第5話 魔法特性診断キット

 



 空中で弾けた光の粒がキラキラと降り注ぐ。初めて間近で見る魔法の美しさに、紫苑は思わず息を呑んだ。


「今日の授業は、この『魔法特性診断キット』を使って、君達の魔法特性を調べていこう」


(なにそのコロナウイルス抗原検査キットみたいなネーミングセンス……)


 急な魔法の世界らしくないネーミングに、紫苑は肩の力が抜けてしまった。効果音がつくのなら、現実世界のバラエティ番組でずっこける時の効果音がついたことだろう。


「ノレッジ先生の授業で聞いたとは思うけれど、僕たちにはそれぞれ個人ごとに異なる魔力が備わっているんだ。そして個人ごとに異なるのは魔力量だけではなくて、魔力の質、特性と呼ばれるものも違っているのは知っているね?」


 そう言うと、プロジェクターのような魔法器具を使って、空中にプリントと同じ図が投影された。


「魔法鉱石に属性があるように、個人に備わっている魔力にも属性と特性と呼ばれるものがある。属性は、火、水、風、光、闇の五つがあって、特性には、操作型、固定型、召喚型、変異型の四つの型がある。この属性と特性の組み合わせを、魔法特性という。ここまでで質問がある人はいるかな?」


 紫苑は、突然のファンタジー要素に心ははずんでいたが、初めて聞いた属性と特性で既に頭が混乱しそうになっていた。


「あの、既に頭がパンクしそうなんですけど、その組み合わせって覚えなきゃ駄目ですか?」


 恐る恐る質問した紫苑を嘲笑うように鼻で笑うと、ジンガ・フラーウィスが自慢の髪を撫でつけながら振り返った。


「はっ、こんなレベルの話で躓くなんて、転入生は可哀想な頭の持ち主のようだね」


「また……! いちいちそういうこと言うのやめてくれない!」


 カチンときたものの、言っていることは正論である為、紫苑は何も言い返せずにありきたりな反応しか出来なかった。それをいい事に、ジンガは畳みかけるように有難い話を続けた。


「属性と特性の組み合わせは初歩中の初歩。これによって使える魔法の幅が広がるわけで、逆をいえばその人しか使えない魔法を開発する事も可能なんだ。お粗末なその頭では、自分の魔法をつくりだすなんて遠い夢だろうね」


「ジンガ、内容は正しい。が、言い方が良くないな。星守さんは魔法にあまり触れない環境で育ったと聞いている。誰もが君と同じスタートラインにいると思ってはいけないよ」


 エクレール先生にたしなめられると、流石にまずいと思ったのか、大人しく口だけの謝罪をすると前を向き直した。


「今すぐに全ての組み合わせまで覚える必要はないよ。まずは、自分の組み合わせとその属性、特性の特徴を把握すること。これが大切になるかな」


 投影されていた映像が、属性だけを表す図へと変わる。


「この魔法特性診断キットは、凄くわかりやすい代物でね。運用可されたのはたった五年前。突然現れた天才によって、開発されたばかりなんだ」


 エクレール先生の話では、元々は血液を魔法鉱石を溶かした特殊な液体にたらして、その液体の変化によって特性を見分けていたのだという。その為、属性の判断が難しく、魔法を使ってみないと自分が何の属性か分からない、ということがざらにあったのだそうだ。


「そんな環境を変えたのが、この魔法特性診断キット。スノードーム型の密閉したガラスの器に、魔法属性を除去した魔法鉱石を閉じ込めてあって、魔力を込めることで魔法鉱石の形が変化して特性がわかるようになっているんだ」


 エクレール先生が魔力を込めて見せると、スノードームの中が黄色く光り、パチパチと電気のような火花が散った。


「二重構造になっているから、密閉された器には粉状にした魔法鉱石も入っていて、その粉が光る色で属性がわかる仕組みになっているんだ。僕の場合は、光の色が黄色だから光属性で、電気のような火花は固定型の証だよ」


 この辺の特性の説明が難しいんだけどね、とエクレール先生は両手を上げて困った仕草をすると、自分は光属性の固定型で雷魔法を使うことが多いのだと言った。


「まずは属性。これは通常、色で判断することが多いかな。この、魔法特性診断キットでも、火属性なら赤、水属性は青、風属性は緑、光属性は黄色、闇属性は紫、といったふうに、それぞれの色で可視化されるんだ」


 エクレール先生がさっと杖を振ると、ページをめくるように投影されている映像が特性を表した図へと変わる。


「次に特性。操作型、固定型、召喚型、変異型は個性も出るから少し特定が難しいんだけど……ある程度は、この魔法特性診断キットで形状が決まっているらしい」


 エクレール先生の説明に合わせて、投影された映像がそれぞれの特性の見本を映し出す。


「だいたいは言葉の通りなんだけどね。操作型はその属性を操作する。火を操ったり、水を操ったり、そのままの形状を操るのが特徴かな」


 次に、氷や電気、煙の映像が映った。


「固定型は属性を固定する。水の固定型なら氷になったり、風の固定型なら、空気を圧縮して空中に足場をつくったり出来る。召喚型はそのままの意味で、召喚魔法を得意として、火の龍を出したり、水属性で花を咲かせたり、なんていうのもあるみたいだよ」


 最後の変異型は資料が少ないんだ、とエクレール先生は映像を消して説明を続けた。


「変異型は少し特殊なんだ。例えば、光属性で回復魔法を使えたり、闇属性で毒を使えたり、これは本当に個人による魔法なんだ。もしかしたら、今後は皆も使える魔法なのかもしれないけれど、現時点で情報のない魔力特性が変異型に割り振られている、という感じかな」


 全ての属性と特性の説明が終わり、生徒達の表情は期待を胸にふくらませてキラキラと輝いている。遂に、自分がどんな魔法を使えるのか分かるというのだから、無理もない。

 それを見て、エクレール先生はくすりと微笑むと、教壇を乗り出すように前のめりで言った。


「前置きが長くなってしまったけど、ここからが本題だね」


 思わず立ち上がってしまいそうな、うずうずと逸る気持ちを抑えつけて、紫苑はぎゅっと手のひらを握った。




「さぁ、お待ちかねの魔法特性診断を始めようか!」


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