第035話 お祝い?


 大佐に魔剣を納品した俺はエーリカとレオノーラと共に支部へ帰った。

 そして、2人の仕事の手伝いをしながら過ごす。


「ジークさん、今日の夜はお祝いをしませんか?」


 鉄鉱石を鉄に変える作業をしていると、エーリカが聞いてくる。


「お祝い? 何のだ?」


 2人のどちらかが誕生日なんだろうか?

 プレゼントを用意していないし、遠慮したい。


「ほら、緊急依頼も終えましたし、魔剣を納品もしたでしょ? そのお祝いです」


 お祝いする要素がないような気がするんだけど?


「いいねー。私が特注のワインを開けてあげるよ」


 レオノーラは乗り気らしい。


「私、飲めないですよ?」

「アルコール度数が低いやつだからエーリカでも大丈夫だよ。それに潰れても私が優しくベッドまでエスコートしてあげる」


 うーん……なんかやる流れになっている。


「お前ら、ちょっと待ってろ。ヘレン」

「行くべきです」


 ヘレンは即答し、丸まった。


「こら、飽きてるんじゃないぞ」

「飽きてませんよ。どうせ夕食をごちそうになるんだから同じことじゃないですか」


 ……確かに。


「お祝いって何するんだ?」

「ちょっとした御馳走食べて、ワインを飲んで、お疲れさまでした、また明日から頑張りましょうっていうだけの会ですよ。一発芸もないですし、パワハラしてくる人もいません」


 まあ、エーリカとレオノーラだしな。


「出た方がいいわけか」

「もちろんです。ジーク様も頑張りましたが、緊急依頼の方はエーリカさんとレオノーラさんが頑張っていたじゃないですか。お弟子さんの成長を祝福するべきです」


 おー……胸に刺さるな。

 でも、俺は自分の師から祝われたことがない……

 まあ、あんな人だしな。


「わかった。参加しよう」


 飯食ってワイン飲むだけだ。

 明日は休日だし、ちょうどいいだろう。


「はい。ジークさんは何か食べたいものはありますか?」

「ない。エーリカが作るものは何でも美味いし」


 実際、これまで作ってくれたものは全部美味かった。


「作りがいのない亭主だねー」


 レオノーラがやれやれといった感じで首を横に振る。


「レオノーラも作ってないだろ」


 お前に言われたくない。


「作る側からしたら喜ぶ顔が見たいじゃないか。それはエンジニアである私達にはわかるでしょ」


 わからないが?


「うーん……食べたいものねー? ヘレン、あるか?」

「昔、ジーク様が作ってくれたハンバーグは美味しかったですね」


 それだ。


「確かにハンバーグは美味いな。エーリカ、それ」

「あの、ハンバーグって何ですか?」


 あれ?


