第088話 到着
飛空艇が出発し、数時間が経った。
俺は暇なので【職場での人間関係 ~後輩編~】を読んでいる。
「ジークさん、ちなみに聞くけど、それ、何て書いてあるのかしら?」
背表紙を覗き込んだアデーレが聞いてくる。
「仕事の相談を乗るふりをして飲みに誘えって」
「やっぱりそういう本なわけね……」
著者が同じだし、そうだろうな。
「ふりって言葉はどうかと思うが、参考にはなるな。後輩のケアは大事だ。皆が言うには俺の言葉は強いらしいから和らげるのが大事なわけだ」
「弟子の顔色を窺う師匠もどうかと思うわよ」
「その辺のバランスか……」
威厳?
でも、俺自身がそういうの嫌いだしな。
「というかね、飲みにいくも何も週末はずっと一緒に飲んでるじゃないの」
確かに。
しかも、オーケーな宅飲みだ。
オーケーじゃないけど。
「エーリカ、俺のことをムカつくとか死ねとか思ってないか?」
「急に何を言い出すんですか……思ってませんよ」
エーリカが苦笑いを浮かべる。
「レオノーラは?」
「気取らない方が良いよ。今の君で十分。というか、ディナーだったら誘ってくれたら喜んでいくよ。別に仕事の相談はしないけどね。そういうのは仕事中にするから」
こいつらはそうするか。
「そうだな。今日はさすがにホテルで夕食を食べるが、明日はお疲れ様会でどっかに行くか? 奢ってやるぞ」
それくらいはするべきだろう。
「やったー」
「素晴らしい師匠だね」
「どこ行くの? あなた、王都のお店知ってる?」
知らんな。
「ホテルの人に聞こうかな……」
「よしなさい。セントラルホテルの人が勧めるのはドレスコードがいるような店よ。ドレスなんて持ってきてないわ」
確かにそんな気がする。
「外食オンリーだったアデーレ、いい店を知らないか?」
「普通の店ならね」
「そこでいいわ。単純なお疲れ様会だ」
「じゃあ、案内するわ。2人共、それでいい?」
アデーレがエーリカとレオノーラに確認する。
「はい。というか、ドレスコードって言われても困りますしね。ドレスもないし、マナーも知りませんよ」
「そういう店は2人で行くもんだよ。普通に飲み食いしようよ」
店選びって大変だな。
俺、絶対に幹事とかできんわ。
『まもなく王都に到着します。お降りのお客様は準備をお願いします』
話をしていると、スピーカーからアナウンスが聞こえてきたのでレオノーラ越しに窓の外を見る。
すると、多くの建物が並んでいる懐かしい街並みが見えてきた。
「すごいですねー。高い建物も多いですし、まさしく王都って感じがします」
初王都のエーリカは感嘆の声をあげる。
「リートから来るとごちゃごちゃしているように見えるな」
「人も多いし、密集しているからね」
東京もそんな感じだったなー。
さすがに東京の方がすごいけど。
「エーリカさん、あれが王都のシンボルである王城よ」
アデーレが遠くに見える白い城を指差す。
「おー! あれですか! 昔、雑誌で見たことがあります!」
「さすがに中には入れないけど、外から眺める分には問題ないからまた行きましょう」
「はい! アデーレさんやレオノーラさんは入ったことあるんですか? 貴族ですし」
貴族ならあるかもな。
「ないわね」
「田舎の貴族だし、領主である父ならまだしもその娘は呼ばれないね」
そうなんだ……
意外だ。
「へー……どんな感じなんですかね?」
「まあ、豪華なんじゃないかしら? 城に入ったことがあるのはジークさんね」
「え? ジークさん、お城に行ったことあるんですか?」
エーリカが驚く。
「そりゃそうだろ。俺は3級を持っているんだぞ」
「あ、そういえば、3級以上はお城で陛下から直接手渡されるんでしたね。雲の上すぎて、忘れてました」
まあ、そんな大層なものではなかったな。
陛下からネックレスを渡され、国のために尽くせとか一言二言で終わりだったし。
「城は綺麗だったぞ。でも、無駄に広すぎて住みにくくそうだった」
「お城は住むところじゃなくて権力の象徴だからね」
「利便性よりそっちだよね」
トイレも遠そうだったしな。
漏れるんじゃね?
「へー……」
「住みたかったら殿下にでも見初められて次期王妃様にでもなることかしら?」
夢あるな。
俺は女だったとしても嫌だけど。
「無理ですよー。それに畏れ多いし、普通に身の丈に合った人が良いです」
「まあ、そうよね」
「貴族もめんどくさいし、普通の庶民が良いよ」
夢なかったわ。
「ジーク様はお姫様が良いですか?」
アデーレの膝の上で丸まっているヘレンが聞いてくる。
「わがままそうだから嫌」
会ったことないから知らないけど、お姫様ってそういうイメージがある。
「不敬な発言はスルーしますけど、ジーク様はそんな感じですね。素直な子が良さそうです」
「あとバカは嫌いだ」
「でしょうねー……多分、夫婦共にストレスマッハでしょう」
胃に穴が開くな。
「ジーク君には私達がいるじゃないかー」
「はいはい。お前は賢いな。試験頑張ってくれ」
俺達が話していると、飛空艇が着陸体勢に入り、徐々に降下し始めた。
そして、着陸し、完全に動かなくなる。
「着いたな」
「ふう……地味に着陸の時が怖いのよね」
ビビりのアデーレがそう言いながらヘレンを返してくれた。
「お前、毎回そんなんなのか?」
「毎回って言うほど、乗ってないわよ」
帰りもヘレンを渡すか……
「まあ、無事に着いたからいいか……行こう」
俺達は席を立ち、飛空艇から出る。
そして、ドックに収まった飛空艇から繋がった渡し版を歩き、空港に降り立った。
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