第034話 魔剣を納品 ★


「大佐、錬金術師協会のジークヴァルト殿をお連れしました」

『ああ、入ってもらえ』


 部屋の中から大佐の声が聞こえてくると、ルッツが扉を開き、中に入るように促してきたので中に入る。

 部屋の中は壁一面に本棚が設置されていた。

 さらには執務用のデスクがあり、大佐が座っている。


「すまん。かけてくれ」


 大佐がペンで応接用と思われる対面式のソファーを指したので腰かける。

 すると、すぐに大佐が立ち上がり、対面に座ってきた。

 チラッと斜め後ろを見ると、ルッツが俺の後ろに控えている。


「お忙しかったでしょうか?」

「いや、そこまででもない。少佐の後始末だな」


 後始末……

 他にも不正があったのかな?

 まあ、どうでもいいか。


「さようですか。本日はご注文の魔剣を持って参りましたのでご確認ください」


 正面にあるローテーブルにレオノーラが作ってくれた木箱を置く。


「随分と早いな」

「優先した方がいいと思いましたので……まあ、正直に言うと、他に仕事がないんですよ」


 役所の仕事は2人に任せたし。


「そうかね。こちらとしても本来なら協会に頼みたい仕事がいくつもある。だが、そちらの支部の状況を見る限り、それらの仕事ができるという判断ができないんだよ」

「申し訳ございません。御存じでしょうが、これまでは10級が2名という協会としても異常な状態にありました。色々と事情がありましてね」

「事情は言わなくていい。こちらは貴殿より長くこの町にいるし、色々な町とも繋がりがあるのだ」


 事情は知っているわけだ。


「そうですか。まあ、そういうことです。一応、私も赴任してきましたし、今度、また別の者が赴任する予定です。エーリカとレオノーラも経験がないだけで優秀ですし、以前のようなことはないでしょう」


 こっちにも営業っと。


「ふむ、わかった。こちらとしても高額な民間よりも質と値段が保証されていると協会に頼みたい。徐々に仕事を回そう」

「ありがたいことです」

「さて、魔剣を見せてもらおうか……」


 大佐が木箱を引き寄せ、蓋を開ける。


「属性については指定がありませんでしたので炎の魔剣にしました。鞘や装飾はそちらで用意するということでしたので抜き身です。また、質としてはAランクになります。こちらが鑑定書です」


 そう言って鑑定書を渡した。


「ふむ……」


 鑑定書を受け取った大佐が読み込む。


「信用できないなら別の鑑定者に確認してもらっても結構です」


 誰が見てもAランクだがな。


「いや、問題ないだろう。良い剣だな。私が欲しいくらいだよ」


 大佐が鑑定書を置き、魔剣を取り出して掲げる。

 すると、電灯の光が反射し、魔剣がきらりと光った。


「ありがとうございます。もう1本、依頼されますか?」

「1500万エルもする魔剣をそう簡単には発注できんよ」


 まあね。

 しかし、この魔剣代はどこから出るんだろ?


「では、こちらが請求書になります」


 エーリカが書いてくれた請求書をテーブルに置く。


「わかった。すぐにでも振り込んでおこう」

「よろしくお願いします。では、私はこれで失礼します」


 そう言って立ち上がる。


「うむ。ご苦労だった」


 俺は一礼をし、部屋を退室した。




 ◆◇◆




 私はジークヴァルトが部屋を退室した後も納品された魔剣を掲げ、じーっと見続けた。


「素晴らしい……」


 怪しく光る赤い剣は誰がどう見てもなまくらじゃないことがわかるだろう。

 鑑定書など見なくてもAランクの質があることはわかる。


「報告によりますと、大佐が依頼されてすぐに鉱石屋で鉄鉱石と紅鉱石を買ったとのことです」


 ルッツが報告してくる。


 特別な材料は使っていないのか……

 あの支部にそんな上等な触媒のストックがあるとは思えない。


「ルッツ、見てみろ」


 そう言ってテーブルに魔剣を置く。

 すると、ルッツがこちらにやってきて、魔剣を手に取った。


「これは……」

「お前の目から見て、どう思う?」

「私も何回かは魔剣を見たことがあります。ですが、これほど見事な魔剣は初めてです」


 それはそうだろうな。


「私は長い事、この職に就いているし、何本も魔剣を見てきた。だが、その魔剣は五指に入る……いや、この言い方を侮辱と取る男だったか……一番で良いわ」


 それほどまでに見事な魔剣だ。

 そもそもこの国にAランクの魔剣が何本あるというのか。


「それほどですか……ジーク殿は本当に優れた錬金術師なのですね」

「らしいな。その魔剣でよくわかったわ」


 あの魔女の一番弟子なのは本当だろう。

 あれほど大口を叩き、自信に満ち溢れているわけだ。


「私はどうすれば?」


 ルッツが魔剣を置き、聞いてくる。


「とりあえずは適当に仕事を回しておけ。あそこにはいずれ大口の依頼を任せるつもりだ」

「わかりました……しかし、ジーク殿はいつまでここにいてくれますかね? すぐに引き抜かれそうですけど」


 これほどの実力を持つ3級の国家錬金術師だしな。

 何よりもまだ若い。


「どうせ王都に行かないといけないし、その辺を少し探ってくる。振り込みと依頼の見繕いを頼む」

「はっ!」


 さて、鞘と装飾を揃えて、王都の元帥に渡すか……

 本当は実力を確認するための依頼だったが、ああ言ってしまった以上、渡さないといけない。

 もったいないが、仕方がないだろう。

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