おいおい、想定外だぜ
「⋯⋯あれっ?おーいノアー!」
「悪い! また今度な!」
「おう⋯⋯ノアのやつどうしたんだ?」
走る俺。通り過ぎる皆の視線が痛いけれど、飯が美味くなる可能性を秘めた食材を求め、いざ南へゆかん!!
しばらくして、沢山の露店が並んでいる中の一部に、リドルが言ってた珍しい店を意地で発見する。
「おぉ⋯⋯」
「兄ちゃん、これどうだい?」
「ここにあるの全部貰ってもいい?」
「⋯⋯いいのかい?説明もしてない食材もかなりあるけど」
「問題ない。大体わかる」
「まぁこっちとしちゃあ、売れちまえば問題ないからな」
「決まりだな」
取引を終える。
俺はるんるんで町の外へと向かい、周囲の目が届かない所まで移動して早速選別だ。
とりあえず買ったやつを汚れない風呂敷の上に置いていく。
「まぁなんとなく分かるのは⋯⋯これ、か?」
手に取ったのは乾いた何枚も重ねられている昆布らしきもの。あとは⋯⋯。
「神様は存在したんだ(会ってるけど)」
稲⋯⋯だ!!!!
もう一度言うが、i(強制カット)──。
「とりあえず米は願ってもない物だが、品種改良はされてない」
それにこれは稲で合っているのか⋯⋯それも分からない。しくじったな⋯⋯興奮し過ぎだ。俺。
「あとは⋯⋯」
ガサゴソ漁ると、中から半円形で表面に青みがかった模様がある昆布と似たように乾燥されてあるものがあった。
「なんだこれ?」
乾燥されてあるから、食えるのか?でも形はそうでもなさそうだが。
食ってみるか?
「いややめとくか。あ、」
とそのまま流れるように口に放り込んで、緊張しながらゆっくりと咀嚼する。
「⋯⋯ん!」
うん、椎茸くせぇ。旨味とやらがなんとやらだ。
ん?待てよ?
てことは、もしや⋯⋯味噌汁が作れるんじゃね?
他にも日本で見られるような製品ばかりだ。
豆だったりその他も。
「善は急げってやつだ」
とにかく鍋はあるので、ひとまず貯水してる水筒から昆布らしきものと椎茸らしきものを入れて出汁を作成しようと思う。火をつけたら少しずつ火力を上げていき、そのまま一番強い所でしばらく待機。
「ここで、俺の力ってわけ」
『"加速"』
鍋の中の時間が急激に流れ始める。湯気が渦を巻くように立ち昇り、香りが一気に濃厚になる。その変化を見た時、あまりの感動で目を見開いて視界がぼやける。
これは、この鼻に馴染む素晴らしき匂い⋯⋯。
「旨味成分の極みや!!」
待ってたぞ。13年⋯⋯やっと見つけたぞ!!
出汁を取れた!!
