発明家兼救世主、その名も「ラインハルト」
ギルドに入ると、早速予想していた会話が聞こえてくる。
「おい、もう⋯⋯」
「あぁ、今年は随分多いな」
受付は嫌な意味で騒がしい。
返り血なのか出血しているのかは判断が難しい所だが、数人の冒険者たちが提出していたのは、冒険者プレートだった。
この時期、かなりの冒険者が功績を残そうと無茶をする為にいつもに増して死者の報告が多いのだ。
「英雄伝説の彼らも⋯⋯」
そんな声が耳に入った。
そうか、彼らももう死んだのか。無茶しやがって。
彼らの悲痛な言葉を一蹴するように、いつもの揶揄い口調の呼ぶ声が聞こえてくる。
声の主の向かい席につくと俺は店員を呼び、エールを頼む。
「昨日はお楽しみのようで」
「なんだノア⋯⋯娼館行ってねぇの?」
「当たり前のように言うな。というかアリィ、今そんな状況を話す時間でもないでしょ?」
顎で向こうを指して察しろと目配せを試みる。
一瞬言う通りに見ると、すぐにフンと鼻で笑う。
「自業自得ってやつだろ?そんな事を言うノアこそ、そこまで思ってもないことを言うなって」
「こういうのは表向きでもそうあるべきだろ?」
懐から短剣を取り出して油でメンテを始め、俺は答える。
まぁそこまで可哀想という気持ちは俺も湧かない。理由は言われた通り、自業自得だからだ。
「そういえば、発明家がまた何か一波乱起こしそうって話は知ってるか?」
「へぇ〜なんかあったのか?」
「なんだっけな⋯⋯インク⋯⋯だっけ?紙に書くヤツの燃料になるやつだろ?すげぇ高価な物だったが、燃料となる材料を量産する方法を教えたらしいんだよ。すげぇよなぁ〜マジでなにもんなんだろうな?」
「まぁ、貴族の余興じゃないの?」
「俺もそう思ってる。お前はどう思う?」
「んー⋯⋯意外と普通の平民だったりして?」
「ノアにしては的外れなこと言うじゃねぇかよ。もしそんな奴がいたら、中々イカれてる」
「そう? 面倒にはなりたくないけどどうにかしたい人間⋯⋯とか?」
「金にもならねぇ事を一々やりたがるやつなんておかしすぎだろ」
謎の発明家──ラインハルト。
その名は突如として降臨し、瞬く間に世間を賑わせた。
初めは果物なんかを初めとする食料を量産する技術を提供し、この街シャルの領主は素直に実行し結果上手く行った。
それを筆頭にして様々なアイディアが特殊なサインと共に度々送り付けては、金を貰わないというイカれっぷり。
誰もがラインハルトの消息を突き止めようと躍起になったが、一向に誰もがその正体を暴く事はできなかった。
「まぁねぇ⋯⋯。そんな人間がいたら、俺だったら金欲しい〜とか言うかも」
「本当だよなぁ⋯⋯よくそんな事出来ると思うわ。尊敬しちゃう」
「⋯⋯思ってもねぇくせに」
グイッと一杯飲み干し、俺達はツマミを頼み、呑んだくれる。
まぁまさか──。目の前に御本人がいるとは思わんだろうが。
「おぉゴミ拾いの二人じゃねぇか」
「おん? リドルじゃん」
「リドルの兄さん、帰ってきたの?」
「お前ら⋯⋯相変わらずだな」
そう上から見下ろすデケェ恰幅のある男は、リドル。
銀2級のでぇベテランの冒険者だ。髭もじゃの40代。
少し前に王都の護衛で居なかったが、帰ってきたとは。
「ノア⋯⋯お前はこんなクソ人間に似る必要はないんだぞ?さっさとランクを上げんか、ランクを」
「えー最低限の生活が出来ればいいよ⋯⋯」
「俺は知ってるんだぞ? お前が実力を隠してることくらいな。おう俺にもエールとラインハルト豆を一つ」
「リドル、てめぇも呑む気満々じゃねぇかよ」
「こっちは依頼報告して暫く休みだからな。日頃から呑んだくれてるやつと一緒にするなよ」
隣から椅子を引っ張って来ては、ミシミシ音を立てて座る。
「あれ、兄さん他のパーティーメンバーは?」
「ん? あぁ、武器のメンテだなんだっつってパーティーハウスにおるぞ。あ、ビビがお前に会いたそうにしていたぞ」
「ノアお前まじでモテるよな⋯⋯なんでだよ」
腕を組んで突っ伏すアリィがニヤニヤして言ってくる。
貴方は自分の心に手を当ててもらえませんかねぇ!?
きっと思う所が1万個見つかるでしょうがね!
「はいはい。どうせ気のせいです」
「ビビはウチのアイドル的存在だからな⋯⋯手を出すのはあと10年は待ってもらわんと」
「30であげるとか拷問だろ、リドル」
「これでも妥協してやってるんだ。許せ」
「そもそも本人の気持ちとかはないの?」
「「ない」」
そこは息ぴったりなんだね⋯⋯お二人とも。
「しっかしノア以外の男にはあんな冷たいのに、お前さんだけにはやたら懐いているのは理解に苦しむ」
「俺なんか前あった時なんか近寄るなクソ虫!だったからな」
「そりゃアリィは思い当たるとこあるでしょ⋯⋯」
「え?ないが?」
めっちゃナチュラルに尻触ろうとしてたよね?許されると思ってるの?
⋯⋯⋯⋯ええっ?
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