【パーティ追放殺人事件】帰還

 ユースティティアの本部は首都であり国名にもなっている『アバンダンティア』の中心部にあった。


 転生者がもたらした建築技術によって施工された5階建てかつ地下フロアもある、あちらの世界で言うところのビルのような外観と構造になっていた。

 エレベーターなどの動力機器も設置されていて、電力ではなく魔力で作動する。


 まわりの建物の構造やデザインも統一されている。

 転生者がここにやってくるとあちらの世界を想起する者もいれば、ひとたび郊外に出ると剣と魔法の世界が広がっているので脳がバグるという者もいる。


 捜査課にはいくつかの分室がありほとんどが3階を使用している。

 しかし、重罪をあつかううちの部隊は迅速な初動捜査を求められるため、利便性の高い地下フロアの一角を根城としていた。


 おもに使っているのはメンバー個々のデスクと会議スペースのある部屋。

 制圧任務の際に装備を着用するロッカーとキッチンが併設された部屋だ。

 ロッカーは男女兼用だが、男女別のシャワールームにつながっていて肌着などはそこで着替える。

 

 地下フロアにはほかにもユースティティアのメンバーが共用で使う武器・防具庫、トレーニング・模擬戦スペース、そしてポータルも設置されていた。


 昼食を終えて台帳の写しを得た俺たちは翼竜で洞窟へ向かった。

 ポータルからダマスカスダリルの拠点へ。

 さらに、アバンダンティアまで馬を走らせ、本部の地下にあるロッカールームで待機していた。

 対面にはキッチンがあり、その2つを仕切るように大き目のテーブルとイスが置かれている。


 俺は戦闘用のコートからジャケットに着替えて会議の開始を待っていた。

 会議後に研修があるらしく、ジャケットとスカートに着替えたユキノが丸イスにちょこんと座っている。


 俺は冷蔵庫を開けながら「何か飲む?」

「えっと……」

「コーヒー、ミルク、ジュース、お茶、水なんでもどうぞ」

「では、お茶をいただけますか」


 はいよ、と返事をして来客用のコップを出し、お茶を入れてユキノの前のテーブルに置いた。

 ユキノがありがとうございます、と言い終えたとき男性用シャワールームのドアが開いた。



 上半身裸の男が出てくる。



 タオルで銀髪を拭いているので表情はうかがえないが、細身ながら引き締まった身体をしている。

 下はズボンを履いているのでまだマシだ。


 俺はあっけにとられるユキノの目線を遮るように移動し、強めの口調で。


「アル!」

「悪い悪い」


 同僚であり教練校からの腐れ縁でもあるアルトゥル・メルダースだ。

 彼は自身のロッカーを開けて肌着とシャツを着用し、顔に何かをつけ、ネクタイを結びながらキッチンまでやってくる。


 洗い場に置かれていたマイコップを取り、冷蔵庫を開けてミルクをなみなみ注いで一気に飲み干した。


「ひゃーーー、キマる」

「じゃねえよ。俺たちに何か言うことあるだろ」


 わけがわからないよ、と言いたげな表情でアルがこちらを見ている。

 整った顔立ちをしているが、左半面につけられた白いファントムマスクが触れてはいけない過去を感じさせる。


「裸? お見苦しいものを見せてすみませんでした」

 アルがユキノに深く頭をさげると、それに反応して「大丈夫ですから顔をあげてください」

「それもある」


「それも……。ああ、あのデカイのね。一発撃ち込んだんだけど、どうも効果が薄くてさ。洞窟の中にケイたちの魔力を感じたし、『テクスト』で報告すればなんとかなるかなって」


 俺とユキノが洞窟の外で見た光景は、小さな獣系モンスターの群れがまばらに倒れている姿だった。

 いずれも催眠魔法で眠らされていて、アルの仕業だということがわかった。


 魔力の索敵に優れ、効果を付与した魔法弾を作り出して銃器で撃つことができる。

 能力が優秀かつ根はいいヤツなんだが、いい加減な部分が多々ある。


「ホント悪かったって」

「そう思うなら、なんで洞窟の入口にいないんだ」

「ちょっとトイレに」

「マイさんが来ると思って逃げただろ」

「……それもある」

「被せてくるな」


 ふふっと抑えるような笑い声が聞こえた。


「すみません。つい」

「このくらいで勘弁してくれよ。俺だってあの後、大変だったんだから」


 アルは自身の腕や服の臭いをかぐ仕草をする。眠ったモンスターを森へ帰し、焼けた死骸の一部を本部まで運んだことで獣臭が移り、シャワーを浴びたのだろう。


「自業自得だろ」


 と返したタイミングでテクストが鳴り、俺たちはロッカーを出てデスクと会議スペースのある部屋へ向かう。


 ドアを開けると中央には仕切りがあり、右側には長方形の机とイスのセットが4つ。

 それぞれが向き合い隣りあうように置かれている。


 少し離れたところにマイさんが使う大きめの机とイスがある。

 左側の奥には薄いブラウンの布張りのボードが置かれていて、そこに資料を持ったマイさんがいた。


 おつかれさまですと定型のあいさつをすませる。

 俺たち3人はボードの前、マイさんはボードの隣に移動して布面に手を触れる。


 関係者たちの顔のイラスト、名前や年齢、冒険記録や戦闘履歴。

 そして『種者』といった情報が文字として浮かび、相関図ができあがった。

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