「うおおおおおおお!!」
きっと皆には俺の気持ちなんぞ、全く理解できないだろう。
毎日カッチカッチの意味不明な岩石と全く味のしないお湯同然の油ギッシュ極まりないスープを飲む俺の気持ちが。
高級レストランとやらに行った。
出てきたのは味付けと称された油、油、油。
彩りとか言って出てくるドレッシングのない野菜たち。
水もない。素材そのものを楽しむとか言って。
控えめに言ってころ⋯⋯(強制カット)
軽く指で確認の為に舐めてみる。
あぁ、言わなくとも良い。我らが故郷の旨味が凝縮された日本の味噌汁の第一歩⋯⋯そして。
「おいノア。お前女になったのか?後ろ姿が主婦だが?」
「アリィ⋯⋯これからお前は俺に平伏す事になるだろう。俺という神に」
「カッカッカッうるせぇよ。何やってんだ?」
それから俺は、頭の中でAI並みの思考速度でこれからのことを考えながら町に帰宅し、アリィの家へ行き、早速振る舞おうと思う。例の物を。
「今はロック鳥の卵を使って作ろうとしてるのさ。お前が求めていたモノを⋯⋯な」
「その顔⋯⋯本気だな?見せてみろ。俺の魔術を超えてくるうめぇ飯とやらを」
少し振り向くのをやめて俺は続ける。
用意するのはアリィが用意してくれた水魔術とやらで作った綺麗な水。
皆さんは忘れがちだが、水質が全部いいのは日本だけという事を忘れてはならない。
そして卵と塩。
これもかなり高価な物だが、俺とアリィレベルであれば正直困ってない。
余談だが、アリィは恐らく没落貴族とか、なんか王族のワケアリのガキだったりとかを推測している。実情は知らんが。
⋯⋯この平屋は一見普通そうだが、内装に金が掛かっているし、質が何より違う。
そして鶏肉、一部のさっきの椎茸。
今回はシンプルに行こう。
ある程度混ぜ終わったので塩を少し加えて味の確認。
うん、問題ない。
小さく深い器に混ぜた卵液をぶち込み、鍋の中に入れて小さい方の器の半分くらいまで水を入れて水気を取って放置。
「おいノア、本当にそんなんで飯が出来るのか?」
「まぁ今回は、それの足掛かりとなる物の出来上がりだからね。まぁ見てなよ」
そうして待つこと30分。
「⋯⋯おおっ?なんだこれ?」
「容器は触らない方がいいよ。まだ熱いから」
アリィは興味深そうに容器を揺らして、ぷるぷる揺れている茶碗蒸しを瞬きさせながら首を傾げて観察している。
「これ、飯なのか?貴族様が食べる高級なやつじゃなくてか?」
「まぁ、そんな物より遥かに美味いものだ。まぁ掬ってみろよ」
「おおっ!?固まってるわけじゃねぇのか。面白いな」
スプーンで掬うと、固まっているのを想定したアリィが口を半開きにさせながら数秒眺めて慎重に口に放り込む。
「ふんっ、どうだ?」
「⋯⋯⋯⋯」
瞳を閉じてしっかりと咀嚼して味わうアリィ。
ゆっくりと動かすと同時に表情が面白いくらい変化していく。眉間にシワが寄ったと思ったら緩み、最後は驚いている。
口は動いているはずだが、一向に次の言葉を続けようとはしない。もはや飲み込んでいる。
「おい、どうした? 美味すぎて言葉も出ないってか?」
「⋯⋯なんだ」
「え?」
数分、無言を貫いていたアリィが気だるそうに言葉を発した。
どうしたんだ?めっちゃ機嫌悪そうじゃん。
「なんなんだこれは」
「なんだよ、突然」
「おかわりは」
「はぁ?」
「お、か、わ、り!!」
ガキかよ、コイツは。
「ちょっと待て。これ時間かかんだよ」
「早く次を作れ!なんなんだよこれは!!」
速攻で一つ茶碗蒸しはなくなり、貧乏揺すりすらし始める。
「なんだ、俺が食べていたのは⋯⋯水かなんかか?この強い味はなんだ?身体に染み渡るような複雑な変なやつ、これが味なのだとしたら、俺が食っていたものは全部糞まみれの汚物にしか感じん。はぁ、何なんだ?口に一度通ったら忘れられねぇ⋯⋯おい、ノア」
「んん?」
「お前、料理人になれ。俺が保証してやる」
「なる訳ないだろ。嫌すぎる」
「ふざけんな!!お前が作ったこれを毎日食わねぇと生きていけねぇよ俺⋯⋯!!」
アニメ仕込みの大粒の涙を流しながら、俺の分として用意していた茶碗蒸しを数秒で食いつくし、その日コイツは10個を当たり前のように平らげた。
寝ているコイツを見て、俺はにやりと笑う。
「ほら見たか。うめぇ飯とやらを」
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