第025話 マナポーション作り


 採取を再開し、しばらくすると、エーリカとレオノーラが立ち上がった。


「終わったー……」

「腰にくるねー……」


 エーリカが両腕を上げ、身体を伸ばし、レオノーラが腰をとんとんと叩く。


「お疲れ。帰ろうか」

「そうしましょう」

「あー、お風呂に入りたい」


 疲れただろうしなー……


「帰ったら入ってこい。職務時間中だが、問題ない」


 気遣い、気遣い。


「ありがとうございます!」

「ジーク君は良い人だなー。亭主関白じゃなかったね」

「はいはい。じゃあ、帰ろう」


 俺達はさっさと森を出ると、門を目指して歩いていった。


「ジーク君、さっきの魔法は何だい?」


 歩いていると、レオノーラが聞いてくる。


「魔法? エアリアルドライブか? あれは中級風魔法だな」


 なお、映像がショッキングなので封印することにした。


「そっちじゃなくてオークの足を撃ち抜いた方」

「あ、私もそれが気になりました。何ですか、あれ?」


 エーリカも気になったらしい。

 まあ、この世界には銃はないからな。


「あれは魔法というよりも魔道具だな。昔、まだロクに魔法が使えなかった時に護身用として作ったんだ。魔力を込めればレーザーが発射されるという画期的な武器だな」


 つまり弾が要らないわけだ。

 無限弾ができたとテンションが上がった。


「何それ? 見せて、見せて」

「ほれ」


 レオノーラが袖を引っ張ってきたので魔導銃を取り出し、渡した。


「ほー……」


 レオノーラがまじまじと観察する。


「人に向けるなよ。事故ると死ぬぞ」

「これ、私でも使えるのかい?」

「魔力を込めるだけだからな。攻撃魔法を使えない錬金術師でも使える」


 すごかろう?


「へー……なんかすごいね。軍にでも売りなよ。それで一財産が築けるでしょ」

「死の商人はごめんだ。俺が作ったものでたくさんの人が死ぬことになるんだぞ」


 冗談じゃないわ。


「確かにね……これがあれば私達でも攻撃魔法を使えるようになるようなものだ。これはちょっとマズいねー。何がマズいって下手をすると、私達まで実戦投入の可能性が出てくる」

「えー……そういうのが嫌で錬金術師になったのに嫌ですよー」


 俺も嫌だわ。

 だから魔術師資格も5級で止めているのだ。

 3級まで余裕で取れるだろうが、それをすると、魔術師の道に行けって言われそうだもん。


「これは個人で使うやつだ。この魔導銃のことは誰にも言うんじゃないぞ」

「絶対に言わないよ」

「言えませんよねー」


 こいつらは大丈夫だろう。

 自分達の立場も危うくなるし、何よりもこいつらは信用できる。


「ん?」


 確かにわかりやすい2人ではあるが、信用ねー……


「どうしたの?」

「何か気になることでもありました? もしかして、また魔物ですか?」

「いや、なんでもない」


 他人を信用できると思ったのがおかしかっただけだ。


 俺達は町まで戻ると、門を抜け、支部に戻った。


「いやー、疲れたねー。久しぶりに身体を動かしたよ」

「デスクワークですから全然、動かすことがないですもんね」


 人のことを言えないけど、不健康だわ。


「お前ら、風呂に入ってこいよ。俺はマナを抽出しとくから」

「本当にいいのかい?」

「というか、ジークさんは汗を流さないんですか?」


 汗と言われてもな……


「いや、俺は立ってただけだし……気にせずに行ってこい。あ、カバンをくれ」

「はい、どうぞ。じゃあ、行ってきます」

「悪いねー」


 2人がカバンを俺のデスクに置き、家に戻っていったのでカバンから魔力草を取り出し、マナを抽出する作業に入ることにした。


「さてと……」


 一つの魔力草を手に取り、小瓶の中に入れる。

 そして、錬成すると、赤い液体に変わった。

 これがマナの原液であり、ここから不純物を取り除く。

 それに薬草で作った通常のポーションを混ぜればマナポーションができる。


「あれ? 薬草の在庫ってあるのか?」

「さあ? 確認してみましょう」


 ヘレンと共に階段を上がり、倉庫に行く。

 相変わらず、空きが多く、ロクに物がなかったが、棚を見ていく。


「うーん……」

「ありますー?」

「あー、乾燥したやつがあるわ」


 棚には日を持たせるために乾燥させた薬草の束があった。


「乾燥させても大丈夫なんですか?」

「ちょっと質が落ちるけど、Eランクなら問題ないだろう」


 薬草を手に取り、2階に戻る。

 そして、席につくと、魔力草からマナを抽出する作業に戻った。

 時折り、ヘレンを撫でながら作業を続けていると、エーリカとレオノーラが戻ってくる。


「いやー、さっぱりしましたねー」

「足と腰が痛いけどね」


 2人はそう言いながら席についた。


「エーリカ、3階にあった乾燥した薬草を使ってもいいか?」

「あ、どうぞ。この前のポーション作りの依頼の残りですんで」


 俺が赴任してきた時にエーリカがやっていたやつか。


「ジーク君、マナポーション作りだけど、どう分担する?」


 レオノーラが聞いてくる。


「レオノーラはマナポーションを作れるんだよな?」

「そっちが好きでこの世界に入ったからね。得意だよ」


 そうなると……他の依頼もあるし、時間を優先した方が良さそうだな。


「俺が魔力草からマナを抽出するからエーリカは乾燥薬草でポーションを作ってくれ。レオノーラはそれらの材料でマナポーションを作ってくれ」

「わかりましたー」

「作業を分担するわけね。了解」


 俺達は役割分担を決めたのでそれぞれの作業に入り、進めていく。

 そして、4個目の魔力草からマナを抽出し終え、レオノーラのデスクに置くと、レオノーラが呆れたような顔で見上げてきた。


「ジーク君さー……君、いくらなんでも錬成が速すぎない?」

「このくらいは普通だ」

「いや、絶対に普通じゃないでしょ。しかも、何これ? 私達があんなに雑に採取した魔力草からこんな純度の良いマナを抽出できるの? これ、Cランクはあるよ」


 ほう……レオノーラは鑑定もできるのか。

 資格を取らせよう。


「俺は3級だ」

「3級ってここまでできるの?」


 どうだろ?

 多分、このスピードを維持してこの精度は無理な気がするな。


「俺は実務経験がないだけで今すぐに1級を受けても受かる。この国に俺以上の錬金術師はおらんからな」


 多分……


「すごい自信……もはや嫌味を通り越してかっこよく見えるね」

「すごいですよねー」


 善度100パーセントのエーリカがうんうんと頷く。


「お前らもこのレベルとは言わんが、十分に素質はあるからもっとできるようになるぞ。9級、8級なんてすぐだ」

「やってみるよ、師匠」

「頑張ります、師匠!」


 今度は師匠になったし……

 まあ、亭主関白の旦那様よりかはいいか。

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