【パーティ追放殺人事件】捜査会議

 俺はイリッド村にクリスが来ていないこと。

 村人から得たカスパルやクリスの印象、前夜の行動を皆に伝えた。


 カスパルたちは拠点と洞窟をポータルでつないだあともイリッド村を訪れ、物資などを購入していた。

 さらに、本件の前夜はカスパルとクリスが別々に部屋をとって宿泊していた。


 宿屋の主人によると、夕食をともにしていた2人に何かがありクリスが怒って部屋に戻る。

 カスパルは残った料理に手をつけず、酒場でしばらく時間を潰してから部屋に戻る。

 以降は目撃されておらず、主人は朝になって2人が部屋にいないことに気づいた。

 ただ、宿賃は前払いされていたので、問題にすることなく部屋を片づけたそうだ。


「ほかにも村人の証言ですが、夜中に翼竜が飛ぶ姿を見たそうです」


 この世界ではポータルと同様に冒険者の移動手段として翼竜が使われている。

 個体差はほぼなく、武器や防具の重さをふくめると大人2人が定員といったところだ。


「2人が乗っていたの?」

「そこまでは見えなかったようです。ただ、イリッド村で翼竜を使っていたのはカスパル一行だけです」


「なるほどね、ありがとう。簡単にまとめると、前夜に口論になった2人が夜中から朝方にかけてなんらかの目的で洞窟に向かう。そこでもひと悶着あって、朝方に事件が起こったってことね」


 俺はボードに書かれたカスパルとクリスの冒険記録や戦闘履歴を見比べて。


「この2人、けっこう実力差ありますよね」

「他のメンバーをふくめてもクリスがダントツね」

「炎魔法と剣術が使えるとはいえ、どちらも中級程度。単独でクリスに勝てるとは思えないんですが、なぜ最初から追放を宣言して逃げなかったんでしょうか」

「情もからんでるんじゃない? 愛なのか友なのかはわからないけど」

「というと」

「クリスはあのギルドで最古参なのよ。先代であるカスパルの父親に拾われて育ったらしくてね。ギルドには恩義も愛着もあって、カスパルとも幼なじみだったみたいだし」

「カスパルは説得を試みて失敗した。クリスは情があってカスパルを殺しきれなかったと」

「そうね。動機は二型転生のジレンマだと考えれば一応の筋は通るから」


 あの、と何か言いたげにユキノがつぶやいた。


「どうしたの」

「遺体の人が出てきませんよね、どこにも」

「確かにそうね」

「何かわかったことはありますか」


 にこっと笑いかけながら「あるわ」


 マイさんが手に持った資料を3人に配る。

 あの焼死体を投影した墨絵で、胸部に剣で貫かれたような深い傷が描かれている。


「性別は男性。身元がわかるものは持っていない、もしくは焼失している。残っていた血液をうちの転生者リストと照らし合わせているけど、それは結果待ちね」


 俺が死因は、と問いかける。

「胸部の傷。後ろから剣で一突きされて、息絶えたあとで焼かれているわ。詳しく調べる必要はあるけど、クリスが使っている剣と傷跡が一致している。凶器は持ち去ったみたいね」


「殺害現場は?」

「遺体があったあの場所。血だまりの上に遺体、さらにモンスターの死骸を積みあげてからたいまつの油をかけて火をつけた可能性が高い」


「油ですか」

「魔法の上級者なら消し炭にできるけど、クリスは魔法を使えないからね。遺体をどこかに運ぶにしても血痕が残るし、近くにギルドのポータルがあるから朝には誰かに気づかれる。だから、夜のうちにモンスターの死骸と一緒に処理したかったんじゃない」


 話の筋は通っている。


「ほかに気になるのは2人がイリッド村に宿泊した理由ね。ただ休むだけならポータルで拠点に戻ればいいし、物資や食糧を購入した記録も残っていないとなると……」


マイさんが俺に向かって「そういう関係だったの?」

「姉弟みたいだったという証言はとれてますが、実際はどうですかね。いずれにせよ、カスパルやダマスカスダリルのメンバーに聞き込みをしたほうがいいかと」

「そうね。クリスの足取りがつかめない以上、やれることをやりましょう」


 イエッサー!、と勢いよくアルが声を放つ。


「アルは何か質問ないの?」

「いやまったく。同僚も後輩も上司も、優秀でスゴクウレシイデス」


 マイさんは怪訝な顔をしながら「まあいいわ。ケイと2人でカスパルに話を聞きに行って。ユキノちゃんは研修、私はもう少し情報を整理しておくから」


 指示を出して解散となった。

 出がけにデスクに置かれていた書類を片づけていると、会議スペースの話が漏れ聞こえてきた。



「あの……複合型の転生者っているんでしょうか」



「複合型?」

「たとえばですけど、転生者として生をうけてある時期に精神が入れ替わるような」


 マイさんは少し考えたうえで「私が知るところではないわね。数年前に五型が1人登録されたくらいで、あとは1~5までのタイプで分類されるから。誰か心当たりがいるの?」


「いえ……聞いてみただけです」


 ドアの前で待っていたアルに呼ばれ、俺たちはそのまま治療院へと向かった。

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