第七話 魔術師同士の約束
ヴェルナーは放った魔法の矢を暴発させることでダナハの風の刃を相殺させて消した。その爆発によって土埃が舞い上がり視界の見通しが立たなくなった。
「セレナード! ライド! シルバー! 行くぞ」
「ええ! 行くわよ二人とも!」
ヴェルナーは背後で身を潜めていた三人に声をかけるとセレナードが応じた。
ヴェルナーは足元に魔法陣を展開し、結界魔術を発動する準備を整える。そしてその魔法陣からセレナード、ライド、シルバーの三人に向かって直線が伸び、三人の足元にも魔法陣が展開された。
「魔力を魔法陣に送れ!」
ヴェルナーの合図で三人は魔法陣を伝って、ヴェルナーの魔法陣に魔力を送った。
ヴェルナーは結界魔術の行使に使用する魔力を三人に頼ることにし、自身の魔力は相手の攻撃に用いる算段だった。
「なにかする気だ! やつを止めるぞ! 一斉攻撃だ!」
ダナハは部下に指示を出すと一斉に『下級風属性魔術・風の刃』――一つの風の刃を放出する魔術を行使したが、
「もうおせぇよ……! 『王級結界魔術・反転世界』」
「「王級結界魔術だと⁉︎」」
ダナハとレイブルが驚嘆したあと、ヴェルナーの足元にある魔法陣から魔力が溢れて周囲に広がる。
すると、ヴェルナーに向かっていたはずの風の刃はなぜか術者の方に向かっていった。
「うわぁ!」
各々の術者は必死に風の刃を避けていた。
(確かに結界魔術が発動する魔力の動きを感じたが……一体何が起きたんだ!)
レイブルは戸惑っていた。それは他の魔術師も同様である。
敵の師団長であるダナハは結界魔術の効果は分からないが今取れる最善策を実行することにした。
「な、なにをしたか知らんが魔術を使うのは危険とみた、俺が魔法で援護するから他のもの達は武器で応戦せよ!」
「「「はっ!」」」
トルネイド家の魔術師は短剣や長剣を構えてヴェルナーに襲いかかったが何故か前に進もうとすると後ろに向かって進んでいた。
ある者は右に動こうとしたが左に動いてしまう。
また、ある者は剣を振り上げようとすると剣を振り下ろしてしまう。
「なんだこの魔術は……⁉︎」
ダナハは思うように動けない状態がもどかしかった。
この結界魔術は範囲内にいる敵が進行方向と逆に動いてしまう魔術であり、さらに敵が発動させた魔術も逆方向に動いてしまうものだ。そのため、ヴェルナーに向かっていた風の刃は急に反転して動いたのだ。
いくら熟練の魔術師でも思った方向と逆方向に動いてしまう体をつかいこなすのは困難である。そもそも、結界魔術の効果を把握してないトルネイド家の魔術師は混乱に陥っていた。
「『凶乱流秘伝魔術・
ヴェルナーは一〇体の幻影を放った。幻影走破は術者次第で何人でも分身を出せるが魔力量の少ない今の彼は多くの分身を出すのを嫌っていた。しかし、今ここで魔力を使い切ることを決意した。
「ぐふっ! こいつら実体を持ってやがる」
ヴェルナーの分身が敵の魔術師を殴り倒す。
「一撃加えれば消える分身だ! 持ってる武器でなんとか応戦しろ!」
レイブルは慌てつつも対処法を提示していると、
「ぐああああっ!」
トルネイド家の魔術師の一人が白色の光線を受けて断末魔を上げて倒れた。何故なら、気配を絶っているヴェルナーが魔法の矢を放ったからだ。
「『下級無属性魔術師・魔法の矢』」
「ぐあっ⁉︎」
ヴェルナーの魔法の矢によって次々とトルネイド家の魔術師達は死亡していく。
結界魔術によって思うように動かない体。
幻影に対処しないといけない煩わしさ。
そして気配を感じ取れない相手から攻撃。
トルネイド家の魔術師達はジワジワと追い詰められていた。
「あぁぁぁ……!」
レイブルは尻餅をついて怯えた声を出す。ダナハと自分以外は全滅し、周りには団員が持っていた武器を手に取った幻影がいたからだ。
さらにダナハの背後でヴェルナーが指を当てて立っていたからだ。
「げ、外道が! お前の戦い方は邪道だ! 姿を消して容赦なく俺達の仲間を次々と殺しやがって!」
口では強気なダナハは冷や汗を掻いて気が気じゃなかった。
「なんとか答え――」
「『下級無属性魔術・魔法の剣』」
