第026話 栄養は大事


 マナポーション作りを始めて2日が経った。

 エーリカとレオノーラはせっせとマナポーションを作っているが、俺は昨日ですべての魔力草からマナを抽出し終えたので今日からは魔剣作りに入る。

 本当は2人を手伝った方が良いのだろうが、2人の成長のために任せることにしたのだ。


「朝は眠いなー」

「そういうもんですよ」


 朝起きて、準備をすると、ヘレンと共に支部に向かった。

 そして、30秒で到着し、2階に上がる。

 すると、エーリカとレオノーラはすでに来ており、錬金術の本を読んで勉強していた。


「おはよう」


 近づくと、挨拶をする。

 とても大事なことだ。


「おはよー」

「おはようございます」


 2人が顔を上げた。


「ん?」


 俺のデスクの上に薄いピンクの封筒が置いてある。


「アデーレさんからですよー」


 アデーレ……

 相変わらず、返信が早いな。


「読んでみるか……」


 まだ就業開始までは時間があるので席につくと、封筒を開け、手紙を読み始めた。


「……ふーん」

「何て書いてあります?」


 ヘレンが聞いてくる。


「世間話だな……」


 この前行ったレストランの料理が美味しかったとか、喫茶店のお茶の香りが良かったとか……


「そうですか……仕事のことは? お聞きしましたよね?」

「いつものように頑張っていますって書いてあるだけだな」


 愚痴が書いてあるかと思ったが、全然書いてない。


「ん? それだけですか?」

「ああ。あとは世間話だ。しかも、今回は質問がない」


 これはもう返信がいらないのかもしれない。


「なんか怒らせましたかね?」

「なんでだよ。怒らせるようなことは書いていないだろ」


 ちゃんと考えて書いたわ。


「うーん、どうですかねー? 返信はどうされます?」

「いらんだろ。あとは季節ごとに見舞いの手紙でも書く程度だな」


 それで十分。


「えー……エーリカさん、どう思います?」


 ヘレンがエーリカに聞く。


「うーん、私はアデーレさんを知らないからなー……まあ、ジークさんの言うように季節ごとに手紙を出す程度で良いとは思うよ。レオノーラさんはどう思います?」

「私もそれで良いと思うよ。確認だけど、ロマンスはなかったんでしょ?」


 レオノーラが聞いてくる。


「ないな。この前も言ったが、友人かどうかも怪しいレベルだ」

「じゃあ、いいんじゃない? 気になるなら電話でもしてみたら?」

「いや、それはいいや」


 電話はちょっとハードルが高い。

 正直、地雷が多すぎるアデーレと何を話せばいいのかわからないし。

 俺のせいだけど。


「アデーレさんは絶対にジーク様に好意があると思ったんですけどねー」


 ねーよ。

 もし、あったら心配になるくらい男を見る目がないわ。


「ひとまず、アデーレはいい。仕事をしよう」

「そうだね。緊急依頼だし、そっちが優先」

「頑張りましょう」


 俺達は就業時間になったので仕事を始めた。

 この日も延々と作業を続け、それぞれの作業を続けていく。

 そして、夕方になり、終業時間になった。


「今日はここまでだな。お前らはどんな感じだ?」

「このままのペースで行けばボーナスが出る10日以内に終わりそうだね」

「そうですね。ジークさんがマナを抽出してくださいましたし、レオノーラさんと手分けをすれば十分に間に合うと思います」


 良い感じだな。


「じゃあ、今日は終わりにして、帰ろうか」

「そうだね。お腹が空いたよ」

「ですねー」


 俺達は片付けをし、支部を出ると、30秒で寮のアパートに到着する。


「ホント、早くていいわ」

「業務の途中でシャワーに行けるレベルだからね」


 確かに。


「2人共、30分後に来てくださいね」

「わかった」

「いつもすまないねー」


 俺達は一度、解散し、各自の部屋に入った。

 そして、一息つくと、すぐに30分が経過したため、エーリカの部屋に向かう。

 すると、すでにレオノーラがテーブルについていた。

 レオノーラはいつもの三角帽子を被っておらず、太ももをマッサージしている。


「そんなに痛いのか?」


 レオノーラの対面に座りながら聞く。


「やっぱり運動不足だよ。通勤時間が短いのはいいけど、その分、歩かないしね」


 確かにそうだな。

 仕事もほぼデスクワークだし、まったくと言っていいほど歩いていない。


「よし、ビタミン剤をやろう」


 そう言って、錠剤をテーブルに置く。


「何それ? 薬?」

「サプリメントだ。俺は不足する栄養をこれで補っている。このビタミンは疲労回復なんかを助ける役割があるんだ」

「へー……君って、昼間の魔導銃とやらもだけど、色々作っているんだね」


 レオノーラはそう言いながらビタミン剤を手に取り、お茶で飲んだ。


「まあなー。あ、エーリカ、これやる」


 空間魔法からミキサーを取り出し、テーブルに置く。

 すると、キッチンにいるエーリカがこちらにやってきた。


「これ、何ですか?」

「前に言っていたミキサー。ヘレンがかぼちゃのスープを飲みたいって言ってるから作れ」


 断ることは許されない。


「かぼちゃはあるけど……ジークさんってヘレンちゃんが最優先なんですね」

「こんなに可愛いんだから仕方がないだろ」


 朝になるとにゃー、にゃーと起こしてくれるんだぞ。


「まあ……これ、どうやって使うんです?」


 エーリカがちょっと呆れながらもミキサーを手に取った。


「あ、教えます」


 ヘレンがエーリカの身体を器用に登っていき、肩にとまると、エーリカがそのままキッチンに戻っていく。


「可愛い猫ちゃんだねー」

「だろう?」

「うん。ところで、ビタミン剤とやらを飲んだけど、痛みが治まらないんだけど?」


 そりゃそうだろ。


「痛み止めじゃなくて、栄養剤だぞ。翌日に効くんだよ。痛み止めがいいならポーションでも飲め」

「そうなんだ……役に立つのかね?」

「栄養バランスは大事だぞ。若いうちはいいが、将来、肌が荒れたり、太っても知らんぞ。俺達はストレスばっかりのデスクワークだからヤバい」

「ふーん……」


 俺達が待っていると、料理が完成し、皆で食べる。

 もちろん、かぼちゃのスープもあり、ヘレンが美味しそうに飲んでいた。

 そして、レオノーラと共にエーリカもサプリメントを要求してきたので渡した。

 どうやら話を聞いていたらしい。

 怖いからいらないって言ってたくせに……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る