あれから
「なぁ⋯⋯金貸してくれよぉーノアー」
「嫌だよ。どうせ賭博でもしたいんでしょ?」
突っ伏す20代半ばの爽やかそうな青年。ウルフとまではいかない紅色の髪に中々ガタイのいい彼だが⋯⋯そこのあなた?絶対に間違えてはならない。
彼はそのルックスとはかけ離れた生活を送っている。
彼は日々賭博、娼館、酒の三大神器と言い放って日々クソッタレな生活を送っている所謂クソ人間というやつだ。
「良いじゃねぇかよノアぁ〜。お前だって散々毎日暇そうに意味わかんねぇ武器だ道具買って気持ち悪ぃ笑み浮かべてんだからよぉ〜」
「アリィ、いいかい? そういうのはしっかり貯金している人間が言う事さ。こう見えてもかなり貯金していて、その上で困らない程度に抑えているんだから趣味程度になっているんだ」
そう言って、ギシギシ言わせる机の上でヌンチャクをメンテナンスしているノアというのが俺の事だ。
ノアエインだからノア。
アリィ⋯⋯アインサリィサルだからアリィと、まぁ、あだ名というのはいつもこんなどうでもいいことから始まるものだろう。
今は春先で、この街⋯⋯『シャル』の街はだいぶ賑わいを見せる期間だ。俺達は冒険者ギルドの酒場で新人達が依頼ボードで戦争しているのをダシに酒を飲みながら、こうして金を貸す貸さないの問答を繰り返している。
「ていうかアリィ、こんな年下の子供に恥ずかしさとかないわけ?」
「ないな」
「清々しいな」
俺は成人したての16歳だ。アリィとは多分10個くらい違う。そんな相手に毎日毎日金を貸してくれというのは中々メンタルに来ると思っていたのだが⋯⋯そんな事はないようだ。
「だってお前、ここでもだいぶ前から噂が立ってたし、実際出会ったときからヤバかったもん」
「そう?」
「あぁ⋯⋯"異質"⋯⋯が正しいぞ。あっ、お姉さん!」
長い溜息と共にエールを頼むアリィ。
そこまで目立つ行為はしていなかったと思うけども。
「ガキの癖して胆力は凄まじいしよ、目付き⋯⋯とかなんつーかなぁ」
「出会ってすぐ言った言葉が今でも酷くて覚えているよ」
"ワリィそこの坊主!今金あるか!?"だったからな。
「あぁ、そんな事もあったなぁ〜。まぁでも人生なんとかなるってもんよ」
まぁここまでで察しているとは思うが、彼は銀1ランクの冒険者であり、子供の頃からこの冒険者ギルドで活躍⋯⋯してないな。まぁ若い分類の中ではベテランだ。
"俺"と一緒で薬草の採取や清掃など、言ってしまえば何故冒険者ギルドでその依頼こなすの?というような依頼をこなして過ごしているのが俺達"ゴミ拾い二人組"だ。
「見ろよノア。あいつら、これから輝かしいキャリアを送る事になりそうだぜ?」
「そう言わないの。中にはライアンみたいにしっかり今でも頑張っている男もいるじゃん」
鼻で見ろよと依頼ボードの方へと動かし、軽く嘲笑混じりに見つめるアリィ。
まぁ言いたい事はわかる。
「多分⋯⋯この後、は⋯⋯」
俺の言葉の続きをしっかりと演じるかのように、受付へと向かう若者(俺もなんだけど)。
「俺達は英雄伝説だ!この依頼を受けさせろ!」
依頼紙を叩きつけ、フンと鼻息を荒くさせてドヤ顔を噛ましている。
俺とアリィは目が合うと小さく笑いながらエールを手に乾杯する。
「去年は半分以上が死んだからなぁ⋯⋯勿体ねえ」
「まぁ仕方ないってやつだよ」
なんとなく分かるだろうが、春にはいっぱいの若者冒険者が登録をしにくる。地球で言うところの入学式や入社式みたいなものだな。
新しい世界はお約束の世界⋯⋯貴族様が支配する世界だ。
ほとんどの平民は冒険者で成り上がるか、商人やらなんやらの多大な功績を残さないとかしないと金持ちの仲間にはなれないほど格差が存在している。
だからほとんどの人間は冒険者になって荒稼ぎをする事を夢見て、春になると上京してきた若者たちがこうして現れ、夏までに3分の1までに減少する。
そうして減っていった連中から更に引き抜きにあって残った奴らは生きていけなくなり、田舎へ帰っていく、というのが大体の流れってやつ。
「リーファちゃん苦笑いしてるし」
「ほんとだ」
リーファちゃん。そう呼ばれる彼女はかなり人気の受付嬢であり、俺とアリィはよく喋る。
仲の良い俺達は彼女が今必死に取り繕っている笑みの下に引き攣っているであろう気持ちを察し、それを見て酒をグイッといく。
「なぁ──」
「金は貸さんぞ」
「イケると思ったんだがなぁ⋯⋯」
「お前も少しは金を稼げ。女だ何だ言う前にな」
「ノアも怪しい商売ばっかしやがって」
「まぁそれで並以上なんだからいいだろう?」
「まぁなぁ⋯⋯」
春先、俺達はここぞとばかりにだらける──そんな季節だ。
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