ヴェルナーは相手の言葉を待たず、手刀にした右手から魔力で作られた刃を放出し、その刃でダナハの首を切り落とした。
ダナハの首はレイブルの目の前に落ちる。
「ひぇぇぇぇぇ!」
レイブルは恐怖し絶叫していた。
「お前らがファブニル家の魔導書を狙う理由を聞かせてもらおうか、答えられなかったら分かってるよな」
ヴェルナーはレイブルの体を踏みつけた。
また、戦闘が終わったと判断したセレナード達はヴェルナーに近付いていた。
「答えなさい! 何故魔導書が必要なのか」
「ぐえっ」
セレナードはヴェルナーに便乗してレイブルの顔を踏みつけていた。
「あ、姉上……」
ライドはわざわざ姉が追撃することはないだろうと思って呆れてた。
「……ぐっ」
レイブルは恐怖に煽られながらも口を閉じていたが、
「今度は足を斬ろうか」
「ひぃ! 待ってくれ! 言う言うから!」
レイブルは足をバタつかせながらヴェルナー達の要求に応じることにした。レイブルはセレナードの足が顔から離れると再び口を開く。
「ファ、ファブニル家の秘伝魔術は成功報酬の一つだったんだ……トルネイド家とサンドラ家の当主はお前らを滅ぼすように頼まれたんだ......! 秘伝魔術は成功報酬の一つだ。お前達の領土を依頼主に明け渡す代わりに多大な金銭、ファブニル家の秘伝魔術、依頼主の勢力との同盟が約束されてたんだ」
レイブルは怯えながらも自身が持っている全ての情報を吐き出したがライドがさらにレイブルを詰める。
「肝心な依頼主を言ってないぞ! 答えろ!」
「それは言えない......! 魔術師の約束が交わされてる!」
「魔術師の約束ってあの、約束を守らなかったらサークルが壊れて魔術を一生使えなくなるっていうやつか」
「そ、そうだ」
レイブルが言っているのは魔術師同士が大事な約束を交わす際に行われる契約のことだ。その契約は約束を交わした魔術師同士がサークルを賭けており、約束を破った魔術師はサークルを破壊されて二度と魔力を使えなくなってしまう。
レイブル達が守らなければならないのは依頼主が属する勢力の黙秘。依頼主が守るのは依頼達成の際の成功報酬だ。
「いいから話せ」
ヴェルナーはレイブルの胸倉を掴む。
「そんなことしたら俺のサークルが壊れてしまう」
「知るかよ、その程度の覚悟でお前は魔術師に喧嘩を売ったのか? 自分は大丈夫だと、自分は常に安全だと、高を括っていたのか? 相手を殺そうとして自分が殺されないなんて甘い考えで殺し合いに乗じるな。それにお前が依頼主を吐けば命は助かるんだぞ」
「でも俺が約束を破ったら、この依頼に参加していたトルネイド家の魔術師らのサークルも破壊されるんだ!」
「個人対個人の契約じゃなくて多人数と個人の契約ということか……だが、そんなもの俺が知るか! 殺されるか! サークルが破壊されるか選べ!」
「うぅ……依頼主は……依頼主はミストゥル家の第三魔術師団長イーグロ・レトロだ……」
レイブルは自身の命を優先し、自身と仲間達のサークルを破壊する道を選んだ。
「まさかミストゥル家が依頼主とはね」
「
セレナードは顔を顰め、シルバーは驚きを口にしていた。
そのとき、
「う、うわあああああああああああああああああ!」
レイブルが絶叫して苦しみ悶え、彼の体からは魔力が溢れてしまう。それはサークルが破壊された証拠だった。
レイブルは気絶した。
すると、ヴェルナーはレイブルに指を向ける。
「止めてヴェルナー、殺さないであげて。今のこいつは無力で殺す価値もないわ」
「…………」
「ヴェルナー?」
ヴェルナーが魔法の矢でレイブルの息の根を止めようとしたがセレナードは彼の行動を静止させようとした。
「くっ……やはり魔力切れか……」
ヴェルナーは両膝を地面につく。
(コア・サークル連結式魔術回路を組んだとはいえ一サークルの状態だと、これ以上の無理は禁物か……くそ、意識が保てなくなってきた……大陸最強だった俺がここまで弱くなるとは……な)
「「「ヴェルナー!」」」
ヴェルナーは地面に横たわり気絶すると、他の三人は彼に駆け寄ったのであった。
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