懐かれた後輩のバカンス計画
pan
第1話 猫様はさいきょー
「にゃあ」
俺は今、猫カフェにいる。
大量の猫がいるその空間は実に天国。勉強の息抜きに来るには申し分ない施設だ。
「にゃあ」
「……おい、いつまで猫の真似してるんだ」
「先輩が猫好きなので、にゃあ」
そう言って彼女は猫の真似を続ける。
彼女の名前は
七海と知り合ったのは昨年の五月あたり。
登校中に道端で怪我をした野良猫を保護していた七海に話しかけたのが出会いだった。
俺が手助けをしたらその野良猫と一緒に懐いてしまったのが七海。こうやって猫カフェに一緒に来るようになってしまった。それも月一で。
「猫は好きだけどさ、俺は猫を見に来てるの」
「じゃあ、私は猫になりますー、にゃあ」
「いや、なんでよ……」
呆れながら卓にあったコーヒーを手に持つ。
「先輩、ちゃんと休めてます?」
「ん、休んでるつもりではあるけど」
「それならいいですけどね。ま、ちゃんと私と猫カフェに来てるんで信じますよ」
七海が溜め息交じりにそう言うと、席を立って猫を見に行った。
いい加減、猫の鳴き真似に飽きたのだろう。とりあえず、俺も猫を堪能しに行くか。
「にゃあ」
「うおっと」
コーヒーを置こうとした瞬間、小太りの猫が目の前に現れた。
他の猫と比べて不愛想というか、態度がふてぶてしい。
「にゃあ」
「な、なんだよ……」
なんだこの圧倒的強者感。この猫カフェの王か何かなのか?
「せんぱーい、何してるんですかー」
「何って、猫とにらめっこ?」
「なに意味わからんこと言ってるんですか」
そのままを伝えたつもりなんだけど。
気になったのか、スタスタと七海がこっちに戻ってくる。
「にらめっこって……ぷっ」
「え、なに」
「いや、この猫ちゃん、先輩に、似すぎてて」
七海は笑いを堪えきれないのか、肩を震わせながら言ってきた。
え、そんなに似てるか?
俺は目の前にいる猫を見つめる、がまったくわからない。
「んにゃ」
「あ」
「あー、行っちゃいましたね」
しびれを切らしたのか、小太りな猫はテーブルから降りてバックヤードに行ってしまった。
「いやー、あんな先輩に似てる猫がいるなんて面白いですね」
「そんなに似てるか?」
「めちゃくちゃ似てますよ、ふてぶてしいところとか」
「どこがだ」
「そういうところですっ」
からかわれているような気がして恥ずかしくなってきた。
七海には前からそういう節がある。何かにつけて俺に突っかかてきては、俺を困らせる。
これが懐かれた者の運命というものなのやら。
まあ、猫に会えるならこの時間も悪くない。これが今の俺にとって一番の癒しだ。
「とりあえず、今日は癒されました?」
「ああ、だいぶ」
「猫に?」
「猫に」
「私に?」
「それはない」
「にゃあ」
「あほか」
今日誘ってきたのは七海からだ。
夏休みだと言うのに勉強ばっかでくたばってないか心配だったらしい。本当かどうかはわからないが、猫カフェに行くと言ってきたか仕方なく付き合った。
だからなのか七海は自分自身でも癒されたかどうか聞いてきたのだろう。そんなわけがあるか。
「ふん、勉強ばっかでかわいい後輩には目もくれずですか」
「なんだよ急に、そっちこそ宿題とかで忙しいはずだろ」
「宿題なんかもう終わらせました。あんなもんちょちょいのちょいです」
実は、七海の成績は超がつくほど良い。
定期テストでは毎回一桁順位で、もちろん遅刻欠席もない。
妙に煽られた感じがするが、そんな七海に言い返すことは出来ないのが現状。だからこそ勉強に集中していたいのだが。
「ところで、先輩は毎日何時間くらい勉強してるんですか?」
「突然だな。んー、だいたい6時間以上はしてるかな……」
「ええ……」
「なんでここでドン引きするんだよ」
「だって、勉強ばっかで青春してないじゃないですか。もっと夏休み楽しみましょうよ」
「受験生にそれを言うか……。とりあえずこの話は終わりだ、猫を見る」
「むう」
こんな天国みたいな場所に来てまで勉強の話なんてしたくない。
不貞腐れた七海を横目にキャットタワーで落ち着いている猫を一匹一匹観察していく。
やっぱり。
「猫はかわいいなあ……」
「あの、先輩。心の声漏れてますよ」
「え、ああ。まあ本当のことだし」
「やっぱり勉強のしすぎで疲れてません?」
「いやあ、そんなことないと思うけどなあ。猫見れて癒されてるし」
ちょくちょく耳に入ってくる七海の声に適当に答えている。
確かに疲れているんだろうが、そんなのちゃんとご飯を食べてちゃんと寝れば回復する。
猫見てるんだし、それだけで一か月は頑張れる。
「休んだ方がいいですよ。勉強から離れてどっか行きませんか?」
「いやあ、それは厳しいなあ。勉強しないと志望校には受からないかもだし」
「そんなこと言って。無理やりにでも連れて行きますよ、明日迎えに行きますからね」
「やれるもんならやってみなよ。あ、あの猫かわいい」
呆れたのか、七海の声は聞こえてこない。聞こえるのは溜め息ぐらい。
やはり、猫を見ていると時間があっという間に感じるな。猫様バンザイ。
それからは特に会話もせず、入店時に決めた時間が来るまでただただ猫を眺めていた。
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