第050話 錬金術と料理は違う
昼休憩を終え、仕事を再開した俺達は手分けしてレンガとインゴットを作っていく。
そして、夕方の終業時間前にはレンガもインゴットも作り終えることができた。
「できたー」
「やればできるもんだねー。半分以上はジーク君がやったけど」
「私はあまりできなかったわね」
3人共、疲れが見える。
「アデーレは仕方がない。数をこなせば慣れる。薬がいいって駄々をこねていたレオノーラでもできるんだから」
「駄々はこねてないよー」
こねてたわ。
「ジークさん、明日納品に行きます?」
エーリカが聞いてくる。
「いや、どうせ明後日には役所に行くし、その時に持っていくわ」
この依頼は納期に余裕があるし、早く納品したからといってボーナスが付くわけでもでもない。
「あ、打ち合わせがありましたね。では、お願いします」
「了解……さて、終業まであと1時間があるが、今日はいいや」
「え? いいんですか?」
よくはないな。
「やることがないんだよ。次は水曜石の作り方を教えて、皆で作ろうと思うんだが、それは1時間では無理だ」
軍から魔力草も届いていないので回復軟膏も作れない。
「確かに中途半端な時間になっちゃいましたね」
「そうそう。そんでもって俺達が早引きしたところでそれを咎める奴はいない。こういうのは効率的に動くべきだし、結果さえ残せば、ちゃんと8時間労働しなくてもいいと思うんだ」
8時間みっちりやって進捗率が3パーセントしか進まなかった奴より6時間で5パーセント進んだ奴が評価されるべきなんだ。
「まあ、言わんとしていることはわかりますが、なんか気が引けますね」
「考え方を変えてみろ。家に帰って飯を食ったら何をする?」
「今度の試験の勉強ですね」
そう。
俺が教えている。
「もし、残ったとしても今から1時間はやることがないから勉強だろ。だったら同じことだ。むしろ、食事をして脳に栄養が行き渡った状態で集中的にやった方が良い」
「なるほどー」
「わかったか? じゃあ、帰ろう。腹減ったわ」
これが言いたかった。
「すぐに作りますねー。アデーレさんもどうです?」
「え? 夕食も?」
アデーレが俺とレオノーラを交互に見る。
「全部だな」
「アデーレもどうせ外食オンリー生活なんだからエーリカにお金を払って、やってもらおうよ」
アデーレはそもそも自炊をしないようだ。
「あなた達って図太いわね……さすがにエーリカさんに悪いわよ」
「大丈夫ですよー。私はコックさんになりたかったくらいには料理が好きですから。それにジークさんにレシピ本をもらったので作りたいんです。ぜひ感想を聞かせてください」
眩しい子だわ。
「そ、そう? じゃあ、せっかくだし、ご相伴に預かろうかしら?」
「はい!」
俺達は片付けをすると、終業時間にはなっていないが、支部を出て、寮に戻る。
そして、一度解散したが、すぐにエーリカの家に集まることになった。
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす」
「どうぞー」
俺とヘレンがエーリカに招かれて、部屋に入ると、すでに席についているレオノーラとアデーレが見える。
2人が向き合うように座っていたため、アデーレの隣に座った。
「アデーレの隣……私は親愛か」
「愛情……」
そういうこと……
やけに2人がこっちを見ているなと思ったが、2人で俺がどっちに座るかを話していたのだろう。
「関係ないぞ。俺はいつもここに座っているから座っただけだ。エーリカの対面だな」
「エーリカと対立……」
関係ないっての。
仕事場では隣だわ。
「あれ、合コンのテクニックだろ」
「合コン……」
「聞いたことあるわね。男女混合の飲み会でしょ?」
2人が顔を見合わせる。
「行ったことないのか?」
「ないね」
「貴族は行かないわよ」
そんなイメージはあるな。
「エーリカ、合コンとかしたことあるか?」
料理をしている庶民のエーリカに聞いてみる。
「ないですねー。女子会ならあります。そういうジークさんはないんですか?」
「あると思うか?」
「ないでしょうね」
そもそも誘われることもないわ。
空気を悪くする自信だけはあるし。
「まあ、誘われても断るがな」
「そんな気はします……ジークさん、マヨネーズって大丈夫ですか? ものすごい太りそうなんですけど」
「ちょっと付けるだけでいいから大丈夫だよ。そんなに気にするなら特製のダイエット薬をやるぞ。飲めば一瞬で数キロは痩せられる。でも、病院行きは確実だな」
数日は寝込むと思う。
「やめときまーす」
それが良いと思う。
お前ら太っていないどころか痩せているくらいだし。
そのまま話しながら待っていると、エーリカが料理を持ってくる。
今日のメニューはパンとスープとサラダに加えて、唐揚げだ。
「おー、何か知らないのが出てきた」
「何これ? めちゃくちゃな量の油を使ってたみたいだけど」
「ジークさんに教わった鳥の唐揚げです」
この世界には揚げるという調理法がないのだ。
「へー……変わってるわね」
「ジーク君はすごいなー」
「早速、いただきましょう」
俺達は唐揚げを食べだす。
唐揚げを口に入れると、カリッとした食感とジューシーな鳥肉の味が口に広がっていった。
昔、食べた唐揚げと一緒だと思う。
正直、前すぎてあまり覚えていないが……
「おー……これは美味しいね」
「熱いけど、本当に美味しいわね」
「ですね。これはすごいと思います」
確かにすごいな。
「ヘレンも食べるか?」
「そこに置いておいてください。もう少し冷ましてから食べます。実は私、猫舌なんですよ」
うん……
「このマヨネーズという謎の調味料も美味しいよ。サラダにも唐揚げにも合う」
「確かにね。これは美味しいわ」
貴族2人がパクパクと食べていく。
「上手く作れたようで良かったです」
エーリカは本当に料理が上手だわ。
「お店を出せると思うよ」
「出資しましょうか?」
この貴族令嬢共はそんなにハマったのかな?
「錬金術師ですってー」
エーリカはそう言いつつ、まんざらでもなさそうだ。
「じゃあ、店名はアルケミストにしよう」
「錬金術師である自分達が言うのもなんだけど、嫌な店名ね……」
確かに……
とんでもないものが出てきそうだ。
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