第10話 ポッピングキャンディ
「悪い、大丈夫か?」
慌てて謝りに行くジェイドにくっついて駆け寄ると、紫苑とフリージアも頭を下げた。
ちらり、と女の子の足元を見ると、くしゅくしゅのルーズソックスに夢可愛い薄いピンクと紫のスニーカーを履いていて、紫苑は思わず顔を上げた。
ふわふわとボリュームのあるツインテールを揺らし、紫のインナーカラーが映える編み込みが可愛らしい。
フリージアの桜のような淡い桃色とは違い、女児向けアニメに出てくるようなピンク色の髪に、派手なネイル、天使の羽根のピアスといい、いかにも原宿系な風貌をしていた。
(可愛い! ……懐かしいなぁ。こっちの世界にもいるんだ!)
元の世界にいた時の友達と似た雰囲気を感じて、まじまじと見つめていた紫苑を、ジェイドがそっと小突いた。
「紫苑、見すぎ」
「あっ、ごめん。つい……」
ちらりと少女の様子を伺うと、機嫌を損ねた素振りも見せず、にこにこと微笑んでいた。
「じろじろ見るつもりはなかったんだけど、ごめんね……?」
「大丈夫だよぉ〜。アンジュはいっつも可愛いから、見られるのは大・大・大歓迎♪」
「よかった! 友達がこういう格好好きだったから、可愛いなーってついつい見とれちゃったんだ」
「えへへ。褒められるのチョー嬉し〜♪ アンジュ、ご機嫌だから飴ちゃん上げちゃう♪」
そう言うと、自分のことをアンジュと呼んでいる少女は、三人にチュッポチョップスのような飴を手渡した。
よっぽとその飴がお気に入りなのか、今もずっと口にくわえている。
「これって、ポッピングキャンディだよね! 凄い! 食べてみたかったんだ!」
「ポッピングキャンディ?」
飴を受け取ったフリージアが嬉しそうに解説をする。
「住宅街の方では手に入らないんだよ! 空と雲を閉じ込めたみたいな可愛い見た目に、しゅわしゅわしたラムネみたいな味が学生に今大人気なんだよ!」
「詳しいんだね〜♪ じゃあ、学園で人気のジンクスも知ってる〜?」
「ジンクスっていうと……能力適性テストの?」
「そうそう♪ 学園では入学して暫くすると能力適性テストっていう個人の魔法を見る為のテストがあるんだけど〜、この飴を舐めた時にパチパチって弾けるといい点が出るっていうジンクスがあるの♪」
話についていけていなかった紫苑に向けて、アンジュが自慢げに指を振りながら教えてくれた。
「それって、パチパチするのが当たりってこと?」
「そうだよ〜♪ 普通はしゅわしゅわするだけなんだけど、たま〜にパチパチ弾ける飴があるんだって〜」
「あー、そういう願掛けみたいなの、私の学校でも流行ってたなぁ」
元の世界でも受験前にキットカッツにメッセージを添えたり、カツを食べさせられたなぁ、なんて思い出しながら、ありがとうとお礼を言って飴をポケットへとしまった。
「それじゃあ、アンジュはもう行くけど、皆は新入生でしょ? テスト、頑張ってね〜♪」
「えっ、先輩だったの!?」
「そだよ? でも敬語とか全然いらないんだけどね〜。じゃあ、またね♪」
嵐のように去っていったアンジュを見つめて、ジェイドが不思議そうに渡された飴を見つめていた。
「小石がぶつかったことを謝るつもりが、なんで飴を貰ってるんだ……?」
「まぁ、怒られなかったからいいんじゃない? 先輩っぽくない気さくな子だったねー」
「それもそうか」
紫苑とジェイドが話している横で、フリージアがいそいそと飴の包み紙を開けている。
「よかったな。ずっとそれ、食べてみたかったんだろ」
「うん! 当たりが出ますよーに! っと」
パクッ、と勢いよく飴を頬張ると、フリージアはコロコロと口の中で転がした。
口の中にしゅわしゅわと微炭酸なラムネ味が拡がっていく。
「おいし〜! けど残念! パチパチはしなかったー。何個くらいの確率なんだろー?」
「まぁ、ジンクスになるくらいなんだから、相当少ないんじゃないか?」
「そうだよねー……」
「ほら、俺のも上げるから。落ち込むなよ」
「ありがとう! ジェイド大好きー!」
「……っ! どう、いたしまして」
ジェイドは自分の貰った分の飴をフリージアに手渡すと、抱きつこうとするフリージアを躱して、照れているのを隠そうとして視線を逸らした。
「……なんだよ、紫苑」
「いや、べっつにー。仲良いなぁって思ってただけだよ」
何かを言いたげににやにやとした視線を向ける紫苑をじっとりと見つめて、ジェイドは言った。
「……学校で使うものを揃えに行くんだろ。まずは何が欲しいんだ?」
「そ・れ・はー、勿論! 自分用の杖が欲しい!」
「それなら、『妖精の杖』に行こうか」
魔法の国らしいネーミングに、紫苑はドキドキと胸を高鳴らせた。
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