俺の裏⋯⋯かつ本業
「そろそろ宿に戻るわ」
「おぉ⋯⋯また明日なぁ」
「気を付けるんだぞ」
軽い挨拶を交わしてギルドを後にする。
まぁ日々色々な依頼を受けてはあそこで飲んだくれる⋯⋯傍から見ればゴミに見えるだろう。
しかし俺にも、本業というものがある。
裏の顔というべきかな。フィジギフ(フィジカルギフト)はきっと、多分神様のおかげなんだろうけど、俺が貰ったギフトはそれじゃない。
魂がうんちゃら言っていた意味がわかるようなギフト⋯⋯それが『観測者』というものだった。
最初はあまり理解できなかったのだが、ギフトを貰った瞬間、使い方から熟練度が上がった場合の増えるものまで全てが頭の中に入ってきたのだ。
これから俺は、その有効的な使い方をするべく、本業の場所へと赴く。
やって来たのは裏通りにある寂れたバー。
その周りには都会に蔓延るようなチンピラでいっぱい。
アングラな通りを歩く俺に、誰もここにいるチンピラ達は危害を加えてこない⋯⋯どころか、俺を見るなり立ち上がって一礼までしてくる。
「お疲れ様です」
俺は一言そう言ってから店内に入ってバーのマスターに顔を出す。
「オレンジジュースが大好き」
「かしこまりました、少々お待ちください」
準備をしたマスターが案内を始めた。
付いていくと店内の奥へと向かっては角の階段を降る。
下はまた違ったテイストになっていて、高級感溢れる店内が現れ、その様子はポップなホストクラブが正しい。
端から端まで繋がっている高級ソファにテーブル、灰皿から酒まで、様々なモノが並び、着飾った従業員も配置されている。
「ありがとうございました。下がっていいですよ」
一声でマスターは一礼してこの場から消えていく。
ソファに座り、俺は従業員に飲み物と軽食を頼み、軽く仕事着(ヤクザっぽい服)に着替えてそのまま待機。
そのまま暫く飲み物を出汁に時間潰しをしていると、マスターと共に一人の女性がやってきた。
⋯⋯そう、俺の『顧客』だ。
「あ⋯⋯」
「どうぞ座ってください」
俺が相席に手を差すと女性は若干震えながら向かいに座る。
「何か頼みますか?」
「で、では⋯⋯この紅茶というものを」
聞いていた従業員がすぐに動き出し、テーブルに持ってくる。
「あっ、ありがとうございます」
「食べ物はどうします?」
「家で作る予定ですので大丈夫です」
「そうですか」
カチッと俺は煙草に火をつけて、沈黙しながら数回味わう。
この世界にも煙草はある。作成した時に思った事だが、日本のは色々ヤバかったという事に若干の戦慄を覚えた。
こっちの物は依存性という点においては色々あるものの、害になるような物は入っていなかったのだ。
⋯⋯多分、何か加えていたんだろうな、と俺は最初の方は色々背筋が凍った。
「あの⋯⋯」
「あーそうでしたね。では」
こちらを伺うように尋ねる女性。
足を組み替え、書類に視線を落としながら問う。
「紹介者の名前は?」
「ギルガ⋯⋯」
「はい、照合に問題はありませんね。取引を始めましょう。ではその前に」
俺は1枚の書面をテーブルの上にスッと彼女の前に置く。
「そこには様々な契約が書かれた書面です。字は読めますか?」
彼女はブンブン首を横に振る。なので、俺がしっかりと全文を読み上げる。
「気になる点はありましたか?」
「あ、ありません⋯⋯そ、それでお金は貰えるんでしょうか⋯⋯」
「もちろん。"何年"にいたしますか?」
「じ、十年でお願いします」
「──良いの?かなり減っちゃうけど」
「はいっ! それで家計が助かるなら⋯⋯」
「一応確認だけど、本当にいいの?後悔はしない?」
無言で頷く彼女。
彼女の生い立ちや情報が記された書類をテーブルに軽く投げ、俺は膝を抱える。
「貴女の一年に相当する価値は、見積もって高くても金貨3枚ほどです。10年分ですので⋯⋯」
従業員の一人を手招く。意図を理解している従業員の一人は数えた上で俺の所へ片膝をついて重い金属を鳴らす袋を手渡す。
貰った俺はテーブルの上にその袋を置いて、
「今ウチの者が数えたから大丈夫だろうが、キッチリあるか数えて」
「は、はい!」
目の前の金貨に喜びを隠せない様子で1枚一枚数え、満足行ったのか袋を抱えてその場で何度も頭を下げてくる。
「正当な対価をいただきますからこちらとしては問題ありません」
手を翳し、俺は念じる。
「⋯⋯これで終わりです」
「な、何も起こっていないように思いますが⋯⋯いいのでしょうか?」
「ええ。それでは、この度はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
高級ソファに深く寄りかかりながら足を組み替え、煙草を味わいつつそう丁寧な言葉で彼女が出ていくのを見届ける。
自分でも態度は悪いと思うのだが、この世界で敬語ばかり使うと舐められるので、すっかり慣れた。
まぁこうしてこのまま後数件、同じようなやり取りをする本業が週に3回程スケジュールとしてある。
これが、俺の本業であるビジネスの一部でもあり、快適な生活ができる理由だ。
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