あの時と同じか、それ以上に強い白い光が紫苑の周りを包んでいった。
「いっけぇええええ!」
紫苑の掛け声が、青空を掛ける。
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