「ヘレン、こっちの世界にハンバーグってないっけ?」

「さあ? でも、ジーク様が作ってくれたもの以外を見たことがないですね」


 ないのか……

 そんなに難しい料理じゃないと思うんだが……


「こっちの世界って何だろ?」

「しっ、温かく見守ってあげましょう」


 ……なんか痛い人と思われてしまった。


「えーっと、ハンバーグはひき肉とみじん切りの玉ねぎを混ぜて、こねたやつを焼くだけの非常に簡単な料理だな」

「涙が出ますけどね」


 まあ、玉ねぎはね。


「へー……ジークさん、一緒に作りましょうよ」


 えー……

 あ、でも、一回作ったら今度からは作ってくれるか。


「ヘレン、こうなったら俺が知っているレシピをエーリカに教えるのはどうだ?」


 前世の学生時代は貧乏だったからバイト経験がかなりある。

 特に賄いやつまみ食いができる飲食店なんかは飯代が浮くから結構やった。


「良いと思います。でも、実家の料理を教え込むというのが旦那ムーブですね」


 そんなもん知るか。


「ほっとけ。どうせ俺は作らないんだし、活用できる奴に教えた方がいいだろ」

「まあ、そうですね。良いと思います」

「よし、エーリカ、ハンバーグを一緒に作ろうじゃないか。ついでに覚えている範囲のレシピをまとめるから後で渡すわ」


 エーリカなら適当に書いても調整して美味く作れるだろ。


「わー……ありがとうございます。でも、ジークさんって王都出身ですよね? なんでそんな料理を知っているんですか?」


 めんどくせーな。


「俺は頭がラリッているから神様からの啓示があったんだよ」

「すごい適当ですね……」

「説明するのがめんどくさくなったんだね……」

「ジーク様、もうちょっとあるんでしょ……」


 前世のことを話しても仕方がないだろ。


 俺達はその後も仕事を続けていき、定時になったので3人と1匹で買い物に行った。

 そして、一度解散した後にエーリカの家に集まると、皆でキッチンに集まる。


「えーっと、まずは肉をひき肉にする。道具はこれだな」


 空間魔法から自作のミートミンサーを取り出した。


「何だい、これ?」


 レオノーラが聞いてくる。


「この穴に肉の塊を入れて、このハンドルを回すと肉がミンチになる」

「おー……猟奇的」


 確かに……


「魔女がやれ」

「魔女? あ、私か」


 そんなでっかい帽子を被っているのはお前だけだ。


「えーっと、こうかな?」


 レオノーラは買ってきた肉の塊を穴に設置した。

 そして、ボールを置くと、ハンドルを回していく。


「おー! ひき肉が出てきた! なんか楽しい!」


 こっちは猟奇的な魔女に任せよう。


「次は玉ねぎをみじん切りだな……エーリカに任せた」

「はーい」


 エーリカは玉ねぎの皮をむくと、半分に切った後に切り込みを入れていく。


「包丁使いが上手いな」

「いつもやってますからね。実は錬金術師になれなかったら料理人になりたかったんですよ」


 へー……


「私専属の料理人だね」

「魔女は笑いながらひき肉を作ってろ」

「うひひ、ひき肉にしてやるー」


 ノリの良い魔女だわ。


「みじん切りは涙が出るんですよねー。なんかそういう道具はないんですか?」


 そう言われたので肩にいるヘレンを掴むと、エーリカの顔に引っ付ける。


「前が見えませんよー」

「うーん……」


 洗濯ばさみでも使うか?


「ジーク様、なんか材料を粉々にする機械がありませんでしたっけ? ほら、野菜を食べやすいようにしてたやつです」


 あ、フードプロセッサーがあったわ。


「これか」


 空間魔法からフードプロセッサーを取り出す。


「何ですか、これ?」

「ミキサーの仲間とでも思ってくれ。ここに玉ねぎを入れるだろ? それでスイッチオン」


 すると、あら不思議。

 中にある刃が玉ねぎをみじん切りにしてくてくれる。


「おー、これはすごいですね! ジークさんって全然使ってない便利グッズをいっぱい持っていそうです」


 修行の一環として、前世にあるやつを作っていたからな。


「そうだなー……レオノーラ、ひき肉はできたか?」

「うひひ、できたよ」


 レオノーラが持っているボールにはひき肉が入っていた。


「エーリカ、このひき肉に玉ねぎのみじん切りを炒めたやつを混ぜて、丸く整形するんだ。それを焼けばいい」


 パン粉は……別にいいか。


「わかりました。あとはこっちで作るから大丈夫です。2人はリビングで待ってて」

「頼むわ」

「ありがとう、我が嫁」


 俺とレオノーラはリビングに戻ると、テーブルにつく。


「レオノーラ。来週、アデーレが来るんだが、一緒に空港まで迎えにいかないか?」

「そこは王子様が一人で行くべきじゃない?」

「王子様は口と性格と性根が悪いんだ」


 しかも、王子様じゃなくて、ド庶民だから救いがないんだよ。


「うーん……でも、やっぱり一人が良いと思うよ。ポイントを稼いでおきなよ」


 一人かー……

 やはり頼るべきはヘレンだな。

 

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