第059話 成長


 電話を終えると、支部を出て、裏に回る。

 すると、3人が青空のもとで魔石を手に取ってじーっと見ていた。


「おかえり。レオノーラから話を聞いたけど、面倒な相手だったみたいね」


 アデーレが魔石を見たまま声をかけてくる。


「まあな。レオノーラを連れていって正解だったわ。レオノーラが貴族だとわかったら静かになった」

「貴族だからといって、他所の領地だし、できることなんてそんなにないんだけどね」


 そんなもんなのか。


「まあ、レンガ300個だけの仕事になって良かったわ」

「そうね。ジークさんがレンガを作るの?」

「ああ。お前達は水曜石を作ってくれ。俺の中の期限は来週末まで」


 急ぎの依頼だし、そんなものだろう。


「無茶言わないでよ……」

「無理でーす」

「現状、低ランクしか作れてないから来週末までに50個は無理だよ」


 アデーレだけでなく、エーリカとレオノーラも無理と決めつけた。

 まあ、俺も無理だとは思う。


「わかってるよ。途中で俺も手伝いに入るからそれまでは頑張ってくれ。あ、でも、残業はしなくていいぞ。そこまでの仕事じゃない」


 俺の修行方針は無理をさせないことだ。

 女は体力もないし、何よりもモチベーションの保ち方がよくわからん。


「わかったわ」

「頑張ります」

「やろうか」


 3人娘が頷いたので俺もレンガ作りにかかる。


「それと来週、本部から査定員が抽出機と分解機を査定しにくるから対応を頼むわ」

「ジークさんが対応しないんですか?」


 エーリカが聞いてくる。


「本部から来るからな。俺は高確率で嫌われているからエーリカが対応してくれ」


 一番人当たりの良いエーリカでいいや。


「別に嫌われてはいないと思いますけどねー……まあ、わかりました。査定員の方に抽出機と分解機を渡せばいいんですよね?」

「あ、そうだった。電話したら本部長が出て、抽出機と分解機をくれるんだと。査定が終わったら修理してウチで使おう」

「おー! ついにウチにも最新鋭の機械が!」


 いや、最新鋭ではない……

 何年も前のものだ。

 でも、これまでは何もなかったわけだし、こんなに喜んでいるのだから水を差すのはやめた方が良いな。


「ディスペルで機能が停止しているだけだろうから修理自体はすぐに終わる。抽出機と分解機があれば魔力草から簡単にマナを抽出できるし、鉄鉱石を鉄に変えられるぞ」

「すごいです! そんな夢のような機械があるんですね!」


 お前らが必死に作っている水曜石を作る機械も王都の本部にはあるぞ……


「まあ、これで少しは仕事も楽になるだろ」

「ジークさんが来てから良いことづくめですねー」


 そうなんだろうか?

 うーん、今までの長い仕事人生でそんなこと言われたことないわ。


 俺達はその後も作業を続けていった。

 そして、夕方になると、ルーベルトに今日の分のレンガを渡し、仕事を終える。

 その後、いつものようにエーリカの家で夕食を御馳走になると、勉強会をした。

 翌日、この日も朝から支部の裏で青空錬金術をしているのだが、午後から町長から感謝状をもらう予定となっている。


「エーリカ、午後から付き合ってくれないか?」


 色が変わりかけている魔石とにらめっこしているエーリカに声をかけた。


「午後から? 町長さんのところですか?」

「ああ。町長を知らんし、俺は失言が多いからフォローしてくれ」


 一番の得意先である役所の長に嫌われたらマズい。

 多分、領主だし、貴族だろう。

 俺は貴族に嫌われやすいのだ。


「わかりました。町長さんは役所におられますので一緒に行きましょう」

「頼むわ……それとだが、お前ら全員、もう少し魔力を上げても良いと思うぞ。もう慣れただろうし、良い感じにエンチャントできているからEランクは作れると思う」


 昨日からずっとやっているし、もうできるだろ。

 こいつら、センスあるし。


「やってみます」

「濡れたら嫌だねぇ……」

「いっそお風呂でやった方が良いかもね」


 3人娘はそう言いながらもエンチャントに使う魔力を上げる。

 それでも魔石は安定しているように見えたし、割れる気配はない。

 そのまま横目で見ていると、徐々に色が青に変わりだし、魔石が水曜石に変わった。


「できたー」

「まあまあかな……」

「今の私達ではこれが限度ね」


 3つともEランクだな……

 しいて言うならE+って感じでもう少しでDランクの品質はありそうだった。


「それは納品用な。そんな感じでいっぱい作ってくれ。すぐにDランクも作れるようになるだろ」

「わかりましたー。あ、でも、良い時間なんで昼食にしましょうか」


 確かに腹減ったな。


「そうするか」


 俺達は作業を中断し、今日も青空のもとで昼食を食べた。

 そして、昼食を食べ終え、少し話をすると、エーリカと共に役所に向かう。

 すると、隣を歩くエーリカがいつも以上にニコニコと笑っている気がした。


「どうした? 良いことでもあったか?」

「エンチャントでEランクの水曜石が作れましたからね。私的にはものすごい進歩です」


 この前まではレンガやポーションくらいしか作ってなかったしな。


「まあ、エンチャントができるようになったのは大きいな。それが錬金術師として壁だし」

「それですよ、それ。ジークさんが『エンチャントできない奴は才能なし』なんて言うからものすごいプレッシャーだったんです」


 確かに言い方が悪かったな。


「事実だからな。でも、普段のお前らの錬成を見ていたから大丈夫だろうとは思っていたんだ。お前らは教えたことをすぐにできるようになるし、一つ一つが丁寧だから問題ない」


 ちょっと遅いけどな。

 まあ、こればっかりは性格だろうし、仕方がない。


「ほー……師匠はちゃんと見てくれているんですね」

「自然と目に入るからな」


 指導をするという意味では個人のアトリエではなく、今みたいに1つのフロアで固まっている方がいいのかもしれない。


「これからもお願いします! なんかジークさんに教えてもらったら頑張れそうです!」


 別にエーリカは誰であろうと上手くできると思うけどな。


「頑張れ。じゃあ、来週までにDランクの水曜石を1個くらい作ってくれ」

「Dランク……アデーレさんが言ってた通り、お風呂に入りながら作ろうかなー」


 好きにすればいいけど、失敗したら水が噴き出るからお湯が冷めると思うぞ。

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