第064話 もーんだーい、ないさー
アデーレとディナーを楽しんだ後、皆で酒を飲んだ。
そして翌日、エーリカの部屋で朝食を食べた俺はコーヒーを飲みながら準備をしてくると言って、自分の部屋に戻ったレオノーラを待つ。
「アデーレはエーリカに町を案内してもらうんだっけ?」
同じようにコーヒーを飲んでいるアデーレに聞く。
なお、エーリカは洗い物をしている。
「ええ。お店なんかを教えてくれるらしいわ。ありがたいわね」
「へー……」
「ジークさんは釣りでしょ? 良い感じの魚を釣ってきてちょうだい」
エーリカがアクアパッツァを作ってくれるらしいから釣らないといけない。
何故ならアクアパッツァと聞いた時にヘレンの尻尾がピンッと立ったのだ。
「アデーレは釣りとかをしたことあるのか?」
「ないわね。ウチは山の方だから海なんてないし、そもそも私は魚を触れない」
すげーお嬢様……
絶対に料理できないな、こいつ……
「それで外食オンリーだったわけか」
「料理が苦手なのよ。だからエーリカさんが御馳走してくれて本当に助かっているわね」
「いえいえー。お料理は楽しいですから全然大丈夫ですー」
洗い物をしているエーリカが明るく答えた。
もはや聖女エーリカだ。
「――お待たせー」
レオノーラが戻ってきた。
「何か変わったか?」
さっきと変わらない魔女っ子だ。
「帽子を被ってるでしょー」
確かにそうだな……
朝食を食べている時は被っていなかった。
「そのこだわりは何なんだ?」
「私は形から入るタイプなんだよ。魔法使いっぽいでしょー?」
まあ、誰が見ても魔法使いだな。
「ふーん……まあいいや。行くか」
「よーし、大物を釣るぞー」
大物がかかったら引っ張られて海に落ちそうだな……
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
「海に落ちないようにお気をつけてー」
俺達はエーリカの部屋を出ると、レオノーラに案内され、海に向かう。
しばらく歩いていると、例の火事現場の前を通った。
「休みなのに作業をしているんだねー」
レオノーラが言う通り、作業員が復旧作業をしていた。
すると、隣の燃えなかった倉庫から一人の女性が出てくる。
「あ、ルッツの彼女だ」
「ホントだ。ルッツ君の彼女だ」
俺達がそう言うと、俺達に気付いたユリアーナが呆れた表情でこちらにやってきた。
「こんにちは。あの、エーリカさんから聞いたのかもしれませんが、あまり言わないでもらえます?」
「なんでだ? 嫌なのか?」
そう聞くと、レオノーラが服の袖を引っ張ってくる。
「職場恋愛だから内緒にしているんじゃない?」
「あー、それか」
確かに気まずいかもしれんな。
前世でもそういう男女がいた気がするし、何ならバイト時代は結構見た。
「まあ、内緒にしているのはそうなんですけど、単純にルッツの彼女呼ばわりはないでしょう」
「まあ、そうかもな。それよりも仕事か?」
ユリアーナは軍服姿だし、あの倉庫から出てきたということはそうだろう。
「ええ。火事の調査ですね」
ふーん……役所はアドルフの商会に責はないと言ってたのに調査か。
「何かわかったか?」
「いや、さすがに言えませんよ」
ユリアーナが苦笑いを浮かべる。
「まあ、そうだろうな。調べるんなら燃えた倉庫に何があったかも調べた方が良いぞ」
「ん? 火曜石でしょう?」
それはあるだろうな。
「火曜石はどれくらいの数があり、どういう位置にあったのか、他には何があったのか。そういうのを一個一個調べないと何もわからんぞ」
この世界はそういう捜査能力が低いのだ。
「んー? わかりました。調べてみます」
ユリアーナは何かを考えていたが、頷いた。
「ユリアーナさん、ルッツ君は?」
レオノーラが聞く。
「彼は休みですよ。そういうあなた達は御二人でいますが、休みじゃないんですか?」
「休みだよ。デートなんだ」
「へ? あ、そういう……」
ユリアーナが納得する。
「ユリアーナ、レオノーラの言うことは話半分で聞いた方が良いぞ」
「あー、ルッツがそんなことを言っていた気がします」
エーリカ経由かな?
「実際、デートだけどね。男女で海に行くのはデートだよ」
まあ、そうかもな。
「確かにそうですね。しかし、海ですか……良いですねー。最近は全然行けていません」
忙しいんだろうな。
「たまには休んだ方がいいよ? ルッツ君にどこかに連れていってもらいなよ」
「休みが合うと良いんですけどね。最近は忙しくて……あ、お邪魔してすみません。また来週、魔力草を持っていくと思いますので」
「わかった。まあ、そんなに急がんでもいいからな」
どうせ乾燥させるだけだし。
「ありがとうございます。では、これで……」
ユリアーナは軽く頭を下げると、詰所がある方向に歩いていった。
「大変だねー」
「まあ、軍はなー」
俺達もこの場をあとにし、再びレオノーラの案内で歩いていく。
すると、徐々に潮の香りがしだし、カモメの鳴き声が聞こえてきた。
「海だな……」
「懐かしいねー」
「そうだな……」
海なんていつ以来だろうか?
「ジーク君って王都出身じゃないの? いつ海なんて行ったのさ?」
王都は内陸部にあるため、海まではかなり遠い。
「前世では島国の生まれだったんだ」
「へー……じゃあ、泳げたりする?」
レオノーラが驚きも笑いもせずに聞いてくる。
「しないな。釣りもしたことない」
「同じだね。前世でも天才だったの?」
「最高の学校を出て、良いところに就職したな。でも、失敗したわ。やはり性格が良くないんだろう。めちゃくちゃ恨まれたわ」
包丁で刺し殺されたし。
「ふーん……そういう風には見えないけどね」
「嫉妬だろうな。俺はそれにフォローもしないし、さらに恨まれる。王都の本部でもそうだったわ」
アウグストね。
あいつ、飛空艇製作チームのメンバーになれたんだろうか?
「ジーク君に一つだけ約束しよう」
「約束って?」
「どんなことがあっても私が君を恨むことはないよ」
「ありがとよ。涙が出そうだわ」
どうやったらこういう人間になれるんだろうか?
「そんな大層なことじゃないけどね。私もエーリカもアデーレも君と争う意味がないし、恨む要素が皆無だからだよ」
皆無か?
何かあるだろ。
「俺、お前らの勉強を見ているが、『なんでこんなものもわからないんだろう?』が通算で300を超えているぞ」
「知ってる。というか、思ってたより少なかったよ。確かにひどいかもしれないけど、それだけ君と私達の間には差があるのは確かだ。でも、それでも君は私達を見捨てないし、ちゃんと教えてくれるだろう? それは君の良いところであり、評価されるところだよ」
な、なるほど?
「俺はこの路線で間違っていないか?」
「大丈夫、大丈夫。気楽にいこうじゃないか。君はもっと2度目の人生を楽しみたまえよ」
そうするか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます