差別される銅ランク冒険者
「おいノア」
「んん?」
「お前前線来るよな?」
本日も酒場にて。ノアエインより通信を試みています。
こちら2名、もう既に朝の8時から呑んだくれているわけだが、隣で騒ぎ立てている奴らがうるさすぎて、出汁にするにしても面倒で、真剣に悩んでいた。
「俺としては、」
『アストリアの為に!』
「え?なんだって?」
『俺、前線で戦うぞー!!』
「いやだから⋯⋯」
苛立っているわけではない。しかしあまりにもうるさい依頼ボードの前で騒ぎ立てる奴らを止めてくれ。
こっちの会話が微塵も聞こえん。
悪い、本当は内心、黙って外でやれ!と言いたい。
「いや俺は補給部隊『アストリアのため、この街の為⋯⋯俺は』」
「ノア、俺の家行くぞ」
「あぁ」
短い一言だったが、何故かそれだけは通じて苦い顔で立ち上がる。
そうしてギルドの外へ出ると、何やら騒がしい。
「ノア、お前先にいけよ」
「ん?」
チラッと見る。どうやら丁度滞在しているレンシアの冒険者たちが若干差別を受けていた。
「案外優しいじゃん。アリィ」
「俺はああいうのが大嫌いなだけだ」
だが、既に遅かったようだ。
「おい!お前⋯⋯混血か?」
行こうとした先から、小さいが威張り散らかしている奴が数人俺の前に佇んでいる。
「あぁ。何かいけないか?」
「はっ!おいコイツ⋯⋯混血らしいぜ!?」
するとドンドンその話は広がっていき、いつもならば話にもならないような奴らがここぞとばかりに俺の周りに集まっては野次を飛ばす。
「混血が!さっさと街から出ていけ!」
「あら可哀想に。汚らわしい血さえ入っていなかったら⋯⋯」
中々言ってくれるじゃねぇの。
こっちの世界でもう長いからっていうのもあるんだろうが、意外とメンタルが当時の数倍以上強くなっていた。
今じゃこんな罵声を受けた所で、掠り傷にもならない。
「悪いが、俺はこの街の住人だ。住民権も得ているから味方なんだが、お前らはそうでもないのか?」
「⋯⋯だからなんだよ?純潔なアストリア人でも奴らが、本当に味方なのかぁ?」
「ノア、先いけよ」
「アリィ、多分行かせてくれないさ」
重要な所では優しいアリィだが、どうも難しそうだ。
奴らはジャブを打ってみたり、連打を放ったりして野次のボルテージを高めている。
何をしているのかというと、戦闘力で俺を貶めたいよその街の奴らって事だ。
混血なんだからどっちもあるっつーのにな。
「先行ってていいぞ」
「あ?そうか? なら先行ってるわ」
案外すんなりササッと先に行くアリィに若干鼻で笑いながら野次の方向へと振り向く。
「ほら、お前たちのランクは?」
「銀ランク2のボルッソだ!」
「ランク2?」
「おうよ。お前は?」
「銅ランク3だが?」
「ぷっ⋯⋯ははははは!!!オメェまじかよ!?」
一人の笑い声を機に、嘲笑が伝播していく。
まぁ確かに、銅ランクがイキってたら笑いたくもなるか。
「ちょっ、オンドさん!」
「ん?どうしたの?」
「ノア先輩⋯⋯ヤバイっすよ!」
「んん? あぁ、あれ?」
現場から少し離れたところで、酒を片手に屋台で呑気に飯を食っていたオンドたち一行。
「そうっす! この間ノア先輩に教えてもらったばかりっすから、なんか後味悪いっす⋯⋯」
「おぉ、お前良いやつだな」
「それくらい当然ですよね!?」
「いいや? ここにいる奴らってのは性格が斜めにひん曲がったようなカスしかいないぞ?」
「まぁな。モイスの言う通りだ。⋯⋯見てみろ。誰も助けようとしない。むしろ全員がターゲットを見つけて嬉しそうにしてるまである」
