第073話 大変


 クリスが査定をし、数日が経った。

 その間も夕方にはルーベルトがやってきて、できた水曜石とレンガを回収していた。

 そして、週末になった日の午後、エーリカが最後の水曜石を作り終え、緊急依頼の品物をすべて揃えることができた。


「やればできるもんですねー」

「本当だね。錬金術師としてレベルアップした気がするよ」

「私はようやくまともに錬金術の仕事ができて良かったわ」


 3人娘も満足そうだ。


「夕方にルーベルトが来るだろうから渡して終わりだ。納品書と請求書を作ろう」

「じゃあ、支部に戻りましょう」

「ずっと外だったし、久しぶりだね」

「そういえばそうね」


 俺達は片付けをすると、表に回り、看板と共に支部の中に入った。

 そして、2階に上がり、手分けしてレンガと水曜石の納品書と請求書を作っていく。


「あと残っているのは役所からの火曜石と軍からの回復軟膏ですよね?」


 納品書を書いていると、エーリカが聞いてくる。


「そうだな。どっちも急ぎではないからいつものペースで作っていこう」

「わかりました。火曜石はどうします? 私達も作りますか?」


 それなんだよなー……


「水曜石が作れたお前らの実力なら作れないこともないと思う。でも、火曜石は失敗したら爆発するというリスクがあるんだよ。それを防ぐためには専用の機械があるんだが、そんなものはこの支部にはない。だから防御魔法を覚えないといけない」

「防御魔法って難しいんです?」


 うーん、どうだろ?

 俺基準では簡単だが、魔法なんてロクにできない錬金術師だからな……


「ちょっと時間がかかるかもな。今回は俺が火曜石を作るから3人は回復軟膏を作ってくれ。アデーレは作ったことがあるんだよな?」


 確か実家で作っていたと言っていた。


「ええ。作り方も覚えているわ」

「じゃあ、2人に教えながら作ってくれ。まあ、来週からでいいわ」

「わかったわ。そんなに難しいものじゃないからすぐにできると思う」


 難易度的にはポーションと変わらんからな。


「ジークさん、ジークさん、お祝いしませんか?」


 お祝い?

 前にもやったやつかな?


「あー、いいんじゃないか? 明日は休みだし、ちょうど区切りはついたしな」


 エーリカの家で飲み食いするだけだし、普段とあまり変わらない。


「良いねー。潰れてもアデーレがベッドまでエスコートしてくれるし」

「もうやんないわよ。自分で2階に上がりなさい」

「じゃあ、エーリカのベッドで寝るよ」


 いや、潰れるまで飲むな。

 強くないくせに。


「何か食べたいものはありますか?」


 慣れているだろうエーリカが華麗にレオノーラをスルーして聞いてくる。


「俺は何でもいいわ」

「私はよくわからないから任せるわ」

「ハンバーグ!」


 レオノーラがどっかで聞いたことがあるフレーズを言いながら子供みたいに手を上げた。


「じゃあ、ハンバーグを作りましょう」

「ハンバーグって何?」


 アデーレが聞いてくる。


「肉料理」

「へー……この地方の料理かしら?」

「俺が神から教えてもらった料理だな」

「……なんて反応すればいいの?」


 知らない。


「不味くはないから食べればいい。細かいことを気にするなよ」

「うーん、それもそうね。エーリカさんの料理なら間違いないわけだし」


 そうそう。


「じゃあ、そういうことで。今日はこれを書いたら適当に過ごしていいぞ」


 もう夕方の4時前だし、今からやっても効率的ではない。


「でしたら勉強しましょう。そろそろ近いですし」

「あー、それもそうだね」

「ジークさん、ちょっと錬成を見てくれない? 座学は大丈夫なんだけど、どうしても実技が不安なの」

「わかった」


 俺達は納品書と請求書を書き終えると、各自で勉強を始める。

 そして、17時を回ったあたりで1階に設置してある呼び鈴が鳴った。


「ルーベルトさんかしら?」

「だろうな。俺が渡してくるわ」


 そう言って立ち上がると、納品書と請求書と共に最後のレンガと水曜石を持って、1階に降りる。

 すると、予想通り、ルーベルトが受付前にいた。


「よう」

「やはりここだったかい。看板がなかったから上にいるのかと思ったよ」


 やはり受付がいないのは大問題だな。


「水曜石を作り終えたからな。あとレンガもできた」

「おー! さすがだね! 非常にありがたいよ!」

「じゃあ、これな。あと、納品書と請求書」


 木箱に入ったレンガと火曜石を床に置き、納品書と請求書を2枚ずつ渡した。


「ちょっと確認するよ」


 ルーベルトは腰を下ろして、レンガと水曜石の質を確認していく。


「例の件はどうだ?」

「ヤバいね……なんとなくだけど、泥沼化しそう」


 うわー……


「決定的な証拠がないんだな?」

「そういうこと。でも、状況的には完全にクロって感じだよ。軍から聞いたけど、アドルフさんが抽出機を船から降ろすところを見たんだって?」

「見たな」

「抽出機どころか分解機も発注してたみたいだよ。さすがに商業ギルドもその情報を掴んだみたい」


 状況証拠は完全に揃っているな。

 でも、それだけではクロとは言えない。

 機械を買い替えようと思っていたと言い張ればいいわけだから。


「町長は?」

「どうかねー? 議員が出てきたら出ないといけないかもね。軍も王都に出張している大佐を一時的に呼び戻したらしいよ」


 大佐まで出てくるのか。


「確かに泥沼化しそうだ」

「でしょ? もう疲れたよ……よし、レンガと水曜石も大丈夫。じゃあ、これを持って帰って来週にでも振り込んでおくよ」


 ルーベルトはカバンにレンガと水曜石を入れ、立ち上がった。


「ああ。頑張れよ」

「ありがとう。引き続き、火曜石の方も頼むよ」

「わかった」

「じゃあ、私はこれで」


 ルーベルトが帰っていったので見送ると、2階に上がる。

 そして、いい時間だったので終業ということにし、4人で家に帰った。

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