そう言われ、青年はその狂気じみた視線がノアに集中しているのに恐怖すら抱く。
嘲笑の声が飛び交い、嫌悪の目が光る。
これが地獄だと。
人間の悪い所がここぞとばかり浮かび上がるさまは、いつの時代、いつの場所でも変わらない。
「なら尚更じゃないんすか?」
「んん⋯⋯お前ら、なんか言ってやれよ。説明がムズすぎる」
「ど、どういう事っすか?」
何かを忘れたいかのように、首を横に振ってオンドが鳥肌を抑えているようだった。
青年は理解出来ずに近くにいたモイスやカイラに視線で求める。
「あぁ⋯⋯まぁ、一言で言うと、俺達、アイツを最初にパーティーに誘ったんだよ」
「⋯⋯うえええっ!?」
恥ずかしそうにモイスが言うと、驚きのあまり青年は椅子から飛び上がり、ガタッと音を立てて倒してしまった。
「まぁ笑うだろ?あんな呑んだくれ⋯⋯なんで誘ったんだってな」
「失礼っすけど、そうっすよ!? だって、鉄壁の森は金ランクの超大手! 構成員だけで組織としては領主にも負けないくらいなのに⋯⋯」
「まぁ今はな。当時だとまだそこまで目立ってはなかったが、実力は今とそこまで変わらねぇ。だがアイツ、それを断った」
「こここここ、断ったぁぁ!?」
「おいおい⋯⋯大丈夫か? 目んたま飛び出そうだぞ?」
一般的に金ランクのパーティーは、給料だけで一年働けば10年は軽く贅沢三昧出来ると言われている。
これは冒険者になるとすぐに覚える事で、みんなが大手に入りたがる理由でもある。
そんな一般常識でしかない暗黙の了解を蹴ったノアのことが、全く理解できなかった青年。
「今でも分かんないんだよねぇ⋯⋯アイツ、金欲しそうなのに、全然働かねぇし、かと言ってまったくないわけじゃねぇんだよなぁ⋯⋯オンドは聞いた?」
「いいんや?」
「モイスは?」
「ちょろっと聞いたけどよ、全く意味分からんかったぞ? ちょっと事務方に複式なんちゃらがどうのこうの⋯⋯あいつの喋る言葉は暗号かなんかだぞ」
「って、じゃなくて!助けなくていいんですか!?」
必死に両手を広げて主張する青年に、オンドたちは豆鉄砲を喰らったようにぽかんと目を丸くする。
そして見合い──。
「「「だってアイツ、俺らより強いもん」」」
ドゴンンンン──!!!
そのハモリと同時に、通常じゃありえない地響きが青年の背後で鳴り響いた。
恐る恐る振り返ると、
「⋯⋯へ?」
地面には直径1メル弱、深さ10センチほどの浅い穴が広がっており、そこに先程まで絡んでいた男たちが顔面から突っ込むように倒れ込んでいた。
「あ、あの人⋯⋯あれ、ワンパンですか?」
「ん?おん。⋯⋯おぉ、モイス、こっちの串焼きうめぇぞ? 食ってみろよ」
「おっ、イイねぇ⋯⋯」
まるでそれが当たり前と言わんばかりに、モイスとオンドは串焼きを交換して仲良さげに食べ続けていた。
「おっ、後輩君、賭けてなかったの?」
「ダテ先輩、ノアさんが!」
そこへ何かを抱えながらやってきたダテに、青年はとりあえず指をさした。
「あぁ⋯⋯絡まれてるっすね」
「お、終わりですか」
「可哀想ッスね⋯⋯相手が」
「おぉ⋯⋯ダテ! いくら儲かった?」
「金貨20枚以上は」
「副収入になるぞ〜!」
「結構儲かってるじゃねぇか」
「それで酒買って〜」
あまりにもお気楽な雰囲気に、青年は戸惑いを隠せず、その場で呆然と立ち尽くすしかなかった。
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